日本労働ペンクラブ賞とは

 日本労働ペンクラブ賞は、1年間の会員による労働・雇用分野における著作、論文、連載記事などから優秀作品について表彰する制度です。会員の取材・研究活動を活発にする目的で81年に設定されました。

第28回(2015年度)

日本労働ペンクラブ賞

相原正雄氏「読んで楽しむ“働くこと”」

熊谷謙一氏「アジアの労使関係と労働法」

奨励賞

岡山茂氏「格差時代の労働法制改革への提言」


選考経過と請評

選考委員長久谷與四郎



左から相原さん、熊谷さん、岡山さん

 2015年度の労働ペンクラブ賞応募は3点あり、そのいずれもが秀作揃いだった。会員の活動が非常に活発、 かつペンクラブ本来の活動趣旨に沿って質的にも向上してきていることの証と考えられる。大変喜ばしいことだ。


 応募作品の3点は、相原正雄会員『読んで楽しむ“働くこと”』、熊谷謙一会員『アジアの労使関係と労働法』、岡山茂会員『格差時代の労働法制改革への提言』。


 分野に重複はなく、3回の選考委員会では、その優劣の判断に苦労したが、最終的に「労働ペンクラブ賞」には相原作品と熊谷作品の2点を選考、岡山作品には幹事会判断による奨励賞と決めた。


 相原氏の『読んで楽しむ“働くこと”』は、その題名の通り各ページに織り交ぜられた話題を興味深く読み進むうちに、労働に関する基本的な知識、原則、基準を抵抗なく理解されるような構成と書き方が、圧倒的な評価を受けた。難解な理論や独りよがりの主張は一切なく、“楽しみながら”労働間題の基本を説いた本は珍しい。新しい分野を拓くものとして評価された。


 熊谷氏の『アジアの労使関係と労働法』は、経済発展の目覚ましいアジア15カ国の労使関係と労働法をコンパクトにまとめている。筆者が連合国際局、J-LAFでの職務経験から得た情報がベースになっており、筆者自身の足と日、耳で得た情報ばかりである。それだけに、各国の労使関係の息づかいが、行間からにじみ出ている。アジア諸国との関係が深まるわが国の労使双方にとって、有用な情報を提供する便利なハンドブック、入門書としても役立つ秀作と判断された。


 岡山氏の『格差時代の労働法制への提言』は、筆者の長い労働行政へのかかわりを回顧しながら、その経験をもとに取りまとめた意欲的な著作。格差が様々な社会問題となって影を落とす今日の日本に、夕イムリーな警鐘を鳴らす作品と評価された。しかしながら、それぞれの提言の背景について、立証的な説明が不足しており、説得力に欠けた点のあることが惜しまれた。筆者には、これらを補足した新たな著作への挑戦を期待したい。



受賞のことば

『読んで楽しむ“働くこと”』の執筆意図

相原正雄


 伝統ある労働ペンクラブ賞を受賞し、まことに有難く感激しております。


 この本を書こうと思ったのは次の三点であります。


 第一点は、労働間題を書いた本は難しく、若い人たちや、日ごろ労働間題に関心の無い人たちにも読んでもらうにはどうするか考えました。最近は“労働”が疎まれ、ILO(国際労働機関)を口にする人も労働組合の必要性について考える人も少なくなりました。そこで、誰でも面白く読んでもらえるよう物語にして、マンガのイラストを入れました。


 第二点は、日本の雇用、賃金、企業別労働組合等が、構造協議などで日本の労働市場の流動化を妨げるものとして改革を迫る外圧が加えられています。日本の強さを支えてきたものを簡単に捨て去るべきでないと考えました。


 第三点は、私が勤務した(財)日本ILO協会は仕分けられて解散しました。その功績を活字として残したい。そして、3年後創立100年を迎えるILOに日本はどう取り組むべきかを世に間いたいと思いました。


 日本ILO協会の活動の柱は、ILOの世界平和をめざす社会正義の精神の普及と条約の批准促進でありました。不幸にして、民間の財団であるのにもかかわらずその目的が時代遅れで不要不急の財団として仕分けられました。


 ILOは創立100年程たちますので古いのは確かでありますが、国際労働基準の設定、勧告、批准促進など今日的間題です。日本は一日8時間労働を定めた第1号条約をいまだ批准していません。 ILOは今なお今日的間題であることを訴えたいと考えました。


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労働ペンクラブ賞を受賞して

熊谷謙一


 このたび、日本労働ペンクラブ賞という身に余る賞を頂戴いたましたことに、心より感謝いたします。本書は、アジアの労使関係と労働法について、労働委員会を支える「労委協会」の月刊誌、『中央労働時報』に、ほぼ2年間にわたり連載した内容をベースに、直近の情勢を加味し、日本生産性本部に編集と出版をいたただいたものでございます。ご協力をいただきました内外の皆さまに深く御礼を申上げます。


 アジアは今日、かつてない経済成長の輝きのなかで、労働の分野は大きく立ち遅れ、厳しい状況に置かれている労働者とその家族、職場や地域が少なくありません。 同時に、各国には、草の根から果敢に挑戦しようとする労働者、そして労使や政府等の取組みがあり、それらを通じて新しい労使関係や労働法制も姿を見せつつあります。 各国の労働運動をみますと、苦闘を重ねるなかで、成熟期といわれる日本を乗り越える力を秘めるものもあると思います。


