ヒアリング

2017年5月31日
「いまの社会、あすの社会」をよみとく視点
――「インダストリアズム再訪


束大名誉教授 稲上 毅氏

 

 労働政策研究・研修機構の前理事長で束大名誉教授の稲上毅先生が、久方ぶりに登壇され、5月31日、労働ペンクラブ会員のために講演してくださった。演題は「いまの社会、あすの社会――「インダストリアズム再訪」。「インダストリアズム」とは稲上先生があえて付けた訳語で「実業の思想」ということ。

 この言葉が「いまの社会、あすの社会」 の時代を解読するコードともなると言う。なぜか。それは、近代の成立という数世紀前から今日の21世紀にわたって、労働の社会のみならず、日本と世界のあり様を理解し、そしてその批判的視点を提供する視角を与えてくれるからだ。

 ここからみれば、現代のように「ファイナンス」つまり金融・資本があまりにも優勢となり、「過労自殺」対策を含む「働き方改革」がいまの政権でもとりあげ議論されねばならないような課題にまで至ってしまっている、そのような、笑うに笑えない時代と社会の「歪み」も焙りだされてくる。

講演の概要
以下は、筆者なりに受け止めた講演の概要である。

 マックス・ウェーバーの用語をかりれば「近代資本主義」のイメージというのは、勤勉と節倹にもとづく実業(インダストリー)を旨とし、私益を公共の福祉に結節する、公共の福祉に貢献するもの。 したがってファイナンス(資本・ 金融)はインダストリーのために存在しているのであってその逆ではない。本来、資本主義の「精神」とは「『正当な』利潤を使命として、・・・合理的に追求する精神的態度」ということであった。そこでは、資本・経営・労働の三者が均衡的関係であることが望ましい。そうであるのかどうか、産業民主主義、経営民主主義、集団的労使関係の三つのゆくえもここに関わることになる。

 いまはこの三者が、資本>経営>労働というように、あまりに均衡がくずれている。たしかに歴史的にみれば資本が経営や労働に優位することが多かった。日本もその例外ではなかった。ところが戦後日本の民主改革(財関解体・労働の民主化等)後は、さきの三者の均衡関係に関わって、それまでのファンナンス優位からインダストリーがファイナンスに対する「インダストリアリズム」の優位を取り戻すということがおこった。

 日本の企業統治のあり方(コーポレート・ガバナンス)の変化を振り返れば、労使が競いあいつつ経営が資本・金融よりも優位である「戦後型経営」が生じた。それはひとつのシステムとして「モデル」を形成した。そのモデルで日本資本主義は発展期を迎えた。それが近年ではかなり変容(転調) したことはあるとしても、たとえば2006年の経団連『我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について』(「御手洗報告」)は、企業は「社会の公器」、企業の社会的責任の重視、「真の株主」「長期保有株主」の尊重などとしている。また、日本の経営者はいまだ内部昇進型が多く、実体は「使用人兼務取締役」。 CEOの報酬を日米で比較すれば日本は10分の1にとどまっている。


 1991年からのバブル崩壊後に日本資本主義は大転換したという見方が目立つ。しかし実証的根拠をみるとそれだけで割り切ることはできない。むろん、問題は出ている。かつての日本の雇用システムは、正規・ 非正規の労働デュアリズム (二重性)の拡大という転調に入り、そのシステムの功罪が改めて間われる。成員の「生活保障」、ブルーカラーのホワイトカラー化、協調的労使関係、高い企業帰属意識と能力開発、生産性向上などの「功」に対し、「罪」として成員・非成員の身分制的秩序、女性の低い地位と不活用、「会社人間」と長時間労働、企業エゴイズムなどがある。

 そして、集団的労使関係モデルの変調によって、労使間の交渉力と情報力の非対称性、集団的紛争から個別紛争へ、「荒廃」し・水涸れする職場、など懸念される現象が増しているという厳しい現実がある。

