過去記事

働き方改革関連法
同一労働・同一賃金は「名ばかり」

稲葉 康生


 働き方改革関連法が6月29日の参院本会議で可決、成立した。非正規労働者の処遇格差の解消を図るという「同一労働・同一賃金制度」や高度プロフェッショナル(高プロ)制度の導入、罰則付き残業時間の上限規制など、働き方に大きな影響を与える法律だが、議論は深まらないまま、政府・与党は多数決で押し切った。いったい、この法律は「働き方改革」の名に値するのか、非正規の処遇改善や格差解消につながるのか、働く人の暮らしや健康は守られるのか。


 労働記者として長く、パート労働法、労働者派遺法、裁量労働制や労働契約法などの制定や、その影響を取材してきたが、働く人たちに重い荷を背負わせてきたのではないかという思いが常にあった。「多様な働き方」という美辞麗句の裏で何が起こったか。解雇などによる正社員の減少、不安定な非正規労働者の急増、所得格差の拡大、止まらない過労死など、深刻な社会問題が次々と生じた。労働者保護が目的であるはずの労働法制が働く人たちの安定した生活や生き甲斐まで奪っているとすれば本末転倒と言うしかない。


●議論は深まらず



 働き方改革関連法は準備段階から政治主導で議論が進み、従来の公労使三者構成による厚生労働省の検討会や審議会を軽視し、野党や労働組合の声にもほとんど耳を傾けることなく法案がまとめられた。一方、経済界の意向を受け入れ、関連法案の中に高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の見直しを潜り込ませた。


 働き方改革関連法の「本丸」は同一労働・同一賃金制度の導入だが、野党は追及しやすい高プロ制度などを中心に政府を追及、本丸にまでたどり着くことができなかった。制度が説明しづらいこともあってか、マスコミの報道も関連法案の問題点や課題を国民に浸透させることができなかった。


●名前と内容が違う


 働き方改革関連法には「同一労働・同一賃金」という条文はない。もともと労働契約法20条で規定されていた「不合理な労働条件の禁止」規定を「パート・有期労働法(パート労働法と有期労働法を一本化)」と「労働者派遺法」に移行。基本給や手当、賞与などにおける正社員との不合理な待遇差の禁止を規定したのが、今回の改革関連法だ。


 欧州では同一“価値”労働・同一賃金が世界標準で、職務分析により同一労働が定義されており、今回の日本の制度とは大きく異なる。今回の改革関連法は、「不合理な待遇禁止」法であり、これを「同一労働・同一賃金」制度だと国民に説明しづらいと考えたのか、政府は欧州の判例を参考に「同一労働・同一賃金ガイドライン案(以下「案」)」を作り、示すことにした。


 この「案」もよく見ると奇妙で、タイトル以外に「同一労働・同一賃金」という言葉が見当たらない。「案」の「目的」には「正規と非正規の不合理な待遇差の解消を目指す」とだけ書かれており、その手段として同一労働・同一賃金を導入するとは書かれていない。


 「案」では、現行の勤続給や職能給などの賃金制度はそのままで、有期・パートの基本給や賞与、諸手当の支給について、問題となる例、問題とならない例などが示されているだけで、何をもって労働と賃金の「同一」を規定するかなどの記述がない。この日本版の同一労働・同一賃金は欧州で導入されている世界標準のものではない。


 こうして関連法の中身をみていくと、同一労働・同一賃金制度は「名ばかり」と指摘せざるを得ない。安倍首相は「この国から非正規という言葉を一掃する」と述べたが、今回の関連法では非正規は一掃できず、固定化が危惧される。


 今、必要なことは、正規・非正規労働者の格差解消を目的に掲げ、同一労働・同一賃金の原則を明確に規定する基本法をつくることだ。
その上で、職務と賃金の「同一」とは何かを規定し国内の賃金制度を調査して、非正規の解消につながる「同一労働・同一賃金」の仕組みを目指すことが筋だ。


●高プロは廃止を


 最後に高プロと残業時間の上限規制について書いておきたい。高プロは残業代を払わずに長時間働かせる制度で、企業側にメリットがある。労使による委員会の決議がないと適用されないとか、適用後に本人が撤回できる仕組みも作られたが、実効性の確保は疑問だ。過労死した人の遺族らからも反対がある。高プロは廃止すべきだ。


 残業時間の上限規制では労働基準法の制定後、初めて罰則が入った点は評価したい。問題は中身だ。残業時間の上限規制とはいうものの、過労死ラインの月80時間を上回り、単月で100時間未満の残業ができるようにした。これも名ばかりだ。


 先日、毎日新聞の「広がる21世紀型ファシズム~スピード社会は我々を壊す」という特集記事を読んだ。その中で、英国の経済学者R・ウイルキンソンさんは近著『インナー・レベル』で、世界中の統計を駆使して「富や機会の不平等が高まるほど社会のストレス、うつ病症状が高まる。その主因は、経済の低迷、縮小ではなく、格差にある」と指摘している(18年7 月6日付夕刊)。これから私たちが目指すのは深刻化した格差の是正であり、行き過ぎた競争原理主義がもたらした弊害の解消である。これらが抜け落ちた政策を「改革」と呼ぶことには無理がある。


過去記事

構造転換が顕在化した18春闘
働く人全体の環境整備が課題

荻野 登

 賃金改善やベースアップという実質的な賃上げが2014年の春闘から復活して、今年で5年日となった。これまでの推移をみると、随所で春闘の構造転換が顕在化したといえそうだ。安倍首相が3%の賃上げを経済界に要請していたため、賃上げの水準に関心が集まった。その一方、交渉スタート時とほぼ同じく開会した通常国会が「働き方改革国会」と命名されたことで、従来にも増して注目度が高い春闘となった。


不在のパターンセッター



 金属労協が設定した3月14日の集中回答日に示された金属大手での賃上げ分の獲得額が過去3年間で最も高い水準となったが、それ以降も全般的には昨年を上回る回答・妥結水準で推移している。ただし、相場形成面において、昨年あたりから生じていた、大手から中小企業・非正規労働者への波及システムの構造転換がより顕在化した。その変化を示す最大の異変は、パターンセッター役の不在で、それが今春闘ではより鮮明になった。


 また、人手不足が足元での最大課題であることから、雇用形態によらず、職場で働く人すべてを射程に入れた交渉・協議が進展したことも大きな特徴といえる。


トヨタからの引き算春聞の終焉


 労働側は、賃金の引き上げによる個人消費の喚起と、「人への投資」の観点から、月例賃金引き上げにこだわった。一方、企業側は一時金などを含めた年収ベースで1人当たり平均3%相当の原資の投入を目安とした。この相違が、最終局面まで相場感が浮揚してこなかった背景にある。


 しかし、今年の相場感の不透明さで、最も大きなインパクトをもたらしたのが、トヨタ自動車が妥結した正社員の賃金改善額を非公表としたことだろう。トヨタ自動車労組が上部団体に報告した内容は「一般組合員の賃金改善分は昨年を上回る」だが、金額は非公表(昨年1300円)、企業サイドの回答表示は「『人への投資』も含め一般組合員、スキルドパートナー、パートタイマー、シニア期間従業員併せて1万1700円」となっている。



続々と入る回答(3月14日、金属労協で)

