アフター5

2017年7月13日
新技術の労働に及ぼす影響

中村章氏

 中村章会員の2年にわたる調査研究の結果である。膨大な文献調査があり、まず、ドイツがインダストリー4.0を国を挙げて取り組んでいる状況と、最先端は米国がリードしている現状がある。近年、世界中で急速に技術革新が行われている状況が報告された。

 テクノロジーが雇用に及ぼす影響については、野村総研等の予測によれば、わが国では49%の労働人口がロボットや、人工知能による代替が可能とみている。

 中村氏は、ロボット技術が自動車産業とともに歩んできた実情を説明し、その他の介護分野等では、まだ開発途上であることをリポートされた。介護ロボットの現状は発展途上で、ロボットはドアノブを回すことができない段階であるが、慶応大学の大西公平教授が発明した「リアルをつかむ、力触覚技術」が今後の進歩の可能性を持っていそうだと述べる。

 中村氏の結論は、AI、IoTを研究すると、人間の未来が怖いものに見えてくること、技術開発を最初に達成したものが、常に第1位の立場を維持し続けるという予測に、暗い気持ちになると述べていた。

 テクノロジーの将来は人間にとって真の幸せをもたらすのか、電源を切ってもコンピューターが勝手に動くことが起こるという、先が見えない将来を考えさせられたセミナーであった。7月13日実施。(森下一乗)

2017年6月30日
陸のモンゴル、海の日本
――国際税務の観点から

小寺壽成氏

 一年の半分はモンゴル国で国際税務指導に当たっているJICA専門家・税理士の小寺壽成氏から現地の裏話が聞ければとお願いした。小寺氏は元国税庁勤務。税務大学校教授などを務め、昨年、労ペンに入会した。『民法的思考による国際税務ケースブック』(法令出版)などの著書がある。国際税務に詳しい。

 モンゴル国の法人課税年度は日本と異なり暦年で1月から12月であり、従って、すべての企業の決算期は12月である。よって、確定中告期限は課税年度の翌年の2月20日となっている。個人の中告もほぼ同じである。国際税務については、モンゴルも他の諸国同様、すでに、移転価格税制、PE(恒久的施設)税制を有しており、OECD・BEPS(税源浸食と利益移転)議論、パナマ文書等に見られる国際税務の最新の情報理解への更なる努力は、先進国にひけをとらない

 2015年8月現在の直接投資企業総数は1万3326社。中国が6549社と半数を占め、韓国、ロシアに次いで日本は557社。法人課税はその法人が居住者か、非居住者で課税内容が異なる。親子会社間の課税の間題である移転価格課税以外に外国企業が設立したモンゴルの支店、工場、建設現場へのPE課税間題などが外国の企業にはある。

 「テントのようなゲル(外モンゴルの呼び方。内モンゴルではパオ「包」)での生活と食事」「白鵬らのガンバリ」といった話題にまで及び、現地の歌を披露するなど、1時間半では語り尽くせなかった様子。「平和な陸のモンゴルと、それに劣らぬ平和な海の日本こそ、世界の平和をリードするただ2つの代表国です。日本人に親近感を持っています。大切にしたい国です」と結んだ。6月30日実施。(麻生英明)

2017年6月2日
トランプ大統領とアメリカの労働問題

チャールズ・ウェザーズ氏

 6月2日のアフター5は、チャールズ・ウェザーズ大阪市立大学教授から、トランプ大統領誕生の背景と、その政策により労働組合及び労働者にどのような影響が生じているかについてお話を伺った。

 トランプ大統領勝利の背景として、労働組合の弱体化、分断がある。組織率は10・6%まで低下し、Right to Work(「労働権法」。ユニオンショップ及びエージェントショップを禁止)を採用する州も増加。また、労働組合が①トランプ支持の鉱山や建設関係の組合、②反トランプの公務部門、③賛否不鮮明なUAWや鉄鋼関係、と3つに分断している。