 さらにこの経営・雇用・労使関係の変容は、日本の文化自体までもが、個人主義化、短期主義化、弱い消費者、長時間労働是正の困難、社会の細分化が進み、文化(社会・政治の傾向として) の「小児化」は目を覆うような状況となっていることにも同期している。

 さきに大著『ヴェブレンとその時代』(新曜社)を著わされた稲上先生は、このような長大な射程で理論と実証をふまえながら、現代を照らしだす思考体系を、私たちにわずか80分間で、しかも明快かつ平易に講演してくださった。満員の会場(40名)は、このような難易度の高いお話しにもかかわらず新たな視野を獲得しえたと感じたせいか、終了まで実に明るい雰囲気だった。

 私たちは日前の回避しえない政策技術的な議論に入るときにも、このような鳥瞰図的な時代認識と批判精神をふまえなければならないのだ、という強い印象をもった。 稲上先生には、講演でふれられた「新たな黄金の四角形」の議論を含めた新著を、また期待したいものである。(井上定彦)

2017年3月1日
AIやIOTと雇用などで議論-全労生と意見交換

 

 全国労組生産性会議との懇談会が3月1日、日本生産性本部で開かれ、労ペンからは麻生事務局長ほか15名が参加。全労生側は相原議長はじめ5名の幹部が出席した。
 まず久保事務局長から2017春闘にあたっての「全労生の主張」(2月15日発表)の説明を受けた。「個別労使は生産性運動の深化・拡大に向け、職場のすべての人々の仕事と生活(働き方)の調和を再点検すべき」「付加価値創造を基礎とする経済社会の構築へ、産業別労組は、公正労働基準と公正競争秩序の確立に向けた労使協議を徹底し、雇用・労働条件、環境などの社会的課題を犠牲にする負の競争に歯止めをかける必要がある」などと訴えている。

 また3年ごとに実施している「雇用と労使関係課題に関する共同アンケート調査」の結果も報告され、これら報告への質疑応答、さらに働き方改革、AIやIOTと雇用、宅配便の労働環境――など直面する労働課題についても意見交換した。(山田潤三)

2017年2月1日
働き方改革に対する経営側の考えを提示-経労委報告

経団連労働法制本部長 輪島忍氏

 

 17春闘ヒアリングは、2月1日の経団連経営労働政策特別委の報告書説明会からスタートした。会員56人が参加。輪島忍・労働法制本部長が、まず働き方改革計画の動向を、「秋の臨時国会目指して、議論が進むのでは」と分析。

  今季の特徴は、交渉方針に加え、働き方改革に関わる経営側の考えを示したこと。政府の後押しによる管理春闘で労働条件の改善が続いてきたとされているが、「将来不安が賃上げ効果を減殺」とし、不安払拭のため、「オールジャパンの取り組み強化の年」とした。特に、不安要因のひとつ、人口減少を構造変革の好機とし、生産性向上につなげ、さらに、雇用の安定、処遇改善につなげていく――という積極的な意味を込めたとした。

 但し、肝心の交渉方針となると、「収益拡大、収益体質改善の企業は、年収ベースの引き上げを前向きに検討」という全体に慎重姿勢で、相変わらずの「総論賛成各論消極」。大企業はともかく、中小企業労働者への配慮は見えなかった。(植木隆司)

2016年12月25日
個別労働紛争の解決に貢献する地労委

中央労働委員会会長 諏訪康雄氏

 

 労働紛争解決のチャネルが多様化した。隔世の感がある。かつて個別労働紛争は裁判所への道があるものの金と時間がかかるので、労基署にかけこむしかなかったが、「民事不介入」の壁があった。

 2001年に「個別労働紛争解決促進法」ができ、①国の「地方労働局」での助言・指導及び(紛争調整委員会による)斡旋、②都道府県での知事部局(相談センター等)における斡旋又は③知事から委任を受けた「県労働委員会」による斡旋の道が開かれ、続いて2006年に④労働審判制度(調停及び審判)が生まれた。