 回答後、同社の上田達郎専務役員が賃金改善分を非公表とした理由を「『トヨタ・マイナス・アルファ』からの脱却」と語った。1970年代後半から賃上げ交渉のパターンセッターが、鉄鋼から自動車に移り、トヨタ自動車の回答が天井相場となる時代が長年続いてきた。しかし、今回、賃金改善分の額を示さなかったことで、「トヨタ・マイナス・アルファ」という賃上げ相場波及の図式が崩れることになった。


 また、同一産業内でも、“横にらみ”の意識が薄れ、各企業の置かれた状況を反映した回答が昨年にも増して目立つ。加えて、同一企業グループ内でも親会社を上回るベア回答が示されるケースも増えている。こうした動きも、春闘の構造転換の一端を示している。


非製造系で金属上回る回答も


 これまでの賃上げ回答の分布を大まかに見ると、金属大手では、おおむね1000~1500円の幅に回答が集中する一方、非製造系企業では2000円前後の回答が目につく。UAゼンセン傘下の先行グループでは、第一のヤマ場終了時の賃上げ回答(124組合)は、定昇相当分を含めて単純平均で7417円(2.50%)となり、金属関連の引き上げ水準を上回っている。また、NTTグループでも平均1800円で妥結しており、電機連合の中闘組合、トヨタ自動車の回答を上回っている。


中小・非正規で積極的な賃上げ


 中小企業における積極的な賃上げも、近年の春闘の構造変化を象徴する動きである。昨年の春闘では、中小が大手の賃上げ率を上回る状況が見受けられたが、そのトレンドが昨年以上に加速している。


 また、組合員の過半数がパートなどの短時間労働者が占めるUAゼンセンの妥結状況を見ると、パート1人当たりの引き上げ率(加重平均2.82%)が、3年連続で正社員(同2.40%)を上回っている。こうした積極的な賃上げの背景には人手不足が大きく影響している。非正規労働者の処遇改善については、「同一労働同一賃金」の法制化に向けた動きが追い風になっており、これまでの正社員の処遇改善が中心だった企業内の分配構造にも大きな変化の波が押し寄せていることがうかがえる。


先取り・先送りされた「課題」


 働き方改革関連法案に含まれている長時間労働の是正に関連する法改正を先取りした交渉・協議が進展したことも、今春闘を特徴づける動きだといえる。連合のまとめ(4月6日時点)によると、36協定の点検や見直しについて、1388件の要求・取り組みがあり、回答・妥結は618件となっている。 一方、先送りされた課題もある。 65歳への定年延長を視野に入れた協議は一部で進んだものの、今季の交渉で合意に至ったところは極めて限られている。定年延長を視野に入れると、賃金制度の再設計が避けられないことも、協議が進まない背景にありそうだ。


 限りある人材を活用するため、働く人全体に関わる環境を整えることが、春闘における重要な交渉事項となっている。今季交渉を通じて、このことがあらためて浮き彫りになったといえる。


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働き方を自ら選択できる社会に
同一労働同一賃金 日本でも導入可能
――加藤勝信厚生労働大臣インタビュー

 今国会の最大の焦点のひとつである「働き方改革」について、加藤勝信厚生労働大臣に改革の狙いや進め方などを聞いた。改革への思いについて加藤厚労相は「大事なことは働く人が自分の状況に応じて自ら働き方を選択できる社会にしていくことだ」と述べた。(2017年12月22日、厚労省で。聞き手・稲葉康生、写真・麻生英明)


――まず働き方改革の狙いから、お聞きしたい。


厚労相 安倍政権の発足時、経済はデフレ下で停滞しており、デフレを脱却し経済を回復基調に乗せていこうとしてアベノミクスを実行し、かなり効果が出てきた。しかし、少子高齢化という壁が立ちはだかっており、その克服を図っていくためには、一人一人が力と思いを十二分に発揮できる社会、まさに一億総活躍社会を作っていく必要がある。


 子育てや、親の介護をしながら働ける環境を作ることにより、働き続けることや新たに働き始めることが可能となる。それが働き手の確保や生産性の向上にもつながり、経済が成長し、将来への展望が開け、若い人たちが結婚し、子供を持ちたいと思える状況が生まれていくという流れを作ろうと考えている。 そのために最大の挑戦とも言える働き方改革を進め、多様な働き方を可能とする社会を作っていく必要がある。具体的には、2017年3月に長時間労働の是正、同一労働同一賃金などを柱とする働き方改革実行計画を策定した。


――改革案では正規と非正規雇用労働者の格差是正が狙いだとあるが、具体的な進め方は。


厚労相 非正規雇用で働く人の割合は全雇用者の40%弱だが、そのうちいわゆる不本意非正規は16%くらい。正規として働きたい人はそれが叶うように、例えば研修の場を設けるなど、正規で働ける道筋をしっかりと作っていく必要がある。他方、様々な制約条件があることから非正規での働き方を選んでいる人も多くいる。正規と非正規の待遇の格差は欧州に比べて大きいこともあり、不合理な格差を是正し、働く人が納得した中で多様な働き方を選択できるようにしていきたい。


 元々、日本は職能給で欧州のような職務給ではないので同一労働同一賃金は難しいとの声があり、実は私たちもそう認識していたのだが、独、仏の実情を調べたところ必ずしも同じ仕事をしているから同じ賃金ということではなく、労働の質、勤続年数など様々なことを勘案して合理的かどうかの判断をしていることが分かってきた。


 そうであれば、日本の雇用慣行の下でも同一労働同一賃金の考え方を取り入れることができると考えた。そういう考え方に立って①パートや派遺、有期雇用労働者にかかわりなく不合理な待遇差の是正を図ること、②待遇差に関する企業の説明義務、③行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(ADR)を整備して労使紛争を解決することなどを内容とした法案要綱をまとめた。


――今回の改革については、労使間の訴訟が増える、使用者の脱法的な法規制逃れが増えるのではないかなどの指摘がある。労使双方への周知が大事だと考えるが。


厚労相 周知をしっかりと図っていくことは重要であり、必要な準備期間を確保していく必要はある。また、欧州がそうであったように日本でも判例の積み重ねによって精緻な形にしていくことになろう。最初からそうはいかないので、昨年、「同一労働同一賃金ガイドライン案」を公表し、具体的なイメージを示した。改正法が国会で通れば、今度は労働政策審議会に諮った上で、法律に基づくガイドラインを作ることになる。


――労組からは働き方は労使自治の問題であり、まずは労使合意が前提となるのではないかという声がある。


厚労相 改正法案においても、もちろん労使の話し合いが大前提だ。しかし、間題が起きて労使間で解決できないとなれば、訴訟になることもある。そうした中で判例などの積み重ねの下で新しい日本型の同一労働同一賃金の姿が作り上げられていくと思う。


――同一労働同一賃金が実現すれば、正規と非正規を区別する必要がなくなるのでは。


厚労相 全員がフル夕イムでの働き方を希望するということにはならないので、雇用形態としての正規・非正規の区別がなくなる訳ではないが、大事なことは働く人が自分の状況に応じて納得できる働き方を自ら選択できる社会にしていくことだ。


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対話を重視し、合意形成を図る
-相原康伸・連合新事務局長に聞く

 少子高齢化による人手不足、AIやロボットなどの技術革新という時代の大きな節目の中で、労働組合の総本山、連合の真価が問われている。10月の定期大会で、連合の舵取り役に就任した相原康伸・新事務局長に、極意を、ズバリ聞いた(11月30日連合会館、編集部)。


