私の主張

「労働を軸とする文化」の視点を

小畑精武


 安倍首相は今国会の施政方針演説で「誰もがその能力を発揮できる、柔軟な労働制度へと抜本的に改革します。戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革であります」と大見得をきった。「改革」の内容はすでに紹介されている。「長時間労働慣行の打破」と「同一労働・ 同一賃金」が柱だろう。しかし、ほんとうに過労死をなくすような「長時間労働の慣行打破」は可能なのか?職務分析評価に基づくべき「同一労働・同一賃金」は手当などの「均衡・均等待遇」に留まっていないか?


 真のねらいは「柔軟な労働制度へと抜本的に改革します」という言葉に隠されている。安倍首相は「世界で一番企業が活躍しやすい日本にする」と打ち上げたが「世界一労働者が働きやすい日本」とは決して言わなかった。罰則を備えた「時間外労働の上限規制(週45時間)」を設けたと自画自賛している。しかし、未だに批准されていないILO第1号条約(8時間労働制)の原点が見失われていないか。「人間らしい生活ができる残業なし」の8時間労働制を夢に終わらせてはならない。月45時間の「残業」を常態化してはならない。そのためには8時間を超えた場合の割増率を罰則(ぺナルティ)として世界の標準である50%にすることが必要に思う。



メルボルンの888タワー

 オーストラリア・メルボルンにある「888タワー」は19世紀半ばに勝ち取られた8時間労働制を記念し1903年に建設された。「8時間は労働(Work)、8時間は人間性の回復(Recreation)、8時間は睡眠・休養(Rest)」を示している。 そこに「残業時間」が入る余地はない。残業時間が割って入り込めば、その分人間らしい生活と文化が削られていくからだ。「働き方改革」は「労働を軸とする文化の改革」でもある。「働かせ方改革」に終わらせてはならない。


(「会報194号」(2018年2月25日発行))





「働き方」と「働かせ方」の矛盾を孕んだ法案

溝上憲文


 安倍首相は一連の法改正を「働き方改革」と言っているが、目玉である同一労働同一賃金と労働時間の罰則付き上限規制等は労働者と企業に働き方の見直しを促す基本的枠組みの整備にすぎない。言うまでもなくこの仕組みを活用するかどうかは労使の判断に委ねられている。


 同一労働同一賃金と労働時間の上限規制は処遇向上と健康確保を目指すものであり、労働者に優位な仕組みといえるが、一方、高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制の拡大は″働かせ方〟を柔軟にできる、経営サイドのフリーハンドを高める仕組みである。


 同一労働同一賃金を徹底しようとすれば、従来以上の人件費増は避けられない(正社員の処遇を下げないという前提)。上限規制を遵守しようとすれば、業務量削減のためのIT化投資や人員補充のための人材投資も必要になるだろう。一方、高プロと裁量労働制の拡大は職種と年収は限定されるが、短期的には人件費削減効果のメリットと中・長期的には貢献度の高い自律型の労働者の増加を促すかもしれない。


 ただしその前提として出勤・退勤の自由が保障され、会社との「合意」を可能にする交渉力を持つ個人である必要がある。ちなみに最近の労働市場で人材需要が多いAI やフィンテックなどの特殊技能を持つ高度テクノロジー人材は双方の合意で高年収の契約社員化の形を取るケースが増えているが、彼らは新制度に見合う人材かもしれない。だが制度を悪用し、従来の裁量労働制のように出勤・退勤の自由や交渉力のない社員に適用すれば長時間労働や過労死を招きかねないリスクもある。


 いずれにしても法改正は最低限の枠組みにすぎない。それを自社の制度に落とし込んでワークス夕イルを変革していくには個別労使の制度づくりや運用など不断の努力と見直しが不可欠だ。企業の持続的な成長を促す人事・人材戦略として、労使が知恵を絞って前向きに取り組んでいくかどうかが間われている。


(「会報194号」(2018年2月25日発行))

私の主張

三六協定改定の本気度が問われる

岡山 茂


 働き方改革として通常国会に提出される予定の労働基準法改正案のうち、三六協定による時間外労働に法律による上限規制を設けることになり、「特別の場合」の上限については、全国労使のトップ交渉により、月100時間(未満) となった。連合は過労死ラインとされる100時間が法定されることに抵抗したが、100時間未満で妥協した。これは悲願であった法律による(罰則付き)上限規制を実現するためにもやむを得ない面もあったと思う。


 間題はこれからである。法施行後、個別労使において実際に締結する三六協定について、 連合は具体的に何時間以下と指導するかである。元来、労働者側には、三六協定を締結する義務はない。また、何時間にするか、使用者側(ひいては経団連)の了解を得なければならないものではない。労働者側に拒否権、決定権がある。