 もうひとつの背景として、2極化が進展する中で移民やマイノリティに対する憎しみを煽ったことがある。さらに、妊娠中絶反対の主張はEvangelicalの8割の支持を集め、銃所持に関する主張も圧倒的に支持された。

 トランプ大統領の政策は、財界や富裕層の影響が強く、労働安全衛生等労働規制の弱体化を志向。この他に、Buy American、環境・ グリーンエネルギー政策の後退、福祉政策の縮小、H1-Bビザ(高度技能外国人の就労ビザ)悪用の是正、イスラム系の入国制限、連邦政府のシャットダウンの脅しなどを掲げている。

 これらの政策は国内の雇用機会の確保・増大を目的としているにもかかわらず、環境分野の雇用喪失、イスラム系観光客の減少、研究者がカナダなどに流出するという現象が生じている他、仮に政府がシャットダウンされればレイオフに伴いトランプ支持層である退役軍人が多数失職することになる。

 今後については、現在の支持率40%が更に下がるとは考えられず、弾劾が成立する可能性も低いとの見解が示された。(小山浩一)

2017年4月24日
ILOと仕事の未来
――ILO創設100周年に向けて

長谷川真一氏

 4月24日のアフター5には25名が参加し、当クラブの代表代理で日本ILO協議会専務理事でもある長谷川真一氏から「ILOと仕事の未来」について話を聞いた。

 2019年はILO創設100 周年に当たる。それに向けてILOでは、7つのイニシアティブを定め、その第一に「仕事の未来」を取り上げている。今後広範な議論を経て、2019年の総会において「100周年宣言」として採択する予定である。

 ILOのガイ・ライダー事務局長は、変化を引き起こす要因として、グローバル化、気候変動、技術の進歩、不平等の拡大の4つを上げ、「仕事の未来」を決めるのは我々が決める政策であると主張している。

 ロボット技術の進歩、人工知能(AI)の急速な発展は、雇用機会の縮小と技能の陳腐化をもたらすという意見もある。職種意識の強い欧米では、自分の仕事がロボットに取られてしまうという不安が強い。日本企業においても、これまでのようにコア労働者の長期雇用を維持できるのか、技能形成の費用は企業が負担するのかそれとも個人が負担するのかについてコンセンサスが必要になるだろう。

 ひとつの職種で人生が終わらない人が多くなることが見込まれる中で「キャリア」が大切になるが、職業生活が10年から15年に達した時点で、個人のキャリアを自己管理する時代が来るかもしれない。(奥田久美)

2016年9月21日
最低賃金制の今日的役割と今後の課題

加藤昇氏

 9月21日のアフター5は、加藤昇さん(元中央最低賃金審議会委員、元電機連合中央執行委員)から「最低賃金制の今日的役割と今後の課題」について話を聞いた。22名が参加。以下に要点と感想を記す。

1、最低賃金制の歴史

第1期:業者間の協定(1959~)/第2期:審議会方式(1968~)/第3期:中賃目安方式(1978~)/第4期: 新産別最賃創設(1986~)/ 第5期:改正最賃法の制定(2007~)

2、最低賃金の果たす役割

 働く者の生活の安定と向上に役立つことと、 世の中の賃金決定方式に影響を与えること。2006年から2015年までの9年間でトータル125円(18.6%)の最低賃金が上がった実績がある。

 地域別最賃は、すべての労働者の賃金の最低限を保証する安全網として機能することを日的にしている。1971年には、我が国は最賃制度に関するILO条約(第26%号第131号)条約を批准した。

   1986年から最賃第4期となるが、業者間協定方式から、労働組合員の賛成を得て最賃を中請する新産別最賃方式が答中された。当時、加藤さんが責任者であった電機連合が中心的に活動し、各地方の組合の3分の1の賛成を取り付けて、結果的に47都道府県に産別最賃を実現した。加藤さんとしても誇りに思っていることが述べられた。

