関西支部発

星のカケラ・・・138億年目の感慨

2023/11/27

 
関西支部幹事 今村武司
(関西支部通信第40号=23年10月号から転載)

138億年前という気の遠くなるような遠い遠い昔。エネルギーを持った真空の揺らぎが大きな爆発を起こし、芥子粒が無限大に大きくなるような膨張が起きた。

膨張とともに物質の元になる粒子は宇宙中に飛び散ったのである。その粒子が集まって、ついには夜空の星々となった。

そうして生まれた星々の一つである地球は灼熱のカオスとして煮えたぎっていたが、徐々に冷えてゆき、紆余曲折を経て安定した海を獲得した。その中で生物が出現する。地球に酸素が満ちていった。やがて地球が生んだ生物は複雑な構造を持つようになり、時として、爆発的多様化を起こした。しかし、宇宙も地球も、進化の途上にある生物を優しく育んだわけではない。地球が丸ごと凍結し、生物たちの大量絶滅を起こしたこともあったという。けれども、生物はその命脈をとぎれさせることはなかった。深海の熱水噴出孔に、地中深くの地下生物圏に、生き残った者たちがいた。そして、環境が変わると様々な方向に向けて多様な進化を遂げたのである。まさに絶滅は進化のトリガーであった。

最初の大きな爆発が起きた日を1月1日とし、現在までを1年間に置き換えると、以下のようなことになるという。

9月14日に地球と月が誕生する。9月25日に、海中に生命を生みだす要素が現われてくる。10月9日に、最古の細菌が生まれた。11月12日に、光合成をおこなうシアノバクテリアが生まれ、12月19日に、最初の原始魚類と最初の脊椎動物が誕生する。12月20日に植物の陸地移住が、翌21日には動物の陸地移住が始まる。29日には最初の霊長類が現れ、30日には大型の哺乳類が栄える。12月31日(大晦日)午後10時30分に、最初の人類が出現した。

私たちの日常と比較すれば、想像を絶するような長い時間をかけて今日が成り立っていると言える。

最初の大きな爆発で飛び散った粒子が星々を生み、結果として私たちを形作っている。地球上に生まれた生物は系統樹に表されるように途切れることなく、相互に熾烈な生存競争を続けつつ、その枝を可能な限り伸ばしている。

私たちは、今ある状態があらかじめ設計されていた、つまり「生き物は実にうまくできている。」と錯覚しがちであるが、環境に適応できなかった考えられないほどの多くの者たちの中で、かろうじて私たちが現在にたどり着いたに過ぎないとも言えよう。無作為に変異を繰り返し、環境に選択され、わずかな可能性に拾われた。要するに、現在にたどり着くにあたっては、その形態と能力を長期的には激変させる変異を膨大に繰り返し、その時の環境に適応できなかった者たちは変異の犠牲となり、たまたま環境に適応できた者たちだけが生き残ったのである。そして、その結果、生物はあたかも闇に瞬く光のように今あるのである。

冬になると淀川にはたくさんの渡り鳥達が浮かんでいる。渡り鳥は「長距離の渡り」という不思議な能力を持っている。鳥達の先祖であるといわれる恐竜にはない能力を獲得している。何十億年も前にスタートを切った生物は、形を変えて様々な能力を獲得し、今日までたどり着き、未来を向いている。最初の大きな爆発から延々と続く連鎖が、流れが今に至っているのだ。言うなれば、私たちは皆、「星のカケラ」である。

今日では、何やら過去のものになったように見えかねないcovid-19も例外ではない。少しわき道にそれるが、それは災厄と呼ぶにふさわしい現象をもたらした。すべての人々が何らかの形で現在も戦い続けている。戦い?いや、そうではない。共存することで自己の領域を広げようとする者たちのぎりぎりのやり取りであろう。求めるものは、どちらも生き残るという妥協点である。今後も新たな病原微生物が私たちとの共存を求めて際限なくステージに上がってくるであろう。勝利などはどちらの側にもない。共に生きるための場所決めが行われるだけである。

ウィルスを含めた生きとし生けるものは皆、同じ流れの中にいる。地球という天体が存在する限り、気の遠くなるような遠い遠い未来まで、この「星のカケラ」の流れは止まることはないような気がする。

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