 このような中で「最近の労働委員会の状況と課題」について、12月25日、中央労働委員会の諏訪康雄会長からレクチャーを受けた(参加38人)。詳しい業務統計分析の図表を用意され、分かりやすく説明していただいた。

(1)労働委員会は、今年70周年を迎え、かつて最も多かった集団調整事件は大幅に減が、不当労働行為事件は減らず、一方、個別紛争事件が新たに加わって、この3者がほぼ同割合を占めている。

⑵地労委の不当労働行為事件の7割は合同労組のかけこみ訴えで特に中小企業に多い。合同労組が受けた個別紛争での団交拒否等によるものであり、いわば形式的集団紛争事件である。

 ここでは命令・決定権を背景にしつつ3者構成を生かし、審査事件の3分の2以上が和解で解決している。これが双方の納得と早期解決に寄与している。ただ西日本では命令決定に至る傾向が強い。

⑶今後の課題は更なる迅速性、的確性の強化であり、適性を有する委員の確保、事務局の専門職の養成・確保が必要であるとされた。(岡山茂)

2016年10月20日
「国際標準は「同一労働同一賃金」

遠藤公嗣氏

 

 「同一労働同一賃金」をテーマとするヒアリングは7月に続き2回目である。今回は明治大学経営学部教授遠藤公嗣氏を招いて10月20日に開催された。午後6時15分の開始という異例の時間帯にも拘らず、32名の参加があり、関心の高さが感じられた。

 まず、国際標準の理解が必要であり、国際基準では同一価値労働同一賃金と表現し、同一労働同一賃金は、その一部であるにすぎない。また、同一価値労働同一賃金における労働(work)は、労働自体ではなく職務(job)であるとの解説があった。

 ILO条約の定義は、同一価値職務同一賃金であり、職務基準賃金のもとで成立する。したがって、国際基準でいう「同一労働同一賃金」とは、職務が同一なら賃金額も同一という考え方になる。職務が同一か否か、どの程度違うかは、職務分析・職務評価で判断するほかはない。職務分析・職務評価は必須で、これがキーになる。

 職務分析・職務評価によってはじめて、同一か否かがわかる。その手法が得点要素法という職務評価である、とし実際の事例紹介に基づく解説がなされた。

 その上で、政府の取り組み、経団連の「欧州型同一労働同一賃金の導入は困難」に対する見解、連合の方針などの解説と間題点の分析、何が争点になるのかにっいて話された。

 政府は12月までに、何が合理的で、何が合理的でないのか、指針(ガイドライン)を公表することになっており、その後に法整備を進めるとしている。どんなガイドラインが示されるのか、興味津々である。 (武内崇夫)

2016年7月14日
「同一労働同一賃金」
労働法整備と指針が必要


束大社会科学研究所 水町勇一郎教授

 

 今後の労働政策で最も大きなテーマのひとつである「同一労働同一賃金」の実現に向けて動きが本格化している。今年初めに安倍首相が施政方針で提起した際には、「参院選向けのアドバルーン」という受け止めた方も多かったが、安倍政権の動きは早かった。2月に開かれた一億総活躍国民会議での首相指示に基づいて3月には有識者による検討会が立ち上がり、議論が進んでいる。

 7月14日、束大社会科学研究所 水町勇一郎教授(労働法)を招いて行われたヒアリングは、「同一労働同一賃金」の基本的な考え方や課題、欧州の法制度、さらには今後の展開などを中心に話が進められた。

 まず、同一労働同一賃金とは「職務内容が同一または同等の労働者に対し同一の賃金を支払うという考え方」とし、これが正規・非正規労働者間の処遇格差間題にあたっては、非正規に対し「合理的な理由のない不利益な取り扱いをしてはならない」と定式化されることが多い、と説明。「職務内容が同一にもかかわらず賃金を低くすることは、合理的な理由がない限り許されない、と解釈される」として、パート、有期契約、派遺労働者に基本的に同じルールを当てはめることが必要だとした。