3、産業別最賃について

 経営側からは、我が国の賃金決定が企業別に行われていることから、産別最低賃を廃止すべきであるとの主張があるが、非正規雇用の割合が38%にもなり、労働者の均等待遇の実現のためにも存続、活用すべきであるとの組合側の主張も強くなされている。

 加藤さんは、ご自分の組合活動を最低賃金の歴史とともに歩んできて、今後とも労働者の生活安定のために最賃制を活用することに、強い情熱を持っていることがよく理解できた。

 時給1000円となれば、大きな節日となるであろうし、9年で18.6%も時給が上がったことは、それだけ労働者の懐を温めてきたこと、国民の生活向上に寄与したということである。最賃制度の大切さを痛感するとともに、社会的にも大きな実績があったと言えよう。(森下一乗)

2016年7月22日
ハラスメントのない職場を目指して

君嶋護男氏

 7月22日のアフター5は、「ハラスメントのない職場を日指して」。 講師は君嶋護男さん。 参加者は19名だった。

 労ペンクラブは主に労働領域の専門家の集まりであるが、オ夕クあるいはマニアとなるとそう多くはないであろう。「ハラスメントが大好きなんです」と誤解を招くような発言から始まったアフター5トーク。ハラスメントオタクの登場である。とにかく、ハラスメントと名がつけば労働省退官後も収集し続けている。その数、セクハラ約240件、パワハラ約700件にも上る。それらを『セクハラ・パワハラ読本』などに著し世に警鐘を鳴らしめている。最近読んだ本(鷲田清一「素手のふるまい」)の言い回しを借りると「より速く社会(ハラスメント)に反応する筋肉がついていた」から反応し続けているのであろう。退職後の過ごし方も教示しているようだ。

 トークは、ハラスメントの「定義」、「法令上の扱い」、「類型」で総括し、具体的事例は「判例」によった。総括で、ハラスメントに対する講師の基本的な考え方は、定義としてはセクシュアル・パワー・ マタニティと類型化しているがハラスメント」として括ってとらえたほうが良いといい、その防止を法令上からみると「労働契約法5条により、安全配慮義務の一環とする」としている。職場環境の調整や整備などの義務を指している。

 判例は、妊娠・出産等を理由とするハラスメントを8例、育児休業に関するハラスメントを4例取り上げた。今後は、「育児休業明けの復職後の給与のグレード引き下げや報酬減額は無効」としたゲームソフト製造等会社事件(束京地裁2011.3.17、束京高裁2011.12.27) のような事案が増えてくるだろうと指摘した。

 最近、「会社としてLGBT等の性的マイノリティに関する方針を明文化し、インターネット等で社内・社外に広く公開していますか」などからなる指標つくりが広まりつつある。日的は、LレスビアンGゲイBバイセクシュアルTトランスジェンダーが働きやすい職場つくりを実現するためである。これも、上記で指摘した安全配慮義務の一環である。 (富田修)

2016年6月24日
リベラルアーツのすすめ
日本的経営の本質とは何か

元日経連常務理事 成瀬健生氏

 6月24日のアフター5は、「日本的経営の源流と発展-日本を元気にするために」というテーマだった。講師は、元日経連常務理事の成瀬健生さん。かつて「新時代の日本的経営」という日経連報告書の作成に携わって年功賃金の見直しと雇用構造の再検討、雇用ポートフォリオの導入などを提案した

 その後、この報告書を契機に多くの企業が、職能資格制度を導入したり、年功的定期昇給制度の見直しをしたりすることになった。

 その結果、雇用の流動化や成果主義型賃金の普及が加速したといわれている。

だ が、当日の成瀬さんの話は、そのような20年前の日本的経営や雇用ポートフォリオの推移を振り返る話ではなく、もっと根源的な話だった。これまでの日本社会の歩みや日本人が大切にしてきた価値観とか哲学についてだった。戦後の日本経済が成功したのは、人間中心の経営であり長期的視点に立った労使関係だったという。