-抱負から伺いたい。


相原氏  重責を頂戴した。組織は大きく、働いている人の働き場も多岐にわたる。(自分は)働いている人の姿の一部しか見ていないと自覚するところから始めたい。公務部門では、もっと光があたってよい働き方があるだろう。民間でも、私が知らない苦労がたくさんあると自覚し、そこから丁寧な合意形成がはかれるようにし、ひとりひとりを大事にする運動を心がけていきたい。対話を重視していきたい。


-2020年に1000万人の組織を目指すというが、それに向けてどんなことをしていくか。


相原氏  30年前に労働戦線を統一した連合は、今、改めて、どういう連合を目指すか造詣を深めていかなければならない時期。また、2年後に30周年という大きな節目を迎える。(山に例えれば)駆け上がり方、歩みの速さを揃えながら、一体感をもって上がっていく。


 プロセスを大事にして、できるかぎり多くの人たちとの会話量を増やしたい。その上で、より多くの仲間との対話を進め、経営者の理解も深め、連合への理解が広がれば、一番良いことだ。よいプロセスがあれば、よい結果がついてくる。秘策はない。決意を固めて、みんなで最大限の努力をしていく。


      

-この間の連合の運動をどう評価するか。


相原氏  連合の存在意義が世の中から薄まるということは、働く人の存在感が世の中で薄まっている証左と受け止めるべきとすると、その理由を産業構造上の問題と整理しないほうがよい。構造上の問題を見据えて、私たちがどういう運動をしてきたのかに振り向ける方が今後にとっては糧になる。往々にして、(人を増やすという)組織拡大に力点がかかるが、(他方で)組合がある企業労使と、組合がない企業との違いをわかってもらうことが必要だ。組合がある意味を知ってもらい、そういう企業労使の姿を目指してもらえるようにしたい。そんな理解者を増やしていかない限り、組織の拡大につながっていかない。代表選手としての連合の発言や発信や行動が世の中の人から共感が得られるようにしていく努力をもっとしていかないといけない。


-政策実現に力点を置く視点からみれば、政党との関係はどう対応していくか。


相原氏  数多の人にとって、連合のいっていることは理がある、与党からでも野党からでも、理があると持っていけるかどうか。その実力をずっと試されている。選挙が終わったならば、政権政党がどこになろうと、行政機関になるのだから、私たちの思いを正確に届けていくのが大事だ。政権を構成した以降は、政府は与野党関係なく聞き入れる態度が必要ではないか。議会制民主主義の基本中の基本だ。21世紀の日本の合意形成の在り方を、もっと、研ぎ澄ます上でも、与野党超えて、合意形成の在り方をもう一、二段高めていかなければいけない。それが政府に対する信頼になる。


―政治介入とも思われることが相次いでいるが、どう考えるか。


相原氏  労使自治が原則だ。交渉協議を通じて、賃上げが不十分で消費にインパクトを与えることができず、労使が困ることになっても、賃上げしすぎて企業が左前になって、労使が困ったとしても、交渉協議のプロセスと結果の全てに対して、労使が責任を持つということだ。それが職場を強め、働く人の先行きも確かなものにする。その労使の交渉協議の結果が広がっていくのが望ましい。政府が音頭をとるのは賃上げの数字ではなく、賃金引き上げの結果がより活きる経済や社会環境を、政府が整えるべきだ。だから、継続が大事だ。競争力強化のために賃金を抑制することが短期的に経済活動にプラスになったとしても、中長期の日本をよい方に導くとは思えないという人たちの合意がここ数年ある。政府が旗を振った効果は小さくないかもしれないが、中小企業労組が大手企業労組の要求基準を上回ってもよいという社会的合意が根づいてきたことが最大の成果であり、中小企業、非正規労働者の賃上げにつながっていっている。要求の入り口でも出口でも意識が変わってきているのは、大変な構造転換だ。絶対に止めてはいけない。


-官邸との関係はどうか。


   

相原氏  政労会見などもあるが、政府は社会対話の窓口になってほしい。社会対話が根づく社会はものすごく大事だ。企業労使を超えて、労組のないところで働いている人も社会対話はできる。ILOの100周年が、連合30周年と同じ、2019年にやってくる。労働の総結集と社会対話の成果ここにありを見せていく。2019年に向けて、ビジョンをつくろうとしている。働くことを軸とする安心社会の実現をそこに込めたい。そういう大事な時にきた。


<取材を終えて>


 事務局長の信条は、とことん対話―ということか。学生時代は大学のヨット部で、2人乗りの「ディンギー」を操った。これは、海と風との対話だったが、これからは、連合だけにとどまらず、働く者6000万人の超巨大船の舵をとり、社会という荒海の中で、セーリングから航海に深化させなければならない。そのお手並みに大いに注目したい(植木 隆司)。


過去記事

「国鉄改革」30年
国鉄改革・民営化の真実
国家による不当労働行為と労働運動の解体

稲葉康生

 『昭和解体国鉄分割・民営化30年日の真実』(講談社)を出版したジャーナリスト牧久さん(元日経新聞記者)から6月27日、「ヒアリング」で話を聞いた。著作は517ページ、中身の濃い報告で、中曽根康弘元首相、富塚三夫・元総評事務局長へのインタビューは、長い取材の蓄積があったからこそ聞くことができた事実が数多くあり、読み応えがある。


 ここでは牧さんの話を要約し、そのうえで「国鉄解体」の意味と、その評価について考えてみたい。



「ヒアリング」で熱弁をふるう牧久さん

 牧さんの話を要約すれば▽国鉄改革の狙いは鉄道の赤字解消と国労解体の二つであった▽それを実現する手段として分割・民営化方式が考え出され▽中曽根康弘首相が政治生命をかけて実行し▽その結果、国労、総評が解体、社会党崩壊、そして自民一強時代へとつながっていった――ということになる。


 中曽根氏らが仕掛けた国鉄改革の最大の狙いが、赤字解消より労働運動の解体による保守政権の永続にあったことは明らかだ。


 国労の分裂・解体の後、労働運動は組織再編の時代を迎え、総評など労働4団体が解散、金属労協など労使協調路線の労組を中心にした連合が発足、労使協調路線へとカジを切っていった。その結果、ストライキは激減、春闘も低調となり、労組組織率は2割を割った。現在の安倍政権下ではデフレ対策の一環として政府が賃上げを経済界に要請するという「官製」春闘が定着、国民は労働運動への関心を失い、労組の地盤沈下が止まらない。


 国鉄の分割・民営化は「光と影」の両面を内包していた。「光」が当たったのは民営化によるJRの発足、赤字の解消、サービス向上などがある。一方、「影」部分は国労、総評の解体、野党勢力の衰退、そしてJR北海道、四国などの赤字累積、赤字路線の廃止などだ。「影」は国民生活に大きな影響を与え、深刻な間題をひき起こしたのだが、世間の関心は低かった。


 私が当時、国鉄取材で痛切に感じたのは、国家の持つ巨大な力、そして反対勢力をたたきつぶすためなら何でもやるという政治権力のすさまじさだった。当時も、そして今でも、国鉄の分割・民営化は国家による「不当労働行為」だったという私の考え方は変わっていない。国労組合員をJRに採用しないための根拠規定となる国鉄改革法を新たに作り、不当労働行為を合法的に行うための立法を数の力によって押し通すという手法で分割・民営化は実現した。