 「同一労働同一賃金」を導入する場合には労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遺法等の法律の整備とともに、欧州の例などを参考にしつつ「合理的な理由」の中身について政府が「指針(ガイドライン)」を示すことが有用だと指摘。現在、検討会で指針についての議論が進んでいる。

 指針の内容や、法律がどのような形で整備されるのかなどが重要なポイントとなる。ここまでは早いペースで検討会の議論が進んでいるようだが、今後、法整備などについて労働組合や経営者団体がどう対応するのか、さらには与野党がどのようなスタンスで取り組むのかについてもみていきたい。(稲葉康生)

2016年6月30日
任用の壁をどう乗り越える
非正規公務員の課題


地方自治総合研究所研究員 上林陽治氏

 「自治体の非正規公務員はざっと70万人。その70%以上が女性」-。 民間から見ると、よく分からない公務員の労働事情だが、とりわけ、隠れている非正規公務員について、地方自治総合研究所の上林陽冶研究員が、6月30日午後、束京・神田のヒアリング会場で、ざっくばらんに語った。20人を超える参加者からの質間が相次ぎ、予定の1時間半を軽くオーバー、会場管理者から終わりの催促があるほどの熱い講演となった。

 上林さんによると、自治体の人件費削減策により、従来の正規の仕事が非正規に置き換わっており、総務省調べでは7年間で30%増の60万人に。より綿密な自治労調べで70万人。全地方公務員の33%で、女性率も70%を超えているという。保育士、教員・講師、各種相談員等の職種では特に非正規率が高く、さらに女性比率も高いという。

 並行して、賃金等の働く条件も悪く、賃金ではいわゆるワーキングプアの年収200万円に到達していない「官製ワーキングプア」が大半としている。

 本来、地方公務員には、労働基準法が適用されるはずなのに、公務員独特の「任用」という仕組みが、こうした低賃金、退職金なしの劣悪環境を許している。任用は労働契約ではなく、「お上が御用のために仕事を与えてやる」という思想の延長線にあるためで、自治体側の意識に間題があると指摘した。

 「任用の壁をどう突破するのか」、「非正規の正規化はどうなっているか」、「労組の取り組みはどうか」などの質間にも、ひとつずつ丁寧に答えた上林研究員だが、出身労組の取り組み状況に及ぶと、「組織化は5万人を超えたが、70万人の5万人では。やっている労組はよくやっているが」と歯がゆそうだった。(植木隆司)

2016年5月19日
次世代リーダーの育成
連合大学院と「働く文化ネット」


社会連帯研究交流センター運営委員長西原浩一郎氏
NPO法人「働く文化ネット」代表理事小栗啓豊氏

 「連帯社会インスティテュート」という名前をお聞きになったことがあるだろうか。

これは2015年4月に正規の大学院として法政大学に新設されたもので、通称「連合大学院」ともいわれる。法政大学、連合、日本労働文化財団が連携、労働組合、協同組合、NGO/NPOという社会公益を担う組織のリーダーを育成する社会人向け修士課程のプログラム(夜間)である。

 少し古い世代は、昭和20年代に中央労働学園というやや似た学院があったことを御存知の方がおられるかもしれない。佐々木孝男、孫田良平、小島健司、千葉利雄各氏らを輩出したことで知られる。

 その兵站線を担う社会連帯研究交流センター運営委員長の西原浩一郎さん、続いてNPO法人「働く文化ネット」(2013年6月発足)代表理事の小栗啓豊さんからそれぞれ取り組み状況を聞いた。

 西原さんは、「連帯社会」の実現に向けて、新しい地域社会や国づくりのための広い教養と国際的視野、構想力と実行力を持つ「新しい公共」を担う次世代のリーダーの養成が求められるとして、「ともに助け合う連帯社会の構築を日指す。労働運動をはじめそれらの組織を横断的に捉えることのできる幅広い視野をもった人物を育てたい」と力説された。