 そして、労使の考えの根底には、縄文時代に形成された日本文化があり、日本人のメンタリティがあるとも指摘した。この話は、まさしく日本的経営の本質が何か、を考える手がかりとして興味深かった。自分たちの社会、自分たちの文化とは何かを考えたうえで日本的経営を語るべきだというのだ。

 だから、我々は、歴史や民族、科学や心理学など広範な分野の知識を学ぶことが必要だという。それがあってこそ日本人は、グローバル人材になる。いま企業経営者や従業員に求められているのは、この発想と教養力なのである。成瀬節は、そう結んで話を終えた。

そうか、それで、この日のレジュメが、「管理監督者のためのリベラルアーツ」となっているのだと納得した次第である。(夏目孝吉)

2016年5月19日
「あっせん」参加を法的義務に
労働相談10年余の経験から

日本労働ペンクラブ事務局長 中川隆生氏

 5月19日のアフター5は、労ペン事務局長・中川隆生さんによる「個別労働紛争解決制度の現状と課題」について。中川さんは朝日新聞を定年退職後、この3月まで11年間、都内の労働基準監督署の総合労働相談員を務めてきた。「労働相談の具体的事例を通じて、その役割、限界、今後の課題など議論の材料を提供したい」というのが報告の主題であった。

 「公務員の守秘義務の関係で詳しくは話せないが」と断わりながら、①出会い系サイトのなりすまし社員から解雇予告手当の相談②監督官の勧めで裁判に勝ったのに一銭も取れず損をしたという怒りの電話③賃金確保法の立て替え払い制度の矛盾、限界④ノルマ額の不足を社員に貸し付けるマイナス賃金の横暴⑤口頭での採用約東だったが故に、即日解雇の予告手当が20万円超に上った例⑥昼間の仕事から無理やり深夜に勤務変更された高齢者のケース-などについて、そのさわりを紹介。「相談で圧倒的に多いのは、賃金や残業代の不払い、簡単に解雇したうえ解雇手当を払わない、過重労働など。こんな商売もあるのかと、びっくりするような例も多かった」という。

 「平成26年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、全国の総合労働相談件数は100万件を超え、そのうち法令違反を除く民事上の個別労働紛争相談件数は24万件に上る。

 特に課題として指摘したのは、労働局のあっせん事案のこと。申請は年間5000件ほどだが、その約4割は企業側の不参加で即打ち切りとなるのが実情だ。「あっせん申請があったら、少なくとも当該企業は労働局にきて説明責任を果たすよう、法的な義務付けをすべきではないだろうか」。

 最後に中川さんは相談員の経験を通じての感想を求められ、「私の関わった小零細事業所のレベルでいうと、解雇規制の緩和って一体どこの国のことかと思う。解雇は自由にやっているし、なおかっ解雇手当も支払わない。雇用の質の劣化が進んでいるのが心配だ」と締めくくった。(山田潤三)

2016年4月21日
豊富なエピソードで下町の労働運動史を語る

小畑精武氏

 4月21日のアフター5は、「下町の労働運動史」。講師は、長年、下町に住み「江戸川ユニオン」という地域の労働運動に携わっている小畑精武さん。

 話は、「日本最初のストライキ」が、江戸末期の銭座(現在の葛飾区小菅)において、賃上げを要求することから始まったこと、さらには、相撲取りも公正な運営を求めて回向院に立て籠もった、という意外なエピソードからスタート。 そして明治維新。

 広重の「名所江戸百景」に登場している小名木川、亀戸、州崎という下町こそ明治から大正、昭和と飛躍的に発展した日本資本主義の拠点だった。

 情緒のあった運河や池が埋め立てられ、紡績、セメント、造船、化学の主要企業がここで誕生したが、その発展の歴史は、苛烈な労働に対する労働者たちの抵抗や闘争の繰り返しだったという。そのためサンジカリズムも政治活動もセッルメントもこの下町が舞台だった。その最初の頂点が関東大震災後の亀戸事件だった。