 03年12月、国労組合員1047人のJR不採用事件の間題で、J R6社が中央労働委員会の救済命令取り消しを求めた訴訟で、最高裁は「JRに使用者責任はない」と判断して、中労委・国労の上告を棄却した。注目すべきは、この判決で5人の裁判官のうち2人が反対意見を述べ、司法判断が割れたことだ。反対意見を述べた中には裁判長もおり、「多数意見は形式論に走りすぎ。国鉄はJR設立委員を補助するもので、採用に違法があった場合はJRが使用者責任を負う」と判断、さらに「(国労組合員の)不採用が不当でなかったとは断言できないから、審理を高裁に差し戻すべきだ」と述べている。


 国労事件の争いが最終的には中労委や最高裁までいくことを想定し、国鉄改革法を準備したのだから、国労の勝利は容易ではなかった。中労委が不当労働行為と判断した意味は重いのだが、最高裁は中労委の判断を認めなかった。立法府も司法も国労を見捨て、戦後労働運動に「敗北」を突き付けたのである。


 歴史に「if(もしも)」はない。とはいえ、国鉄分割・民営化の「影」は放置されたままだ。あれから30年。経済停滞もあって、無力感や閉塞感が社会をどんよりと覆っている。


過去記事

岡崎厚労審議官が労ペン会員にレク
「働き方改革」実行のスピード感を強調

 厚生労働省の岡崎淳一厚生労働審議官による、政府の「働き方改革」を中心とする労働政策説明会が、4月12日午後2時から束京・ 霞が関の同省会議室で行われた。

 会員48人が参加し、1時間半にわたって説明を受けた。

 メーンテーマは、「働き方改革実現会議」(議長・安倍首相)が、さる3月28日にまとめた実行計画。 正社員と非正規社員の不合理な待遇差をなくしていくための「同一労働同一賃金」の実現、時間外労働の上限規制-などについて、役所の立場から解説した。参加者からは、「(実施にあたり、その企業の)労使協議で決めていくのは、現実的対応。但し、労使協議は十分に機能するのか」「(長時間労働を容認するような)時間外労働の特例条項はおかしいのではないか」などの質間も飛んだ。

 政府は、働き方改革を、日本経済再生への最大のチャレンジとしており、労働政策審議会でこの計画を前提にスピード感を持って議論し、早期に国会に提出、法制化し、実施に移していくとしている。 新聞報道では、秋の臨時国会で関連法を改正し、2019年度から導入するとされている。



労使トップを含めて検討

 岡崎審議官は、まず、この計画のこれまでの流れについて説明。

 昨年6月の1億総活躍プランから始まり、参議院選後、安倍首相が「働き方改革が必要」と表明し、同9月、担当大臣を任命、さらに、自ら議長につき、 労使トップも含めた「働き方改革実現会議」をスタートさせたこと、その後、10回にわたり9テーマについて議論したこと、その結果が、3月28日に実行計画として取りまとめられた――とした。

 各論では、実行計画の最大の柱とされる、同一労働同一賃金の間題と、長時間労働の上限規制について、細かく説明した。総理報告の中で、上限規制について、「単月は100時間を基準値とする」と曖味な表現になったが、基準値の解釈について、総理から「10 0時間以下ではなく、未満で」との判断が示され、経団連も「未満で結構」と了承したこと、自民党への説明会のさい、再就職支援の項で、「中途採用」と表現されていたが、「中途という考え方が間題だ」とのクレームがつき、「転職者採用」に変わったなどのエピソードも披露した。



非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金)に注力

〔問題意識〕非正規が増加し40 %に。仕事の中味と処遇が対応していないのが間題。踏み込んだ議論が十分でなかった。

〔経過〕同一企業での正規、非正規間の不合理な待遇差を是正するため、16年6月、ガイドライン案を示した。法制化を進めていく中で確定し、ガイドライン案の案をとっていく。

〔改正方向〕ガイドライン案の実効性を担保し、裁判で救済されるように、根拠を整備する。パート法、労働契約法、派遺法の法律を改正する。

①現行法では、有期雇用者の均等待遇規定がないため、均等待遇規定を規制し、ガイドライン案に根拠を与え、裁判でも争えるようにしていく。派遺、パートも同様に改正する。

②雇い入れ時、雇い入れ後の、企業側の説明責任をしっかり書き込む。比較対象となる労働者との相違の理由を明示させる。

③裁判外紛争解決手続きの整備。

④派遺労働者に関する法整備。



長時間労働の規制で前進

〔問題意識〕長時間労働は年間平均2000時間で変わらない。過労死間題もあり、上限規制することが必要。

〔経過〕法で上限規制することに抵抗が強かった経営側も、経団連が容認し、3月13日の労使トップ会談で、「原則として月45時間以内、年間360時間以内」が合意された。特例でも、「月平均60 時間、年間720時間」とする。 なお、特別条項でも、「原則的上限に近くする努力が重要」とした。

〔改正方向〕現行の告示(36協定で締結できる上限を、原則月45時間以内、年間360時間以内)を法律に格上げし、罰則も設ける。

 労使が特別に合意しても上回ることができない上限を設定。特例として、月60時間、年720時間。 繁忙期は単月100時間未満、2 ~6月では、平均80時間を上限――などを設ける。(植木隆司)

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2017年定時総会
デジタルでの情報発信に注力
新規会員の獲得が喫緊の課題

 日本労働ペンクラブの2017年定時総会と新年懇親会が1月10日、束京・内幸町の日本記者クラブで開催された。参加者は、会員のほか、各界の招待者などを合わせ、合計で117名だった。


 会員総会は、冒頭、昨年中の物故会員に対する黙とうの後、稲葉康生代表が今年の活動を振り返って挨拶をおこなった。稲葉代表は、「昨年はヒアリング、見学会、モンゴル訪間など多くの活動が活発に行われた。 当クラブには広い分野から多彩な人たちが参加しているので、その意見交換や交流も楽しみである。これからの活動でどんな光景が見えるのか、今年の活動に期待したい」と語った。


 中川隆生事務局長からは、16年度の活動報告、林元夫会計幹事からは、決算報告、坂田一複三監事から監査報告がそれぞれあり、いずれも承認された。



新年懇親会で挨拶する稲葉代表

 続いて17年度の活動計画及び予算案についての提案があり、これも原案通り承認された。このなかでは、主に財政上の理由から会報を年4回以下の発行に縮減、代わってホームページと連携したデジ夕ルでの情報発信を強化することが打ち出されている。


 なお、予算案の説明の中で林幹事は、昨年末における会員数は197名、会費納入人数は189名であり、当ペンクラブの予算規模は200人体制なので、近々、財政事情がひっ迫するのは必至と指摘。会員に新規会員の拡大を強く訴えた。


規約を一部改正


 今年度は役員の改選期に当たるが、役員推薦委員会の数度の議論を経て、新たに2点の重要な提起がなされた。


 ひとつは執行体制の充実を図るために事務局次長を「1名」から「2名以内」とする規約の改正案、もうひとつ、代表の任期についての特別措置の提案。


 特に代表については、後任の候補が見つからなかったことから、空席が生じることを避けるため、推薦委は現代表に続投を要請したうえで、「2017年度の場合に限り」規約の規定(2期4年)を適用しないという特別措置の必要性を提起。これらの提案についても満場一致で承認された。


稲葉代表が続投、新事務局長に麻生英明氏


 このあと17年度の役員選出に移り、稲葉代表、麻生英明事務局長ほかの全員が承認された。


 なお、労ペン賞について、久谷與四郎選考委員長から、会員による推薦作品が1点あったが、審査の結果、今回は該当作なしとしたとの詳細な報告があった。

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水俣・熊本見学会報告
病気と地域の冷たさに苦しむ公害被害者
今も続く潜在患者調査、被害者は10万人超の見方も
――水俣病公式確認60周年の水俣と震災の熊本を訪ねて