 この本では、これまで深く関わってまいりましたアジア15カ国の状況につきまして、日系企業の方々の現地での奮闘を含め、現場からの日線で描くことにより、私なりの問題提起をさせていただきました。


 そして、アジアでは、「ペンは剣よりも強し」を踏まえた、ペンを通じたディーセントヮークへの支援が今こそ求められていると思います。今回の授賞を期に、アジアの労働ジャーナリズムの方々との交流もさらに深めていきたいと考えております。今後とも「労ペン」の皆さまのご指導をよろしくお願いいたします。


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奨励賞を受賞して

岡山茂


 拙著が特別に奨励賞をいただき大変恐縮しています。本書は、私が平成27年春に労働行政功労により叙勲を受けたことを機会に行政の経験を振り返って見ようとペンを執ったことに始まった。いわば中央官庁行政マンの回顧録である。これを書くうちに、最近の社会労働情勢に派遺や有期など非正規雇用の著しい増加と長時間労働の蔓延など格差が深刻化していること、それに対する労働法制の動きに危機感を抱き、その改革のための提言を、具体的立法を含めて「格差時代の労働法制改革への提言」として取りまとめてみようと考えた。そして前者の回顧録を第一部とし、この提言を第二部とした。


 結果として見ると、第一部と第二部との関係が不明確となり、本書の目的・性格があいまいになってしまった。


 実は一部と二部に通底しているのは、政策課題に対して効果的な政策手段を、多角的に具体策を考えて実行することにある。例えば、私は昭和52年に身体障害者雇用対策として、雇用率の実効を上げるため、雇用の義務化、罰則でない公表制度、プラス・マイナス両面の経済的インセンティブとなる雇用納付金制度等を創設した。第二部では、単なる政策提言でなく、あるべき法制、具体的手段、経済的インセンティブ、保険制度の活用など思い切った具体策を提言した。そのため一般の読者には分かり難い本になってしまった。今後はもっと分かりやすい本とするよう一層努力したい。


これまでの受賞作

第1回(1981年)水野秋「岡山県社会運動史」17巻
第2回(1982年)渡辺寛「帝都高速度交通営団労組20年史」(上、下)「京成労組16年史」(同31年史)
第3回(1983年)木畑公一「アジア船員と便宜置籍船」
        坂本守「昭和史の中の労働運動」
第4回(1985年)鎌田慧「アジア絶望工場」、板東慧「労働組合の可能性」
第5回(1987年)佐藤進「老後と年金のゆくえ」
第6回(1988年)小野道浩「これが「連合」だ!」
        久村晋「産業政策と労働組合」
        芦村庸介「連合司令部」
第7回(1991年)田村剛(明治学院大学教授)訳 アルバート・リース著「労働組合の経済学」
第8回(1993年)今村久寿輝「人事・労務・労使関係-戦後45年の軌跡」
        加藤尚文「コメンタール日本経済史料大系」
特別賞     高木郁郎他「総評40年史」
第9回(1994年)保谷六郎「日本社会政策史」
第10回(1996年)岩瀬孝「大失業回避への戦略」
特別賞     千嶋明「現代中国の労働事情」
第11回(1997年)埋橋孝文「現代福祉国家の国際比較」
        竹村之宏「進化する日本的経営」
        宮武剛「介護保険のすべて」
第12回(1998年)千葉利雄「戦後賃金運動-軌跡と展望」
第13回(2000年)工藤幸男「日本とILO/黒子としての半世紀」
        岡本昭市「21世紀の創造・I・労使の役割」
特別賞      奥井禮喜「元気の思想」
第14回(2001年)山路憲夫「医療保険がつぶれる」
第15回(2002年)樋口篤三「めしと魂と相互扶助」
第16回(2003年)山崎光平「人物で綴る労働運動一世紀」
        岩崎馨「成果主義は有効か-構造変革期における賃金問題」
第17回(2004年)江本嘉幸「戦後史の証言」
        新井洋「ものづくりをあきらめるな-小さい町工場『三鷹光器』世界への挑戦」
特別賞      板垣保「検証 労働運動半世紀」
第18回(2005年)服部治「現代経営行動論」
特別賞      「東京新聞Works面<佐藤倫編集委員・松野仁貞記者>
第19回(2006年)松田宣子「魔女の目でみた暮らしと経済」
第20回(2007年)小林美希「ルポ 正社員になりたい」
        田中清定「概説労働基準法」
第21回(2008年)要宏輝「正義の労働運動ふたたび 労働運動の要論」
        久谷興四郎「事故と災害の歴史観-“あの時”から何を学ぶか」
        東海林智「貧困の現場」
第22回(2009年)小林良暢「なぜ雇用格差はなくならないのか」
        竹信三恵子「ルポ雇用劣化不況」
第23回(2010年)石井智章「現代中国政治と労働社会」
第24回(2011年)芳賀清明「鈴木文治のいる風景」
        小畑精武「公契約条例」
        チャールズ・ウェザーズ「アメリカの労働組合社会」
第25回(2012年)呉学殊「労使関係のフロンティア-労働組合の羅針盤」
第26回(2013年)溝上憲文「非常の常時リストラ」
第27回(2014年)奨励賞 大澤賢「甦る被災鉄道」