 その後、労働運動は、不況と恐慌そして戦時体制と弾圧というなかで多くの犠性者を出し惨敗に終わった。

 だが小畑さんは、亀戸事件で血の犠性を払った南葛労働組合は、戦闘力や連帯感に富んだ「南葛魂」として地域の運動に継承されたという。

 しかし、戦後、下町の労働運動は、大手企業では京成電鉄や東交などで争議があったものの、昭和30年以降は、見るべきものがない。

 ほとんどが大企業の下請け企業や中小企業、未組織労働者による「一人の首切りも許さない」争議ばかりだった。小畑さんの話を聞きながら大企業の労働者は、なぜ立ち上がらなかったのか、地域の労働者と共闘できなかったのか、など素朴な疑間が残った。

 そうした中で小畑さんが取り組んできた束部労働運動、ユニオン運動が健在であることに尊敬の念を強くした。

 最後に、小畑さんはこうした下町の労働運動について「下町、東部地域の先輩、先達、親や祖父母たちが遺した運動史を訪ね(調べ)、下町の運動のDNAを探し、後輩のみなさんに語り継いでいくことができればよい」と締めくくった。 (夏目孝吉)

2016年1月21日
相原正雄さん『読んで楽しむ“働くこと”』について

相原正雄氏

 「日から鱗」の労働漫談とはこういうものではないか-。2015年度の労働ペンクラブ賞を受賞した相原さんの「アフター5」(1月21日開催、24名参加)は著書のタイトルどおり、楽しく、ためになる内容だった。

 詳細は是非、受賞本を読んで欲しいのだが、「西洋人は直線的に考えるが、日本人はスパイラルで考える」と前置きして、日欧米の労働観や労働にかかわる思想や文化の違いを、その豊かな経歴から具体的に紹介した。

 労働を苦役ととらえ休息日を何より大切にする西欧人。労働をお勤めと考える日本人。日本の年功序列賃金を「同一労働・同一賃金が守られていない」、とOECDの労働組合諮間委員会で反撃された経験談。また、「雇」という漢字は籠に入れられた鳥を表すなど、漢字の意味にも薀蓄を傾けた。

 ILOに長年携わった人らしく、「労働は商品でない」ことを確認した「フィラデルフィア宣言」や日本が戦後、再加盟する際に、聖書の中の「放蕩息子」扱いされたことにも触れながら、条約締結の大切さを強調する。今から30年前に採択されたアスベストの安全にかかわる条約に日本が批准したのは遅かったが、条約に触発されるかたちで、間題が顕在化したと見る。

 労働基準法の36協定が青天井の労働時間生むと批判。 ILO第1号を批准すべきだという。

 多彩な話を短いスペースではまとめきれないが、改めて労働というものを多角的に考える機会が与えられたと思う。(松田宣子)

2015年11月18日
労働安全衛生の向上を願って

金原清之氏

 「データが操作されている気がする」、「背景に監督官の定数削減もあるのでは」――。2015年11月18日に開かれた、アフター5は、元労基監督官で、労働安全・衛生コンサルタントの金原清之さんが講師。 奈良・大和郡山から駆けつけ、「労働安全衛生の向上を願って」と題して講演した。元担当者ならではの、本音の間題提起に、意見交換は白熱。当日は冷たい雨で、参加者も20人足らずだったが、冷房が必要になるほどだった

 労災での死者数は、1961年6712人をピークに、減少してきたものの、発生件数は、6、7年前から頭打ち。より効果を上げるために、法的側面、制度的側面から問題点を指摘した。専門の化学物質対策では、さらに突っ込んで、2014年の業務上疾病統計の全疾病5445件のうち、化学物質による疾病が207件しかないことを取り上げ、「真の姿か、きちんと把握する必要がある」とデータの信憑性に首を傾げた。