中川隆生

 20年ぶりに訪れた水俣は、青い海に隔てられた天草の島々に囲まれた穏やかな不知火海、リアス式海岸の急斜面に広がるみかん畑を背にした漁村ののどかな風景が広がっていた。ここが何千、何万の住民の命、健康を奪った舞台だったとは昔も今も想像しにくい。


 有機水銀を含む工場排水を垂れ流した加害企業チッソは水俣病問題解決特措法による事業再編で5 年前、 JNCに社名を変更した。 今でも世界シェアの4割を占める液晶などを生産し、600人の社員と関連会社員を含め約1000人の雇用を担う水俣の城主的存在だ。水銀ヘドロが堆積した水俣湾は、束京ドーム12個分(58ヘクタール)の広大な海面が埋め立てられ、竹林と芝生が広がる市民の憩いの場に変わっていた。変わらないのは、チッソ城下町でひっそり暮らし続ける水俣病患者・家族の生きづらさだ。


 11月10、11日の水俣・熊本地震被災地の見学会には15人が参加。 初日は熊本県庁、熊本労働局で、熊本地震の被害、復旧状況、雇用対策などのレクチャーを受けた。見学会を準備してくれた会員の小野豊和さん(東海大教授)の自宅マンションに招かれ、小野さんは阿蘇、熊本市などの生々しい被害状況をパワーポイントで説明してくれた。このマンションもひび割れた壁が散見され、地震のすさまじさを実感させられた。



相思社で患者さんの話を聞く

 2日日は、水俣病患者・家族の支援を続けている水俣病センター相思社の葛西伸夫さんの案内で、かつて水銀を含む工場排水を水俣湾に流した百間排水口、水俣湾のヘドロ埋立地、チッソ水俣工場、患者が多発した茂道地区、水俣病歴史考証館を回った。


 今年は水俣病公式確認60周年にあたる。筆者は第1次水俣病訴訟が続けられていた1970年4月に朝日新聞に入社し熊本支局に赴任。原告被害者の全面勝訴となった73年3月の判決の前後1年8ヶ月間は、現地水俣にも駐在した。その後は福岡、束京で経済部勤務、「水俣病」は一読者として接するだけだった。たまたま、村山政権が1995年に水俣病最終解決案を決定した後に、現地ルポを書く機会があった。見学会はそれ以来の水俣訪間になった。


 水俣病問題は何度も「終わった」とされてきた。しかし、終わるどころか今も潛在患者の調査・発掘が続けられており、被害の全貌すら確定していない。 熊本、鹿児島両県が認定した患者は、2282人(うち1889人死亡)にのぼる。未認定でも、国の救済策や裁判で約7万人の被害が認められているが、10万人を超えているという見方もある。


 60歳代の女性患者の話を相思社の集会棟で聞いた。 チッソ社員の父親が1954年に急性劇症型の水俣病を発病。2年後に38歳で亡くなった。 漁師の祖父も9年間の寝たきり後に死に、祖母も続いた。自らは症状があるものの、水俣病患者家族である事を他人に話すことを避けてきた。「ひたすら水俣病から逃げてきた」という。


 チッソは、工場排水の有機水銀が水俣病の原因と疑われていた1959年に排水浄化装置(サーキュレーター)を作った。ところが、この装置は有機水銀を除去する能力はない。チッソはネコに排水を与える実験で工場廃水が水俣病の原因と認識できたはずなのに、見せ掛けの対策でごまかした。その後も、アセトアルデヒド製造設備の操業が停止されるまでの9年間、有機水銀は水俣湾に垂れ流された。皮肉にも「母親は生計のためサーキュレーターの突貫工事に従事した」。


 女性患者は「もっと早く声を上げていれば貴重な海を失わなかった」と振り返る。今は「水俣病を語り継ぐ会」の会長を務め、水俣病の発信を続けている。それでも「加害企業と被害者が一緒にいることは本当に辛い」と付け加えた。



水俣病慰霊碑の前で

 見学会の宿は水俣市の中心部の北にある湯の児温泉。新鮮な魚を堪能した。この温泉はチッソによって潤ってきた。水俣病問題が浮上する度に、「病名を変更したらどうか」「観光客が減る」などと声を挙げ、「水俣病問題」を圧殺する運動の先頭に立つてきた。そのリーダー格だった老舗旅館の経営者はすでに亡くなり、旅館は数年前に倒産していた。


 公式確認から60年。熊本県の公害教育では、生徒の水俣訪問が義務化され、チッソは工場見学を積極的に受け入れるなど、「水俣病」を取り巻く環境は変わってきた。 だが水俣病の症状に苦しみ、市民の冷ややかな日を感じながら生き続ける患者・家族の日常は変わらないと思った。

過去記事

モンゴルは今「国家建設の工事中」
-経済、社会資本整備、渋滞・大気汚染など課題抱え

労働ペンクラブ代表 稲葉康生

 日本労働ペンクラブのモンゴル訪間団(27人参加)として2016年9月12~15日、首都ウランバートルを中心に取材と観光をしてきた。


 首都ウランバートルでは、モンゴル政府の労働社会保護省、モンゴル労働組合連盟、モンゴル経営者連盟の幹部らから、政治、経済、社会情勢の説明を聞き、意見交換を行った。また在モンゴル日本大使館、 JICA社会保険実施能力強化プロジェクトのチームや、日本に多くの留学生を送り出している新モンゴル学園、国立モンゴル大学の中に設置されている名古屋大学・日本法教育センターを訪れ交流をしてきた。後半は保養地・ テレルジで遊牧民の住居として使われているゲルに1泊、遊牧民の暮らしぶりも見てきた。


人ロ集中、渋滞、大気汚染

 「ただ今、国家建設の工事中」。 これがモンゴルの第一印象だった。

 日本の4倍の国土があるが、約38万人の人口の半数が首都ウランバートルに一極集中、地方では遊牧民が移動しながらゲルに住む。

 ウランバートルの街は、至る所でビルの建設工事が行われ、また車の急増に道路網整備が追い付かず、交通渋滞と排ガスによる大気汚染が深刻化していた。

 現在のモンゴルは、政治も経済も安定しているとは言えず、社会資本の整備もこれからだ。前途には、さまざまな課題が待ち構えており、国家建設の途上という状況だ。雑駁にいえば、敗戦後の日本と同じような状況といえば分かりやすいかもしれない。私たちが会った若者や企業人らからは将来への熱い気持ちが伝わってきたが、国づくりは始まったばかり、そんな現状をみた時、「工事中」という言葉が浮かんだ。

 鉱山資源に頼る「一本足経済」からの脱却、社会インフラや教育の整備、年金など社会保障制度の構築など課題は山積している。ここ数年、モンゴル経済は世界経済の停滞で資源価格が下落、成長率が低下を続けており、経営者連盟などの話からは、日本などからの投資期待が強かった。


 グローバル化のすさまじさ


草原を見下ろす高さ40mのチンギス・ハーン像(ウランバートル郊外で)

 司馬遼太郎の名著『草原の記』を読んで、一度はモンゴルに行ってみたいという念願が、ようやく叶った。司馬はこう書いている。「遊牧民は元来、物を蓄えない」「奇跡的なほど欲望少なく生きている」「物欲がすくないため家内工業もおこらず、資本の蓄積も行れず、結局はそれを基盤とした近代化はこの草原にはうまれにくかった」「かねがね、かれらの存在そのものが詩であると私は思ってきた」。