▽働く文化の振興

 小栗さんは「働く文化の振興を求めて」をテーマに、同ネットを紹介。

 ワークルール啓発、労働運動歴史展示、労働映画上映・保存の3事業を行い、殊に世の中で「ブラック企業」が間題となる中、勤労者や経営人事に携わる方々にとって必須の知識である権利・義務関係に関わる「ワークルール」検定を実施、注日されている。この検定には、スタートした2013年から16年度まで、初級で累計4100人が参加し、5割強が合格。14年からの中級は541人が受験、半数弱が合格ということであった。

 また、この日は「労働映画」活動の一端として、記録映画『炭坑』を試写し、同ネットの鈴木不二一さんに解説していただいた。ぜいたくで充実した一連のヒアリングとなった。(井上定彦)

2016年4月15日
介護人材、キャリア形成の仕組み作りがカギ

国際医療福祉大学大学院教授 堀田聰子氏

 「介護人材不足を問い直す」と題するヒアリングが4月15日、国際医療福祉大学大学院教授の堀田聰子氏を講師に招き開催された。堀田氏は現在、厚労省の社会保障審議会介護給付費分科会委員などを務めている。

 堀田氏は、豊富なデータをもとに介護形態別、正規・非正規の現状、賃金、採用、離職、人材育成など多面的に詳細な説明を行った。そのうえで介護分野は専門職の労働市場として確立されておらず、景気に左右されやすく、また都道府県ごとの差も大きい。こうした面はあるものの、介護職の賃金はデータを見る限り他産業並みになってきていると指摘した。

 また、団塊の世代が75歳になる2025年には介護職は38万人不足すると言われているが、現状の非効率さが続くことが前提になっている。そこまで不足しないのではないかとも述べた。

 堀田氏が報告の中で強調したことは、介護分野の担い手の問題を低賃金と人手不足に切り詰める傾向があるが、問われているのは専門職としてキャリア形成する仕組み、「人のために役立ちたい」という介護職が持っているモチベーションを高める魅力ある職場づくりにある、という点であった。長年の介護現場での調査からの重たい提起と受け止めた。

 今回ほとんど触れなかったが、オランダの介護政策にも詳しいとのことなので、是非また話を聞きたいと思った。(蜂谷 隆)

2016年3月2日
3原則と春闘で意見交換-労ペンと全労生

 3月2日、2016春闘をめぐり全国労働組合生産性会議(全労生、相原康伸議長=自動車総連会長)と意見交換懇談会を持った。

 労ペンから稲葉代表ほか24人のメンバーが、全労生側から相原議長、神保政史・電機連合副中央執行委員長ら6人の副議長、久保直幸事務局長が出席した。日本生産性本部からは北浦正行参与ら4人が同席した。

 相原議長は、繰り返される「負の連鎖」を断ち切る生活闘争が必要だ、とあいさっ。稲葉代表は「(政権から)同一労働同一賃金が言われている今こそ大きなチャンスだ」として賃上げ春闘に期待を寄せた。

 昨年夏就任した全労生の久保事務局長から活動報告を受けた後、生産性3原則(雇用の維持・拡大、労使の協力・協議、成果の公正分配)と春聞の在り方をめぐり意見交換した。全労生はこの2月、春闘労使協議に当たり「春闘はじめあらゆる場での『確かな将来』を見据えた協議を期待する」とする「主張」を公表。その中で▽賃金の積極的な引き上げ▽規模間、雇用形態間格差の解消で「公正な分配」を求めている。

 雇用形態格差解消では「非正規労働者にとって、処遇が合理的であり、納得性の高いものとすることは労使の責務だ」としている。(麻生英明)

2016年1月29日
デフレ脱却と非正規雇用対策を-経労委報告

経団連労働法制本部長 輪島忍氏

 日本経団連の「経営労働政策特別委員会報告」を聞く会が、1月29日、東京・千代田区のちよだプラットフォームスクエアで開かれた。 講師を務めた輪島忍・経団連労働法制本部長は2016年版の特徴として①今年はデフレ脱却に向けた正念場の年であり、年収ベースの賃金引上げを明記した②企業の現場で急増する非正規雇用労働者の処遇改善も重要課題に取り上げた-と語った。