 2014年秋に大阪で騒ぎになった胆管癌事件にも触れ、労災防止対策として、スキル、スピード、スピリット、セイフティに、サイエンスを加えた、新しい「5エス」運動を紹介。中でも、サイエンスが重要で、社会、産業、認知などの心理学の導入を提案。質疑では役所のデータの信頼性、監督官の数、特に化学だけでなく、各専門分野での理系監督官不足など問題山積の現状が明らかになった。(植木隆司)

2015年10月22日
格差時代の労働法制改革への提言

岡山茂氏

 10月22日のアフター5で、岡山茂氏から「格差時代の労働法制改革への提言」との標題で話を聴いた。参加者は26名。岡山氏は、旧労働省の出身で、2015年1月に同題名の書籍を著している。

 岡山氏は、近年における非正規雇用(派遺労働や有期雇用)の増加、長時間労働の蔓延等を踏まえ、労働法制改革として、①労働者派遺法の抜本的な見直し、改正、②労働契約法の運用強化と併せて、有期雇用改善特別措置法の制定、③短期有期雇用者保護等のための雇用保険法の改正、④長時間労働改善のための労働時間規制の強化、⑤労働者代表制の改革のための労働者代表委員会法の制定を提言している。

 特に、労働者派遺制度については、直接雇用の代替、雇用管理責任のアウトソーシング、使用者責任の派遺元・派遺先間での分断、派遺先の労働者等との労働条件の格差等の間題があるとして、「労働者派遺は、無期雇用労働者の派遺に限定して許可制により認める。 登録時的、 一時的な業務に限るべきとの考えから、派遺利用期間は原則として1年(専門的業務については3年)とする。 日雇業務への派遺を認める(ただし、就業日の交通費を支給)。派遺労働者の賃金は、派遺先の同種業務に従事する労働者の賃金と均等とする」等としている。

 岡山氏の提言は、大胆な内容を含むものであるが、労働行政において各種の政策の立案、法制化や行政の運営に携わってきた人の提言であるだけに、現実の間題の十分な理解の上に立った合理的なものであり、少しでも実現されることを期待するものである。(氣賀澤克己)

2015年9月25日
医療・介護の2025年問題

朝日新聞論説委員 梶本章氏

 9月25日開催のアフター5、「団塊世代は生きのびられるのか- 医療・介護の2025年問題」と題された梶本章さん(医療介護福祉政策研究フォーラム理事)のお話は、「医療・介護問題は今、危機的状況にある」との強い前置きから始まった。

 2025年は団塊世代の全員が75歳以上に達する年。団塊世代の一員でもある梶本さんは、①大都市部を中心に進む超高齢化②増える要介護者と一人暮らし高齢者③死亡者も増加の一途④財政難と労働力人口の減少で医療・介護人材を確保できない――などと、統計資料を元に現状と今後の推移を丁寧に解説した。

 そのうえで、ショッキングな数字があるとして、死亡場所別死亡者数についてのある将来推計表を示し、「2030年には約47万人が、病院、介護施設、自宅のいずれでもなく、死亡場所不明となっている。俺の死に場所は決まっていないんだとびっくりした。ここをどうするかが、これからの大きな政策課題だ」と強調した。


 今後については、医療・介護機能の再編が必須であり、解決策としては、住み慣れた地域で医療・介護・住まい・生活支援などが受けられる「地域包括ケァシステム」の推進が欠かせないと指摘する。

 団塊世代の末席を汚す筆者がいたく興味を惹かれたのは、幾つか地域で進められている実践例の一つとして紹介された、梶本さんご自身の居住地、川崎市・新百合丘グリーンタウンでの「<ちょっと支援隊>のささやかな実験」のこと。図を参照いただきたい。支え合いプランはまだ提案段階とのことだが、梶本さんは「医療・介護従事者を増やしていかなければならないが、そのための解答が出ていない以上、自分たちでみられるところは自分たちでやっていかなければならないのではないか」 と締めくくった。