 とはいえ、この著作が出版された1998 年から、20年もたたないうちに、モンゴルの情景は様変わりしていた。地方を見ることはできなかったので断定はできないが、ウランバートルとその郊外を見る限り、「物欲すくなく生きている」という状況ではなくなっていた。

 「これがグローバル化か」。モンゴル旅行中、 このことが頭を離れなかった。「マネー経済」が国を席巻し、街には近代的なビルやマンションが建ち、遊牧民のゲルは郊外へと追いやられて、都市住民との貧富の格差も広がっている。

 市場原理主義のすさまじいばかりの浸透力と、長く続いた社会システムをあっという間に壊して作り変えてしまう破壊力の一端を日の当たりにした。

 モンゴルの 「国家建設の壮大な工事」は、今後しばらく、早いスピードで進み、日本もそうだったが社会は大きく変動し、人々の暮らしや考え方も変わっていくだろう。それが「近代化」の宿命なのかもしれない。そういえば司馬は『草原の記』の中で、「近代とはカネの世のことである」と言っている。

 まさに至言なのだが、それでも「天に近いモンゴル」は永遠であってほしい。(モンゴル訪問団団長)

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安倍政権の「同一労働同一賃金」
非正規の処遇改善が最大課題

明治学院大学名誉教授 笹島芳雄

 今日の労働間題の中で、解決を急がなければならない最重要課題のひとつが非正規労働者の処遇改善間題である。賃金が低く結婚できない非正規労働者は少なくない。 わが国最大の懸案である少子化問題を一層深刻化させている。


 非正規労働者の処遇改善に向けた安倍政権の「同一労働同一賃金」政策はまったく時宜を得た適切な政策であり、是非とも成功させなければならない。

 閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」によれば、①我が国の雇用慣行には十分に留意しつつ、非正規労働3法(労働契約法、パート夕イム労働法、労働者派遺法) の改正準備を進める②非正規労働3法の的確な運用を図るため、どのような待遇差が合理的であるか、または不合理であるかを示すガイドラインを策定する、としている。

 「同一労働同一賃金」の重要な間題は、同一労働でなければ同一賃金とならない、という点である。企業が正社員または非正規労働者の労働内容を変更すれば「同一労働同一賃金」から逃れることが可能となる。「同一労働」の概念を「実質的に同一労働」に拡充したとしても、工夫して逃れる企業は続出するであろう。正社員と同一労働の非正規労働者しか救済されない、という別の間題もある。

 加えて「我が国の雇用慣行には十分に留意しつつ」という逃げ道を用意している。その心は、同一労働であっても、勤務地や配置の変更の可能性の有無に差があれば、同一労働とはみなさない、ということではないか。

 これまでの「同一労働同一賃金」政策の議論において、賞与・退職金をどう扱うかの議論が全くない。非正規労働者の多くに賞与が支給されないこと、支給されても正社員と比較し、かなり低い水準となること、長期間勤務しても退職金は「雀の涙」に過ぎないといった間題も存在している。

「仏作って魂入れず」となる可能性も

 非正規労働者のみならず多くの組織や人々が、「同一労働同一賃金」政策の実現により非正規労働者の賃金間題が解決するものと期待しているが、上述した大きな枠組みからすると、実現したとしても直ちに間題解決となるような内容ではない。仏作って魂入れずとなる公算大である。

 非正規労働者の立場からすると、最も公正な賃金は「同一価値労働同一賃金」である。企業にとって価値の高い労働を行う労働者ほど高い賃金とする、という考え方の賃金である。この賃金であれば、「同一労働同一賃金」の上述した問題はなくなり企業の逃げ道はふさがれる。しかし、ほとんどの企業の現在の賃金制度では対応できないこと、そして「我が国の雇用慣行には十分に留意しつつ」とはならないという間題がある。

 幸いなことに、2015年9月に与党および維新の党の賛成により成立した「同一労働同一賃金推進法」には同一価値労働同一賃金の考え方が織り込まれている。この法律の着実な施行、強化を通じて非正規労働者の処遇改善を図っていくべきではないだろうか。

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熊本地震1か月 現地では

東海大学経営学部教授 小野豊和

 最大震度7を記録した熊本地震から一力月を越えて、なお1万人以上が避難生活を送っている。復旧の遅れも懸念されている。 現地熊本で教鞭をとっている小野会員による緊急レポート。

気象庁が敗北宣言


東海大生が亡くなった民間アパート

 4.14熊本地震、2日後の揺れを「本震」と発表する気象庁報道に違和感を持った。

 前震と言い換えた揺れの後、「倒壊の恐れのあるご自宅には戻らないで下さい」と何故言えなかったのか。地震による死者は前震で9人、本震で40人。気象庁は「過去の経験則に当てはまらない地震」、「現在の地震学では前震から本震を予測することができない」と釈明した。

 1ヵ月経って死者49人、関連死20人、行方不明1人、重軽傷者1664人。住宅被害は全壊・半壊・ 一部損壊が約8万5000棟。熊県下24市町村の避難所234カ所に1万305人。本震直後の4月17日は33市町村855の避難所に約11万人だったのに比べると減少したが、避難者には安心して戻る家がない。震度1以上が1500回になろうとしている。


住宅には立入禁止の危険度判定が

 政府はTPP審議を中断し、4月24日に激甚災害法、同28日に特定非常災害特別措置法、5月10日に大規模災害復興法指定を適用。 しかしこの3つの法律だと県及び市町村の財政負担1割が残ることになる。熊本県の年間予算規模が約7500億円なので、復興予算を毎年4000億円とすると5年間で2兆円、県民の税負担1割は2000億円となり税収の落ち込みが予想される。東日本大震災、阪神・淡路大震災同様全額国庫負担となる特別立法の制定が期待される。各分野の被害状況は、公共土木施設等で1710億円、農林水産関係で1072億円、環境生活関係で170億円等。

南海トラフは想定していたが

 九州の中心に位置する熊本は自衛隊部隊、内陸空港という条件から南海トラフ地震発生時の現地対策本部候補に選ばれていた。営業部長兼しあわせ部長のくまモンが「九州の安全を守るモン!」と県サイトで応援する姿があるが、自県が震源となる大地震は想定外。 熊本市防災計画では震度7の被災規模を最大5万7000人と想定、11万人を超える市民を受け入れる指定避難所不足という対応の遅れが露呈した。罹災証明中請は30市町村の10万3477件に対して、交付件数は21市町村で3万682件と30%に過ぎない。市内の分譲マンション被災も8割を超え、管理組合からの要望に応え共有部分の罹災証明を発行することとなった。

 学生の就活期間が昨年に比べ2カ月早まり6月解禁、中小企業は早期に内定を連発、大手は被災学生への個別的な配慮を言い出したが、復旧見込みが立たない被災企業も多い。

 ″想定外〟を連発する責任回避はそろそろ辞めて欲しい。「想定外を想定し先手先手で復旧・復興にあたらなければならない」と蒲島知事も表明している。

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景気先行指標に化した賃上げ

森一夫

 賃上げ交渉のやま場とされる金属労協の主要労働組合への一斉回答に、新聞各紙は総じて渋い評価だ。しかし昨年を上回る賃上げを期待するのは無い物ねだりだろう。 俗に春闘と言うが、既に完全に変質し単なる看板に過ぎない。