 輪島氏は「序文」と第3章「春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」を中心に約1時間説明。今春聞で榊原定征・経団連会長は「今は平時でなく戦時」と危機感を表明したが、報告を見る限り従来の「総額人件費管理の徹底」の枠内にとどまり、2%程度の月例賃金引上げ(ベースアップ)に応える姿勢は見られなかった。

 質疑応答では内部留保の活用や安倍首相の同一労働同一賃金発言の真意などが出た。輪島氏は「内部留保は会計上の概念でキャッシュとしてあるわけではない」、「経団連は以前から同一価値労働同一賃金と言っている。発言の趣旨はよくわからない」とした。

 また非正規雇用間題では「人件費負担増加の間題はあるが今後できるだけ無期化していくことが大事」と語り、2年後の改正労働契約法の完全施行で有期雇用者が無期転換に移行する際、混乱が起きないよう「好事例を示しつつ、雇用が安定する働き方を示していきたい」と語った。参加者は46人。(大澤賢)

2015年11月11日
労働関係法改正と企業の対応

弁護士 安西愈氏

 「最近の労働関係法の改正と企業の対応について」のヒアリングが11月11日午後、労働者派遺間題に精通している安西愈弁護士を講師に招いて行われた。これには多数の会員が参加し、熱心に耳を傾けた。

 今回のヒアリングでまず驚いたのは、安西講師が「最近の改正法の内容」から始まって「パート労働者の処遇上の問題」に至る19項日から成る19ページもの図解入りの詳細なレジュメを用意してくれことである。本格的な講演会並みの資料だったと感謝したい。

 さて、労働者派遺法が特に注日されるのは間違いではないが、「最近の改正労働法」は派遺法のほかに、改正労働契約法、有期雇用特別措置法、改正パートタイム労働法、改正労働安全衛生法、改正障害者雇用促進法、青少年雇用促進法など非常に多い。これらが周知されているとは言いがたく、政府だけでなく労組などでも対応等の充実が必要である。

 安西講師は「労働契約中し込みみなし制度」などを詳説したが、①「無期・直接雇用」が正社員か、②解雇無効時の金銭解決が立法化の方向か、③派遺先・発注者に労働局があまり頼りにならない、④改正法の施行には問題がはらんでおり、厚生労働省は立法者として責任を持つべき――などの間題点を指摘した。同一労働同一賃金の徹底が必要であるが、労働者の対応も重要である。(小井土有治)

2015年6月8日
最近の過重労働対策について

厚労省労働基準局監督課長 秋山伸一氏

 総実労働時間が依然として2000時間を超え、長時間労働(過重労働)による健康被害が一向に改善されていない。6月8日、厚労省労働基準局監督課長・秋山伸一氏から対策について聞いた。

 昨年6月に議員立法として全会一致で「過労死等防止対策推進法」が成立。厚労省は長時間労働削減推進本部(本部長・厚労相)を立ち上げた。これを受け、過労死等による労災請求のあった事業場に対し重点監督を実施。今年1月段階で公表した重点監督実施は4561事業場に上り、このうち3811事業場(83.6%)で法違反があり是正指導した。

 違反状況の中で、事業場の半数が100時間から200時間の長時間労働だった。賃金不払い残業は955事業場(20.9%)。

 また、社会的影響力の大きい企業が違法性を繰り返している場合は、企業に自主的な改善を促すため、都道府県労働局長が経営トップに対し是正指導し、その事実を公表(5月実施)するなど対策を強化している。

秋山課長は、平成2年旧労働省に入省。「当時は過労死という言葉は思い当たらなかったのに、今は立法の中に出てくるような時代だ」と過重労働対策の重要性を指摘。監督課業務では、労働現場の事故などに対する罰則規定のある労働基準監督に当たる事例が目に付き、最近問題化している「ブラック企業」間題にも積極的に対応していることを力説した。(麻生英明)