ヒヤリング

JILPTと5年ぶりに開催 最新研究成果について報告

2024/06/10

 

2月8日。日本労働ペンクラブと労働政策研究・研修機構(JILPT)との意見交換会がビジョンセンター東京駅前で開催された。労ペンから植木隆司代表をはじめ34人、JILPTは藤村博之理事長をはじめ8人、計42人参加した。

冒頭、JILPTの藤村理事長が挨拶。2018年10月以来、5年ぶりに開催されたことを踏まえ、「皆さんとお会いをし、私どもの研究を聞いていただき、意見交換ができること非常に貴重な場と思っている。労働の現場に精通している皆様方から、忌憚のないご意見をお聞きできることを楽しみにしている」と述べた。続いてJILPTの調査研究の取組み内容について報告の後、最近の調査研究成果として2人の研究者が報告した。

最初は労働法・労使関係部門の岩月真也研究員が「職場におけるAI活用の実態―いかに仕事が変わったか―」をテーマに報告。OECD加盟の8カ国の共同研究の一環として日本のAI活用の実態を調査した結果について、金融・製造業の日本企業9社の活用事例をまじえて解説した。最後に岩月氏は「AIは仕事を部分的には代替しているところがあるが、当初騒がれていたようにAIが労働者が担っている仕事の全てを代替することは現状では見られていない」と指摘。その上でAIが労働者の仕事の一部を担っているが、「浮いた時間は別の仕事をするなど、仕事内容が再編されている現状が生じている」と述べた。今後についてはAIが仕事をどう変えるかという受け身のクエスチョンを立てるのではなく「AIができない顧客との対面のコミュニケーションなど、人がいないとできない部分に注力する形で仕事の中身をどう変えるかというクエスチョンの立て方がよいのではないか」と、指摘した。

報告の後、質疑応答があり、続いて、濱口桂一郎労働政策研究所長が「誰も書かなかった家政婦の歴史」をテーマに報告した。濱口氏は2022年9月29日、東京地裁の家政婦の過労死をめぐる裁判で「家政婦は家事使用人であって労働基準法や労災保険法は適用されない」として原告の訴えを退けた判決を起点に説明。派出婦会の起業の経緯や戦時下で人夫供給業と同じ規制に置かれたものの、戦後、労働者供給事業の全面禁止による派出婦会の禁止や有料職業紹介事業への移行など、家事使用人ではなかった家政婦がどのような経緯で家事使用人にされ、労基法や労災保険法の保護を剥奪されてしまったのか、家政婦の数奇な運命について詳しく解説した。

最後に家政婦の救済策として労基法の規定を削除しただけでは家政婦に労基法・労災保険法は適用されないと指摘。その上で「労基法制定時の『派出婦会の派出の事業』を正面から認めない限り。紹介所という第三者によるその都度の紹介行為だという虚構を維持し続けている限り、彼女たちは救われない」と結んだ。

その後、質疑応答があり、最後に労ペンを代表して植木代表が挨拶。本日の報告に感謝を述べるとともに、昨今の国立研究機関の予算削減に触れ、その一つであるJILPTの研究環境が損なわれないことを願うとともに「労働ペンクラブとしても微力ではあるが、お力添えをしていきたい。ぜひ意見交換会だけではなく、普段からのお付き合いもお願いしたい」と挨拶した。その後、懇親会が開催され、意見交換会に引き続き、活発な意見が交わされた。(溝上憲文)

JILPTとの意見交換会で家政婦の労働者性を解説する濱口さん(中央)
研究員の解説に耳を傾ける参加者
  
 

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