 賃上げは今や、景気動向を占う株価と類似の先行指標に化していると言えそうだ。2016年3月期の上場企業の決算は過去最高の利益が見込まれる。にもかかわらず金属の賃上げが前年実績の半額程度で妥結したのは、要するに「先行き不安」による。さらに一時金も含めてみれば賃金は、業績変動に合わせて増減可能な変動費に実質的になっている。


集中回答日(3月16日)の金属労協本部

 例えば、注目のトョ夕自動車である。3月期に3兆円近い営業利益を見込む同社は、前年実績より1000円低い月額3000円のベア要求に対して1500円で決着した。一時金は、前年実績の6.8か月を上回る7.1か月の要求に満額回答だ。年収ベースでは3.2%のアップ率になる。

 カネに色はついていないから、月例賃金であれ一時金であれ、増えれば労働組合側は実を取ったといえる。政府がGDP600兆円を達成するために経済界に求める「3%」賃上げに、経営側は応じた形になる。労使双方の名分が立つ。

 年明けから、中国経済の低迷をはじめ世界経済は乱調で、国内経済の先行きにも警戒感が広がる。

 マクロ的に経済を上向かせるほどの賃上げが必要でも、個別企業の労使は自社の先行きを前提に賃金を考える。

 ベアは抑えて、儲かった分は削りやすい一時金で分配する。こうした方式がベアゼロ時代から広がって定着している。欧米には無い多額の一時金で賃金総額を増減して、業績変動に対応する。デフレ時代に労使が編み出した智恵である。

 メガバンクの組合がマイナス金利政策による業績後退を案じて、ベア要求をせず一時金のアップを求めたのはわかりやすい例だ。神津里季生連合会長は「自分たちはボーナスさえ上がればいいというのでは労組としていかがなものか」と批判したが、これは企業別組合の本音が露骨に出たものだろう。

 一斉回答の当日、相原康伸金属労協議長は「継続的な賃上げの流れを広げる回答引き出し状況と受け止める」と語った。加盟組合の企業はグローバル化の影響を受け、事業の成熟化、空洞化が進んでいる。本来、トップバッターは無理なのだが、代わりがいない。3年連続のベア回答は、政府、日銀の経営側への強い働きかけに負う所が多い。 現行の賃金決定方式は限界に来ている。看板も含めてがらがらぼんが必要だ。

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2016年新年懇親会
非正規労働者の増加に歯止めを
 労ペン・稲葉代表が挨拶で強調

 日本労働ペンクラブ(稲葉康生代表、197人)は新春7、東京・千代田区の日本プレスセンター で2016年定時総会と懇親会を開催した。このうち懇親会には労ペン会員、厚労省や労働3団体はじめ各界の招待者含め132 名が参加。拡大する非正規労働者の在り方や、今年の春闘、参院選に向けた政策課題などで意見交換、今後の労ペンクラブの活躍、健筆に大きな期待が寄せられた。

 稲葉代表は主催者あいさっで、非正規労働者が増大し「不安定雇用の時代になった。この流れに歯止めをかけるべきだ」と間題提起した。


▽政策全体を通して判断を


 来賓として招かれた厚労省・ 岡崎淳一審議官は、長時間労働の削減や非正規労働者の正社員転換の推進などの政策課題について触れ、「近く非正規労働者間題でプランをまとめたい」とし、安倍内閣が進める「一億総活躍社会」では厚労省の所管分野が多いとして「この5、6月ごろまでに数年間を見越した政策を作成し、しっかりと関わっていきたい」と述べた。また、労基法改正法案に対し規制緩和の一環とする見方があることに対し、有給休暇取得や割増賃金の格差是正、労働時間の正確な把握などを通し「働き方の見直し」につながる「労働市場政策全体をみて判断していただきたい」と要望した。


▽富の適正配分を


 連合・神津里季生会長は、 「頑張った人たちに富が適正に配分されることは、当たり前の話だ」とし、今春の「生活闘争」に全力を注ぎ、政治課題としては半年後の参院選を挙げ「国民の期待は、しっかりした(政権の)受け皿の存在だ。普通の国民意識が大きく前に進もうとしている。先頭に立って取り組む」と決意を表明した

 労働団体からは全労連・小田川義和議長、全労協・金澤壽議長も招かれ、「労働者法制の改悪で権利の後退は許さない。今こそ過去のいきさつを横に置き協力を」(小田川議長)、「新しい国民運動が盛り上がっている。 これからの10年を決める1年になる」(金澤議長)などと新しい労働、市民運動への期待を述べた。(麻生英明)

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今、労働運動が一番必要とされる時

 ――神津里季生・連合新会長に聞く

 2015年10月に開かれた連合第14回定期大会で新会長に選出された神津里季生(こうづ・りきお)氏に、稲葉康生・日本労働ペンクラブ代表が、日指す労働運動や抱負などを聞いた。

――まず、労働運動に入るきっかけからお聞きします。

 神津 昭和54年、新日鐵に入社して3年3か月後に本社に異動し、そこで職場委員を経て支部書記長をやった。27歳で本部専従になった。

――労働運動には学生時代から興味がありましたか。


神津会長(右)にインタビューする労ペン稲葉代表

 神津 学生時代は野球部のマネージャーをしており、それに明け暮れていたので、労働運動に関心は持っていなかった。会社に入った時にも、組合役員をするとは考えていなかったが、組合役員となり、多くの人と付き合う中で、みんなが共通の日標をもって活動する労働運動に興味を持つようになった。

――日本の労働運動は長い間、低迷している。組織率の長期低下傾向に歯止めがかからず、17%にまで下がった。新会長としてどのような労働運動を目指すのか。

 神津 本来は今、労働運動が一番必要とされている時代状況だと思う。しかし、それに気が付かないで苦しんでいる人が多くいる。そこに私たちの運動が見えるようにすること、そして手を差し伸べることに、一層重点を置いてやっていく必要がある。

 連合組合員は2007年に665万人で底を打って反転し始めており、現在は682万人にまで増えた。組合員は一気に増えるわけではないので、社会に向けて連合のアピール力を強めることに心血を注いでいきたい。構成組織、地方連合会、そして連合が三位一体となって連携して運動をしてきたが、主役は働く人や困った人たちであるという基本を、連合や構成組織、単組が共通認識を持って取り組んでいきたい。

 ●働く人への発信力をつけたい

――「連合を知らない」「労働運動の姿が見えない」という声もある。


抱負を語る神津会長

 神津 2015年9月のインターネット調査では、回答者の46%が「連合を知らない」とし、特に若い人や女性の認知度が低い。働く人たちに対する発信力が弱いことが労働運動の大きな課題であり、何とかしたい。

――パートや派遺など非正規労働者の割合が働く人の4割にもなった。将来、半分が非正規という可能性も高い。人口減少社会となり就労人口が減っていくので、手をこまねいていると労組への加入者も減っていく。 正規社員が増えない現状では、非正規労働者の組織化を積極的に進めて必要があります。

 神津 連合の今期の組織拡大目標である71.9万人に対し、実績は30.7万人となり、初めて30万人を超えた。うちパートが16.3万人いる。非正規の組織化は道半ばだが、非正規組合員は90万を超えており、非正規の個人加盟を認める仕組みも作った。今後もさらに組織化に取り組んでいく。