剌激的な演題の故もあってか、参加者は当日組も含めて29名。小さなクラブの部屋が熱気に包まれた。(山田潤三)

2015年7月14日
韓国の非正規労働者問題

朝日新聞編集委員 林美子氏

 7月14日、『朝日新聞』の林美子氏から、 標題について最新の話を聴いた。氏は今春、日本ILO協議会の交流団で訪韓し、かたわら独自の取材も果たされた。

 話の冒頭、軍政時代に人権抑圧を非難、劣悪労働条件に抗議して焼身自殺した全泰壱(チョン・テイル)氏の史実(1970年)に言及したとき、今日の非正規労働者のおかれた状況に連動するトーンが感じ取れた。

 1990年代末、IMF経済危機を機に労働市場の柔軟化が進むと非正規労働者が急增、苦境から自殺した労働者は一人ならず。非正規間題はたちまち社会的イシュー と化した。「高空籠城」と称するビル屋上占拠なども後を絶たない。

 今日、雇用労働者数は1900 万人。非正規労働者数は600万人とされるが、実際には890万人とする推計もある。しかも工場の構内下請け労働者ら「特殊雇用労働者」を含めれば、非正規労働者数は1000万人を上回るという。

 2007年「非正規労働者保護関連法」は勤続2年後の無期雇用化などを規定、結果的に67%の直接雇用化、無期限雇用化をもたらした。政府は2年を4年に延長する考えだが、労働側は強く反対の構えだ。

 人権派の市長を持つソウルでは労使民政委員会を立ち上げて、自治体初の「労働政策基本計画」を策定、市営地下鉄の清掃などの非正規職約7600人を直接雇用・無期転換して「公務職」とし、仕事に「誇り」を持てる処遇を実現するなど、非正規雇用対策の在り方に一石を投じている。

当日の参加者は26名、討論にも大いに熱が入った。(小島正剛)

2015年6月26日
アメリカの公共部門労働問題

大阪市立大教授 チャールズ・ウェザーズ氏

 チャールズ・ウェザーズさん(大阪市立大教授)は、アメリカ中西部カンザス州出身。両親は「オバマが嫌い、ヒラリーは大嫌い。ウォルマートとマクド(ナルド)が大好き」という典型的な保守基盤だ。労働組合の団結権保障がない「right-to-work」州で労働組合は弱い。

 まず、アメリカ労働運動の最近の傾向として、①組合の組織拡大活動の難しさ、②労働NPOなど非労働組合組織の役割の大きさ、③公共部門が労使関係の重要な戦場になっていることを紹介。

 公共サービスの質をめぐっての攻防はますます重要になっていると、ウィスコンシン州、カリフォルニア州などの教育改革の攻防を紹介。家庭保育では多くの州が団結権、交渉権を認めず、組織化が課題になっている。

 ウィスコンシン州は元々労組活動が活発だった。だが2010年に「Wisconsin is open for business」を掲げる保守派知事が誕生。公共部門労組の権利を制限、団体交渉権をなくす法律を提出。 公共部門の労組は反対し、消防、警察を含め議事堂を占拠する「暴動(uprising)」(チャールズ訳) となった。

 2010年の中間選挙では保守派の怒りが高まって共和党が圧勝。 組合側は、①労働者の動員、②政治活動の強化、③地域への働きかけ(アウトリーチ)、④調査研究の方法改善を打ち出して対抗している。カリフォルニア州、シカゴ市の例を示し、こうした運動が有効であることを示した。他方、保守派が分裂してきていることもあげた。

公務員攻撃が続いてきた日本でも同様の間題を抱え、参考となる講演だった。(小畑精武)