私の主張

経済民主主義による企業統治の実現に向けて

2026/03/09

 
会員・高木雄郷(経営民主ネットワーク事務局長)
〖経営民主主義・第90号(2025年12月)〗から転載

日本でも、コロナ禍以降、企業の不正や不祥事、格差・差別、各種のハラスメントなど労働社会問題が相次ぐ中、こうした事態を払拭するための企業統治(コーポレートガバナンス)の改革論議が大きなうねりをみせている。とりわけ、市場万能と資本優先の新自由主義のもとで、「格差(unequal)社会」を超える議論が活発だ。

また、政治的には、「日本ファースト」の名のもとに新右翼・民族主義の台頭と、偽装ポピュリズム(大衆迎合主義)の思考が注視されている。 

本稿は、こうした社会経済状況の変動を踏まえて、全労働者参加によるコーポレート・ガバナンス改革をはじめ、日本における「経済民主主義」革命に向けた実践論である。

新たな労働者代表制の導入と労働組合の社会的責任・役割

経営民主ネットワークは、2019年8月開催の第4回労使経営協議会法第二次改訂案検討委員会(主査・高木雄郷事務局長)で、「労使経営協議会法」(第二次改訂案)をまとめた。

この法案の骨子は、事業(産業・企業)の社会的責任と持続可能な開発目標(SDGs)、職場におけるディーセントワーク(安心・働きがいのある人間らしい労働)の実現、労働者のコーポレートガバナンス(企業統治)への参加の確立。即ち、企業経営における労働者の情報権・協議権・決定参加権を法制化することによって、労働者の福祉増進や企業の健全性の確保・発展と民主化を図ることを目的としている。

日本の「労働者参加」の現状は、EU諸国に比較して、労使(経営)協議機関の事業所設置率が約2割と非常に低い。これに伴い、労使協議会への労働者参加割合も3割台で、北欧諸国に比べて3倍以上の格差がある。とりわけ、日本の場合、中小企業での労組の組織率が従業員100人未満企業で1%以下でも分かるように、経営協議会の設置率(労働者のガバナンス参加率)がEU諸国に比べて、極めて低いことが大きな課題である。

このため、日本における労働者代表制の導入は、「労使経営協議会法」を制定することにより、労使協議制(機関)を拡大強化、社会化する必要がある。そこで、日本における労働者代表制の法制化を考えた場合、EUの一般労使協議会指令やEWC(欧州労使協議会)指令に倣って、次のマニフェストが重要になろう。

第一点は、ワークルール確立のための「労働者代表制(委員会)」の導入である。

連合は、2001年に労働者代表法案の要綱骨子(案)を発表し、2006年には補強案を確認して、2021年8月の中央執行委員会で、「労働者代表制法案要綱骨子」(案)の改正案を決議した。そこでの法制化議論展開のために、これまでの連合の労働者代表法案要綱骨子(案)の修正・見直し点を提起しよう。

連合は、日本の労働者代表制の骨格について、①社員の過半数で組織する労働組合の無い企業(従業員10人以上)に「(中央)労働者代表委員会」を設置する、②労働者代表委員会が法定の範囲内で使用者側と(たとえば36協定)労使協定などを締結、法制化するよう求めている。

まず、①に関しては、従業員10人以下の(官民)企業であっても、労組を有する企業では、労働者代表委員会を設置できるものとする。また、労働者代表委員の選出・構成に当たっては、当該企業(事業体)における全ての労働者(派遣社員やパートなどの非正規労働者、プラットフォーム労働者等を含む)の意見を反映できるよう留意する仕組み(全労働者集会)を整備する。

さらに、経済のグローバル化に伴って、「企業グループ(連結決算事業体)別労使協議会」を、EWC指令方式(労働者側の申し出制)で設置しなければならない。つまり、日立グループ連合やJPグループ労組が実施しているグループ親会社との「経営懇談(協議)会」を格上げし、EWC方式に倣って、「グループ別労使経営協議会」を法制化することが必要だ。これによって、企業グループ間の適切な情報提供と協議プロセスを確立する。

