17春闘

賃上げ復活4年で顕在化した春闘の構造変化

荻野 登


 2017年の春闘は3月15日に最大のヤマ場を迎え、相場の形成役の自動車、電機など金属大手の回答は総じて昨年実績を下回った。 メディアは官製春闘「失速」の論調となり、昨年並みのベアを経済界に要請した安倍首相も、「欲を言えばもう少し力強い賃上げを望みたかった」と述べた。一方、労使当事者は賃上げが四年連続したことを高く評価した。


 その後の推移をみると、相場形成・波及メカニズムに構造的な変化の兆しが出てきている。非製造業系で金属大手を上回る回答が散見されるほか、中小企業、非正規労働者の回答が大手や正社員を上回る傾向があらわれている。ベア回答が復活してから4年日を経て、さまざまな異変が起こっている。





相次ぐトヨタ超え


 異変はまず、大手自動車メーカーであらわれた。相場形成役のトヨタ自動車は基準内の引き上げ(定昇給相当除く)1300円で前年実績を200円下回った。一方、本田が昨年を500円上回る1600円、スズキも300円増の1500円で妥結。昨年同額がダイハツとヤマハ発動機で1500円、前年割れながら日野が1400円となった。これだけ多くのメーカーがトヨタ超えを回答したのは前例がない。グループ企業の労組でつくる全トヨタ労連でも加盟組織の約3割にあたる37組合で1300円を上回ったと発表した。大手電機メーカーは開発・設計職(30歳相当)のポイントで、前年比500円減の1000円で決着。この結果、金属大手では1000~1500円の賃上げ相場が形成された。しかし、後続の中小企業や非正規雇用に対する回答は、人手不足の追い風もあり前年実績を上回る流れが形成されている。


 連合の4月11日時点での集計によると、ベアなど賃上げ分が明確な1576組合の賃上げ額は、全体平均で1330円(0.45%)だが、300人未満は1373円(0.56%)となり、過去に例のない額・率とも全体平均超えとなった。


非製造業や内需系に目を転じると、2000円超えの回答が目に付く。 UAゼンセン傘下のドラッグストア(マツモトキヨシ4000 円)、スーパー(マルエツ3200 円、いなげや3027円等)などでは3000~4000円の高めの回答が目につく。さらに、フード連合傘下でも味の素の1万円を筆頭に、日本製粉3300円、 J T2500円、ロッテ2304円、森永2000円、明治2000円、サッポロビール2000円など昨年を上回る回答が相次いでいる。また、NTTグループでは2年続けてのトヨタ超えで決着している。





産業構造の変化が春闘にも影響


 春闘のパターン・セッターは1970年代後半に鉄鋼から自動車に移った。といってもトヨタ自動車が天井となるパターンが約40 年も続いてきた。第4次産業革命ともいわれる産業構造の大転換が春闘にも影響を及ぼしてきたといえそうだ。


 非正規雇用では率で正社員を上回るトレンドが継続している。 U Aゼンセンの3月末集計によると、短時間組合員190組合の時給引き上げ額は、単純平均で22.3円(2.39%)で、同時点での正社員の引き上げ率を上回っている。 昨年はじめて最終集計で短時間組合員の賃上げ率が正社員を上回ったが、本部はこの背景に最賃引上げと同一労働同一賃金ガイドライン案の影響をあげる。企業内における分配構造にも変化が生まれている。


岡崎審議官報告を聞いて

「均衡」の範囲を明確にすることが重要

小林 良暢

 岡崎厚生労働審議官のレクは、大変丁寧な説明で政府の働き方改革がよく理解できた。ただひとつ、私が気になった点は、「正規か非正規かという雇用形態に関わらない均等・均衡待遇を確保し」というように、各所に「均等・均衡」という言葉が聞かれたことである。

 じつは、これまで政府は「均衡」という言葉を使うのを慎重に避けてきた。昨年12月の実現会議に提出された「ガイドライン」では、前文の冒頭に「均等・均衡」と派遺労働者のところに使われていただけだったが、3月28日の「実行計画」は、基本給や各種手当、一福利厚生、教育訓練など全項目に「均等・均衡」が盛り込まれた。

 労働界では「均衡」というと、「4/5ルール」が常識。安倍首相は「ドイツ並みの8割をめざす」と言っているが、8割のさらに4 /5だとすると6・4割までもありで、これでは元の黙阿弥だ。これからは、「均衡」の範疇を明確にすることが重要だ。注視したい。



膠着していた議論を 労働時間は法的な縛り進めたことは評価

澤路 毅彦

 実現会議の議事録を読むと、会議自体で深い議論がなされた形跡はない。重要だったのは事前折衝、特に、「同一労働同一賃金」と長時間労働規制にかかわる労使との交渉だ。

 その結論の評価は難しい。「100点」とはとても言えないが、「0点」というのも、ないものねだりだろう。膠着していた議論を大きく進めたことは間違いないからだ。ただ、女性や高齢者が働きやすい環境を整えるという当初の目的を達成するには、今回の結論だけでは不十分なことはっきりしているように思う。

 実行計画には、こっそりと(?)盛り込まれたテーマもある。個人的に注日しているのは、非雇用型テレヮークの法的保護を検討することが明記されたこと。ヒアリングでも岡崎さんが言及していた。委託業務型の働き方の法的枠組みは、研究者間では議論されてきたが、政策レベルの議論はこれから。今後に注目している。



労働時間は法的なしばりをもっと厳格に

中村 章

 私は、ミスター時短を任じていた時期があった。1990年代の半ば、労基法の改正が行われた時期である。当時、労働時間は単なる労働条件ではない。仕事の仕組み、人の使い方の善し悪しが反映されたものだ。時短は、仕事の仕組み、人の使い方の見直しを不可避にするから、結果として企業を強くする。監督行政は自信を持って時短を推奨すべきと言っていた。

 この考えは、今も変わらない。 そんな日で、今回の計画を見ると、何とも腰が引けた感が否めない。 時間外労働の上限規制ひとつとっても、労基法70年の歴史の中での歴史的な大改革という割には上限時間の設定も甘いし、猶予業種がいくつもあって、時間管理についての定見のなさが露呈しているように思える。

 賃金と違って、労働時間は法的に縛りをかけ、強制することができる。強制された産業界は仕事の仕組み、人の使い方の見直しをせざるをえなくなり、結果として体質強化が進む。働き方改革を言うのであれば、そんな腰の据わった視点が必要なのだと思う。