――連合は大企業の正社員中心の組合であり、非正規労働者の組織化に熱心ではないという指摘もある

 神津 労働の現場では、働く人たちの根底には「支え合い・助け合い」の気持ちはある。だが、放っておくと、組合費を払っている組合員のための運動になりかねない。自分たちの近くで働いている非正規の労働条件の問題が最終的には自分たちにもはね返ってくるので、運動の輪を広げていく必要がある。

 ●春聞、参院選で結果を出す

――新会長として何を重点に取り組むのか。

 神津 まずは春闘で結果を出すこと。甘利大臣は「3%(賃上げ)」などと気楽なことを言うが、実際に交渉するのは労使であり、現在の経済状況からみて並大抵のことではない。この2年間で賃金引上げの流れが生まれているが、それはまだ組織内にとどまっており、全体の「底上げ・底支え」という課題がある。

 二つ日は2016年の参院選だ。今の政治を許してはいけないという意味で民主党は改選議席を上回ることが必要だ。民主党の改選議席が多く大変だが、全力を挙げて取り組みたい。

 労働運動は長い「冬の時代」から脱することができるのか?これが連合発足以前から労働取材をしてきて思うことだ。正社員が減り、非正規労働者が4割にも增える中、労働運動再生への道筋と具体案を示すことが、神津新会長をはじめ労働運動のリーダーに求められている。

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ミャンマー訪問団報告

 「一つになれない国」の苦悩と希望

  ミャンマー訪問を終えて

訪問団長 稲葉 康生

 日本労働ペンクラブと日本ILO協議会の共催で、9月6日から12 日までミャンマーを訪間した。 労組、農民組合のリーダーや経済団体など10数諸団体との意見交換や交流を行い、3大仏教遺跡群がるバガンでは見事な寺院などを見学、イラワジ川の洪水被害の現場も見てきた。ミャンマーの現実をこの目で見て、人々との交流を通じて得たものは大きかった。

 ミャンマーは2つの顔を持つ国だ。「一つになれない国」、そして「苦悩と希望が輪廻する国」である。短い滞在期間だったが、多くの人に会い話を聞きながら、そう感じた。

 「一つになれない」背景には、軍政と民主化を求める民衆の対立があり、もう一つは多数を占めるビルマ族と少数民族の歴史的な対立抗争が今も絶えないからである。

 「苦悩と希望」を繰り返すのは、この国の宿命なのだろうか。1948年に英国から独立し議会制民主主義の国として再生を図ったが、国軍クーデターで長く軍事政権が続いた。88年、学生や市民らが民主化に立ち上がったが、これも抑え込まれてしまう。

 こうした民主化へのうねりの中で、アウンサン・スーチー氏が登場、総選挙が実施され国民民主連盟(NDL)が圧勝する。だが、軍事政権はこの選挙結果を無視し、スーチー氏の自宅軟禁措置を取り、民政化の道は遠のく。内外から軍政批判が噴出しスーチー氏の軟禁が解かれ、2011年3月に念願の民政移管が実現した。とはいえ大統領と与党指導者は軍のトップが占め、事実上の軍事政権が続く。

 文字通り「苦悩と希望」の繰り返しだ。国民の多くが信じる仏教の言葉で言えば、「輪廻」ということになる。

 軍政の経済政策はうまくいかず、暮らしは一向によくならない。労働者の賃金は長時間残業代を含めても日本円換算で月額1万円を得るのがやっと。農村部では「若者が海外への出稼ぎを余儀なくされている」と聞いた。

 私たちは総選挙が始まったヤンゴンやバガンをバスで回ったが、日本のような選挙戦の光景を見ることはなかった。労組のナショナルセンターであるミャンマー労働組合総連合への取材で、 マウンマウン会長は「総選挙では政党の支持はしない。誰が勝つても(軍政に)戻ることはできない」と話していた。 「一つになれない国」ミャンマー。11月の総選挙の後、人々は今度こそ、変わらぬ希望の光を見出すことができるのだろうか。


ミャンマー大使館前の訪問団

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歴史的転換点を迎えるミャンマー

中嶋 滋 ITUC(国際労働組合総連合会)ミャンマー事務所長

 11月に予定されている第2回総選挙は、ミャンマーの将来とくに民主化の方向を決定づけるといわれている。その結果は、当然のことながら、労働運動にも決定的な影響を与える。しかし、現在、その見通しは混とんとしている。軍人議席が1/4を占めていること、大統領資格に外国籍の家族がいないこと(事実上、アウンサンスー チー氏排除の規定)などを主要課題とする意法改正が頓挫、これを主張してきた最大野党であるNLD(国民民主同盟)が総選挙ボイコットもありうると「揺さぶり」をかけているからだ。

 そうした中、大統領選に名乗りをあげているトラシュエマン下院議長(軍政時ナンバー3)の評判が悪いため現テインセイン大統領の続投説が強まっている。「経済の自由化」と「民主化政策」を手堅く進めているからだ。今後、意法改正がなければ、国軍の意向で全てが決まる現在の権力構造に変わりはなく、民主化の進展にも自ずと限界があるだろう。

▼労組の組織率は1%未満

 ミャンマーの民主化のプロセスの中では、2014年11月に労組ナショナルセンターであるCTUM(ミャンマー労働組合総連盟)が、全登録組合の過半数を結集して結成されたことが大きい。しかし、ミャンマーの労働組合組織法は、5段階の労働組合組織を設定、それぞれの段階での登録を強いる制度をとっている。そのため労組の推定組織率は、こうした厳しい登録制度と激しい組合攻撃の下で、依然として1%未満にとどまっている。 とくに公務・公共部門の組織化状況は深刻で、国鉄労働者や大学教師など一部を除いてほとんどゼロだ。郵便、通信、小中高教師、医療、行政等の分野は全く未組織といってよい。

 また団結権は、農民にも(耕地面積10エーカー以下の自作農)保障されている。労働力人口の65% 以上が農民という事情もあり、農民組合の占める割合が非常に高いのが特徴である。例えばCTUM の場合、農民組合の比率は実に約80%に達している。

 一方、製造業の中心をなす縫製・ 製靴・プラスティック成型や食品加工・飲料などの分野の労組は、賃金を中心にした労働条件向上の闘いに積極的に取り組んでいる。それなりの成果を上げてはいるが、依然として低すぎる基本賃金の故に、長時間労働(割増率100% の超動手当)が蔓延している。週68時間労働も珍しくない。それでも月額10万チャット(1万円1 チャット=約0・1円)を得るのが難しいのが実情だ。

 注日したいのは、インフレへの対応策。政府は、公務員賃金をここ3年連続で毎年、月額基本給を一律2万チャット引き上げている。 今年の政府予算でも公務員賃金を2倍にすることが盛り込まれている。これに対して民間労組は、同様の賃上げを求める動きが広がっている。

▼注目される「イニシアティブ」

 2014年11月、オバマ大統領のミャンマー訪問を機に明らかにされた「公正な貿易・投資と労働に関するイニシアティブ」は、日本およびデンマーク政府が加わってミャンマー政府と協定を結び、ILO の全面協力を得て、労働関係法の改正整備や労働行政の改革等に向けた取り組みを始めるというもの。この動きによってミャンマー政府は、19の労働関係法を改正することを明らかにした。遅々として進まない現状を大きく変える可能性が出てきた。

 しかし問題は、これを着実に進展させるための3者構成による社会対話がミャンマーに存在しないことだ。今後、労働側にも、その環境を作りあげ、総体的な改革を生み出す責任があるだろう。