 特に、重要なのは、この改正が成立した場合には、施行時に全国の企業、事業場において、一斉に三六協定が改正締結されることになる。これは最大のチャンスである。連合の指導力、あるいは長時間労働撲滅への本気度が間われることになる。


 時間外労働が減れば、労働者の収入減になる。それを補うよう、同時にしっかりベースアップ要求する必要がある。昨今增え続けている企業の内部留保を考えれば十分に可能である。


(「会報193号」(2017年12月25日発行))



人間・労働の尊厳を守ること
それこそ労働の原点だ

飯田 康夫


 昭和年代の労働4団体時代に別れを告げ、平成元年(1989年) 11月に官民挙げての労戦統一の母体として800万人「連合」が誕生して間もなく30年日を迎える。


 社会的に存在感のある、社会のパワーバランスの一角を担う連合の力量発揮が期待されたが、果たして前進したと言えるのか。発言力、行動力に欠けてはいないか。


 東日本大震災では、民間で最大のボランティアを派遺し、連合の存在感を発揮した事実は大いに評価されて良い。


 この30年の間に、ベア要求・妥結の姿も、雇用環境も労使関係も様変わりの様相を見せている。


 いま、連合に期待するものとしては、人間の尊厳の守り手としての期待がある。尊厳が蔑ろにされるようなことには、厳しく対時することへの期待である。同時に働くものの生活の改善・安定に向けた労組の力量発揮への期待、日本の経済社会の健全な発展に寄与することへの期待、平和運動への期待などがあろう。


 労組リーダーは、①この人間の専厳こそ労働の原点であること、②ILO宣言にある労働は商品ではないということ、③ディーセント・ワークの徹底、この3点をしっかり胸に刻んで運動の前進に取り組んでほしいものだ。


(「会報193号」(2017年12月25日発行))



企業別組合主義からの脱却を想う

小島 正剛


 深化する格差社会にあって、 連合の果たすべき役割はいよいよ大きい。連合が目指す「働くことを軸とする安心社会」の実現は、いまだ道遠しだが、運動にペシミズムは不要である。


 いま想うのは、2003年「連合評価委員会最終報告」の提言である。提起された数項目は、いずれも重要だが、とくに注日したいのは、連合が「企業別組合主義から脱却し、すべて働く者が結集できる力強い新組織拡大・活性化戦略」の推進を提起した点である。社会運動としての自立を示唆したものでもある。職場から、地域から、空洞化する足元からの再出発を提起した点で、より重視されてよい。


 時代はまさに転換期。サイバーフィジカル・システムを核とする第4次産業革命の進行は、製造業のみならず、広く雇用・働き方に甚大なインパクトを与えよう。その意味では現場をあずかる企業別組織の役割も依然重要だが、その限界を超える新組織戦略の具体化・ 実践、ソーシャルマシーンとしての機能が強く望まれるところだ。


 アジア太平洋地域にあっては、今後とも民主的労働法、労使自治など労使関係インフラの整備に苦闘する諸国労組から、連合の実効的な協力が求められよう。地域最大級の組織として、一層のグローバル展開が期待されている。

(「会報193号」(2017年12月25日発行))


私の主張

分割民営化をめぐる国鉄闘争について

師岡 武男


 国鉄の分割民営化が、正式に浮上したのは、中曽根政権時代の1982年7月の臨調基本答中からである。3公社は「民営ないしそれに近い経営形態に改める」とし、国鉄は「分割し、これを民営化する」と明記した。


 このように、官業の民営化は、国鉄だけを狙い撃ちしたものではなく、大きく見れば英国のサッチャー、米国のレーガン流の「民営化、小さな政府」政策の流れに乗っている。この流れに対する賛否の対応は今も続いていて、最近の欧米で格差拡大、緊縮政策への大衆的反乱の原因にもなっている。


 国鉄の分割民営化がとくに目立ったのは、国鉄経営の巨大な赤字と借金の始末、大量の人員整理予定が際立つ大合理化政策だからだ。 果たしてそんなことができるのか、と思われた。


 中曽根氏が、「国労をつぶして、総評、社会党をつぶすことを狙った」という発言が大変有名だが、このときは、国労をつぶさなければ分割民営化という大仕事ができなかったのだ。そのための策略は、彼ならではのものだったかもしれない。


 策略とは、大量の整理解雇を前提とした上で、悪辣な差別的解雇方式を採用したことだ。そもそも整理解雇の前提自体が間題だった。 結果的に解雇されたのは1047 人だが、民営化後に毎年新規採用された人員数をみても、何年かで解消できた余剰人員だろう。


 差別解雇の脅しや甘言で個々人を屈服させ、団結して人権を護る労組の抵抗力を切り崩すという奸策である。この悪知恵は見事に成功した。労働側はどうすればよかったか。せめて国労と動労の統一闘争ができれば、結果はまるで違ったろうが、双方にその知恵がなかった。