このため、②の労働者代表委員会(含企業グループ別)の権限については、単に現行の従業員過半数代表者の役割である上記の法定基準(58規定項目)の施行だけでなく、雇用問題(リストラ)・労働環境に関わる経営戦略(雇用管理計画)策定、いわゆるM&A等による企業の組織変更・再編や、新工場(事務所)の閉鎖・移転・設立及び新技術・機械(AI・ IoT)の導入、生産・販売・サービス制度の変更、職業再訓練教育などの(グループ)ガバナンス重大事項について、労働者代表制(委員会)導入後、(過半数組合が無い企業においては)次年度以降から、情報提供と事前協議権を有する機能を加える必要性がある。(労使経営協議会第二次改訂案第25条)

この場合、労働代表委員会の構成員が過半数労働組合(複数組合可)で占められているときは、その事前協議事項においての「共同決定(交渉)権」を有する。換言すれば、当該企業において、過半数組合が成立した場合は、労働者代表委員会は解散せず、法定の従業員過半数代表者の権限のみを過半数労働組合に移転、もしくは保全すればよいのである。その賛否は全労働者集会の決議で行うこととする。

無論、労働者代表委員会の機能に、賃金・労働条件の改定、変更などの労働組合の団体交渉(労働協約)事項を追加することは出来なく、逆に労働組合は、この労働者代表制組織を通じて、企業グループ内の未組織労働者との連携を図り、組合加入・組織化の契機にすべきであろう。

労働者代表重役制度の法制化を

二点目は、日本における労働者代表制の中期目標だが、企業(グループ)ガバナンス強化や経営民主化のための経営中枢(取締役会)への労働者代表(組合)の参画である。従業員100人以上企業で、ドイツ・北欧並みの「労働者代表重役制度」を法制化しなければならない。

具体的には、取締役選出については、(グループ)労働組合の指名、推薦する者が全労働者集会の議決によって任命され、労働者代表として、取締役会に三分の一(従業員100人以上企業)または二分の一(従業員1000人以上企業)参加する方式をとる。労働者代表取締役は、非常勤・無報酬、かつ団体交渉には参加することができない。会議参加費や、職務を遂行するのに必要なコーポレート・ガバナンス教育等の経費は企業が負担する。

一方、労働組合の企業経営への決定参加権は、経済的責任を負わない。すなわち労働者(組合)が全労働者集会の議決(同意)を得て提起し、労使合意して実行された経営施策に対して、最終な経営責任は所有権が前提となる経営権をもつ株主代表の取締役(使用者)側が負うものとする。そして、従業員1000人以上企業の取締役会で、労使同数の票決で決まらない場合、労使の共同選出した中立委員(社外専門家)が最終決定権を持つ。

なお、取締役会(親会社を含む)の中立委員が裁決できない場合は、労使経営協議会と同様に、中立委員の要請に基づき、「労使経営協議調停局」(主務官庁)の調停・仲裁案を享受できる権限を持つものとする。

以上,日本のあるべき労働者代表制(=労使経営協議会)法案の目的・要旨を論じた。 この法案は、ILOが提唱する社会正義の拡大とディーセントワークの実現,ISO26000の確立の上で制定することが必須条件だ。また、いま論争となっている社会的経済格差や分配の不平等を是正するためにも、日本経済を健全かつ安定に運営するためにも、労働者の利益と社会的権利を護る労働者経営参画の新たな法制度が重要である。

日本の労働社会運動の未来・活性化にとって,「共同決定制」いわゆる「(グループ)労使経営協議会」と「労働者代表取締役・監査役制度」の法制化は、これからのデジタル新時代に対応する人間主体の働き方や労働者(ステークホルダー)重視の企業統治制度改革、労働組合の組織拡大強化の有効手段になることは間違いない。 全ての労働者のために、企業社会の真の民主化に向けて,文字通り「新しい資本主義」 やステークホルダー資本主義を超える新たな経済民主主義の推進、「日本型共同決定制」による勤労福祉連帯社会を実現しよう。

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