 

 被解雇者は、不当労働行為だとして労働委員会、裁判所への提訴を中心に長い間闘った。2010 年、鳩山政権時代に国労と建交労(旧全動労)は和解で解決したが、動労千葉などは「1047人の解雇撤回」を要求して今も頑張っている。


 民営化30年後のいま、JRの各労働組合は、労働者の人権確保と経営の民主化のために、労使対等の力関係を確立することが最大の課題だろう。


(「会報192号」(2017年8月25日発行))



利用者を敵にした国鉄労働

植木 隆司

 「さあ、それでは、行きましょう」――。伊豆、修善寺の国労臨時大会で、会場2階から、企画部長の声が聞こえた。執行委員会を終え、会場に入ろうとする面々。 取材記者だった私は、階段下で聞き耳をたてていた。1986年10 月の臨時大会は、戦後労働運動から、大粒の汗と赤い鉢巻の実力運動を奪う、大きな転機だった。


 労働記者になったばかりの私には、民同、革同、向坂協会などという国労幹部の色分けは、奇異に映った。東京地本に挨拶に行ったときには、「全国紙ではありますが、比較的良心的記者です」と、書記長に紹介された。労働省の最高幹部より、書記長は偉そうだった。


 「昔陸軍、今総評」と評され、その中核とされた国労26万。一方で、国鉄は1兆円を超える大赤字を抱えていた。国民の足を支える鉄道労働者の組織が、利用者である国民の利便性や巨大赤字の解消策より、内部のイデオロギー対立に明け暮れていたように見えた。


 権力側は、用意周到だった。国労を解体すれば、総評は弱体化、左派労働運動をたたくことができる。台本に従って、分割民営化答中、労使共同宣言、雇用安定協約、国鉄改革法と、連続して、荒技を繰り出していった。


 この間、動労は路線転換、鉄労と握手までして見せたのに、国労は内部対立だけが深まった。そして、修善寺のあの日。「大胆な妥協提案」は、大差で否決された。だれかがほくそえんだに違いない。


 民営化され、分割された国鉄。30年たった今、商売に精を出し、駅構内は近代化、駅員のサービスも向上している。しかし、現状を透かして見れば、都会では朝夕の満員電車は解消されず、地方では、赤字路線だからと、廃線ばかりになり、高齢者ドライバーによる悲劇の一因にもなっている。


 あの時、国労が協調路線に転換したとしても、大勢が変わったとは思わないが、権力が敵になった時には、マスコミはじめ、大衆を味方につけるしかない。その知恵がなかったことが、今日の日本の右旋回、労働運動衰退を招いているといえるのではないか。


(「会報192号」(2017年8月25日発行))


17春闘

賃上げ復活4年で顕在化した春闘の構造変化

荻野 登


 2017年の春闘は3月15日に最大のヤマ場を迎え、相場の形成役の自動車、電機など金属大手の回答は総じて昨年実績を下回った。 メディアは官製春闘「失速」の論調となり、昨年並みのベアを経済界に要請した安倍首相も、「欲を言えばもう少し力強い賃上げを望みたかった」と述べた。一方、労使当事者は賃上げが四年連続したことを高く評価した。


 その後の推移をみると、相場形成・波及メカニズムに構造的な変化の兆しが出てきている。非製造業系で金属大手を上回る回答が散見されるほか、中小企業、非正規労働者の回答が大手や正社員を上回る傾向があらわれている。ベア回答が復活してから4年目を経て、さまざまな異変が起こっている。





相次ぐトヨタ超え


 異変はまず、大手自動車メーカーであらわれた。相場形成役のトヨタ自動車は基準内の引き上げ(定昇給相当除く)1300円で前年実績を200円下回った。一方、本田が昨年を500円上回る1600円、スズキも300円増の1500円で妥結。昨年同額がダイハツとヤマハ発動機で1500円、前年割れながら日野が1400円となった。これだけ多くのメーカーがトヨタ超えを回答したのは前例がない。グループ企業の労組でつくる全トヨタ労連でも加盟組織の約3割にあたる37組合で1300円を上回ったと発表した。大手電機メーカーは開発・設計職(30歳相当)のポイントで、前年比500円減の1000円で決着。この結果、金属大手では1000~1500円の賃上げ相場が形成された。しかし、後続の中小企業や非正規雇用に対する回答は、人手不足の追い風もあり前年実績を上回る流れが形成されている。


 連合の4月11日時点での集計によると、ベアなど賃上げ分が明確な1576組合の賃上げ額は、全体平均で1330円(0.45%)だが、300人未満は1373円(0.56%)となり、過去に例のない額・率とも全体平均超えとなった。


非製造業や内需系に目を転じると、2000円超えの回答が目に付く。 UAゼンセン傘下のドラッグストア(マツモトキヨシ4000 円)、スーパー(マルエツ3200 円、いなげや3027円等)などでは3000~4000円の高めの回答が目につく。さらに、フード連合傘下でも味の素の1万円を筆頭に、日本製粉3300円、 J T2500円、ロッテ2304円、森永2000円、明治2000円、サッポロビール2000円など昨年を上回る回答が相次いでいる。また、NTTグループでは2年続けてのトヨタ超えで決着している。





産業構造の変化が春闘にも影響


 春闘のパターン・セッターは1970年代後半に鉄鋼から自動車に移った。といってもトヨタ自動車が天井となるパターンが約40 年も続いてきた。第4次産業革命ともいわれる産業構造の大転換が春闘にも影響を及ぼしてきたといえそうだ。


 非正規雇用では率で正社員を上回るトレンドが継続している。 U Aゼンセンの3月末集計によると、短時間組合員190組合の時給引き上げ額は、単純平均で22.3円(2.39%)で、同時点での正社員の引き上げ率を上回っている。 昨年はじめて最終集計で短時間組合員の賃上げ率が正社員を上回ったが、本部はこの背景に最賃引上げと同一労働同一賃金ガイドライン案の影響をあげる。企業内における分配構造にも変化が生まれている。


(「会報191号」(2017年5月25日発行))


岡崎審議官報告を聞いて

「均衡」の範囲を明確にすることが重要

小林 良暢

 岡崎厚生労働審議官のレクは、大変丁寧な説明で政府の働き方改革がよく理解できた。ただひとつ、私が気になった点は、「正規か非正規かという雇用形態に関わらない均等・均衡待遇を確保し」というように、各所に「均等・均衡」という言葉が聞かれたことである。

 じつは、これまで政府は「均衡」という言葉を使うのを慎重に避けてきた。昨年12月の実現会議に提出された「ガイドライン」では、前文の冒頭に「均等・均衡」と派遺労働者のところに使われていただけだったが、3月28日の「実行計画」は、基本給や各種手当、一福利厚生、教育訓練など全項目に「均等・均衡」が盛り込まれた。

 労働界では「均衡」というと、「4/5ルール」が常識。安倍首相は「ドイツ並みの8割をめざす」と言っているが、8割のさらに4 /5だとすると6・4割までもありで、これでは元の黙阿弥だ。これからは、「均衡」の範疇を明確にすることが重要だ。注視したい。


(「会報191号」(2017年5月25日発行))



膠着していた議論を 労働時間は法的な縛り進めたことは評価

澤路 毅彦

 実現会議の議事録を読むと、会議自体で深い議論がなされた形跡はない。重要だったのは事前折衝、特に、「同一労働同一賃金」と長時間労働規制にかかわる労使との交渉だ。

 その結論の評価は難しい。「100点」とはとても言えないが、「0点」というのも、ないものねだりだろう。膠着していた議論を大きく進めたことは間違いないからだ。ただ、女性や高齢者が働きやすい環境を整えるという当初の目的を達成するには、今回の結論だけでは不十分なことはっきりしているように思う。

 実行計画には、こっそりと(?)盛り込まれたテーマもある。個人的に注日しているのは、非雇用型テレヮークの法的保護を検討することが明記されたこと。ヒアリングでも岡崎さんが言及していた。委託業務型の働き方の法的枠組みは、研究者間では議論されてきたが、政策レベルの議論はこれから。今後に注目している。


(「会報191号」(2017年5月25日発行))



労働時間は法的なしばりをもっと厳格に

中村 章

 私は、ミスター時短を任じていた時期があった。1990年代の半ば、労基法の改正が行われた時期である。当時、労働時間は単なる労働条件ではない。仕事の仕組み、人の使い方の善し悪しが反映されたものだ。時短は、仕事の仕組み、人の使い方の見直しを不可避にするから、結果として企業を強くする。監督行政は自信を持って時短を推奨すべきと言っていた。

 この考えは、今も変わらない。 そんな日で、今回の計画を見ると、何とも腰が引けた感が否めない。 時間外労働の上限規制ひとつとっても、労基法70年の歴史の中での歴史的な大改革という割には上限時間の設定も甘いし、猶予業種がいくつもあって、時間管理についての定見のなさが露呈しているように思える。

 賃金と違って、労働時間は法的に縛りをかけ、強制することができる。強制された産業界は仕事の仕組み、人の使い方の見直しをせざるをえなくなり、結果として体質強化が進む。働き方改革を言うのであれば、そんな腰の据わった視点が必要なのだと思う。


(「会報191号」(2017年5月25日発行))