私の主張

加速する岸田政権の軍拡路線--歯止めはないのか

2023/10/10

 
横浜アクションリサーチセンター 金子 文夫
(NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会メルマガ第313号から転載=23年9月、POLITICAL ECONOMY NO.244)

軍拡路線の進展

8月末、2024年度予算の概算要求が出揃った。防衛省は7.7兆円という過去最高の額を計上した。前年度の当初要求額5.6兆円の1.4倍にあたる。しかも、これ以外に金額を明示しない事項要求や後年度負担額が加わる。

今回の概算要求の内容をみると、イージス・システム搭載艦、新型護衛艦・補給艦、水上無人機等、装備の拡充が大きいが、それと並んで陸海空全体を指揮する「統合司令部」、陸海空共通の「海上輸送群」、最新鋭ステルス戦闘機「F35B」飛行隊の新設など、組織強化の項目も目に付く。

こうした軍拡予算の編成は、2022年末の安保関連3文書(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」)の決定、それを受けた「防衛費財源確保法」、「防衛産業基盤強化法」の成立に続く措置であり、軍事費のGDP比2%引上げを通じた軍事大国化を目指すものだ。安保3文書はきわめて包括的・総合的に日本の軍事力増強を策定しており、その核心となるのは軍事産業の育成・強化だ。3文書に共通して、「いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤」というフレーズが掲げられる。その担い手の軍事産業は「防衛省・自衛隊と共に国防を担うパートナー」と位置づけられる。そして軍事産業が利益を確保するカギを握るのが、武器輸出の解禁にほかならない。

武器輸出全面解禁への道

平和憲法のもと、武器輸出を規制する3原則が確立したのは1970年代だった。2014年、第二次安倍政権は「積極的平和主義」のスローガンを掲げ、3原則の見直しに着手し、「防衛装備移転3原則」へと表現を改めた。とはいえ、武器輸出が全面解禁されたわけではなく、限定された分野(救難・輸送・警戒・監視・掃海)について、限定された国に、直接的殺傷能力をもたない装備を輸出できるという運用にとどめていた。

ウクライナ戦争が進行するなかで、安保3文書は「防衛装備移転3原則」の運用の見直しを明記した。その具体化のために、与党作業部会による検討が進められ、7月に論点を整理した中間報告書が作成された。それを受けて政府当局は、英国・イタリアと共同生産する次期戦闘機は第3国へ直接輸出できるとする見解を表明した。次期戦闘機の完成はかなり先の話だが、ここに示された見解に基づき、今後小規模な装備からなし崩し的に殺傷兵器の輸出が拡大していくことになろう。防衛省は兵器・部品の規格を米国などと共通化し、部品輸出を伸ばしていく方策を検討している。また、米軍の軍艦を日本の民間造船所で補修する段取りを探っている。

武器輸出解禁の準備は、すでに周到に進められてきた。2023年版「防衛白書」によれば、官民連携した様々な活動(国際的武器展示会の開催・参加、輸出先の需要調査、相手国官民との意見交換フォーラム、オンライン会議など)が2020年ころから盛んになった。2024年度予算の概算要求では、もっぱら武器輸出を担当する参事官(課長級)ポストを新設する方針が示された。また、外務省の所管する途上国援助では民生用のODA(政府開発援助)とは別に、軍事的援助(武器輸出)を行うOSA(政府安保援助)という方式が新設された。2023年度にフィリピン、マレーシア、バングラデシュ、フィジーの4カ国へ、24年度にはフィリピン、ベトナム、インドネシア、パプアニューギニア、モンゴル、ジブチの6カ国に軍用品が供与される。

東アジアの対立構造の深化

8月18日、日米韓首脳会談がバイデン大統領の主導のもと、ワシントン近郊のキャンプデービットで開かれた。共同声明では、3国の首脳・外相・防衛相等の会合の定例化(制度化)、中国・北朝鮮に対抗する軍事的連携の緊密化(情報共有、共同演習等)など、東アジアにおける米中2大陣営の対立構造を強化する方向性が明らかにされた。QUAD(日米豪印)、AUKUS(米英豪)に続く対中包囲網の深化、軍事共同体へ地均しの意味をもつ。その延長線上に、NATOとの連携(NATO東京事務所の開設、日韓豪ニュージーランドとNATOとのサイバー・宇宙・偽情報・先端技術等に関する協力活動)が画策されている。

一方、こうした中国包囲網の構築に対して、中国はグローバルサウスへの影響力行使、非米連合体BRICSの5カ国(中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ)から11カ国への拡大(イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、エチオピア、アルゼンチンの新加入)によって対抗を図っている。BRICS開発銀行の本店が上海にある点に示されるように、中国はBRICSを主導する意図をもつ。

今後、東アジアにおける米中2大陣営の対立関係の強度が高まり、軍事的緊張が増していくならば、「台湾有事」に限らず、何らかの軍事的衝突が生じる可能性を否定しきれない。24年度概算要求で防衛省は、防衛医大病院に、戦場で負傷した兵士を治療する「外傷・熱傷・事態対処医療センター」を新設する計画を明らかにしている。まさに「新しい戦前」が始まっているとみなければならない。

対米追随による軍事的対立に傾斜するのでなく、独自の戦略的な対中外交の推進、地球規模課題や経済連携の取組みを通じて、これ以上の軍拡、東アジアの緊張増大に歯止めをかけることが求められている。



POLITICAL ECONOMY第244号「加速する岸田政権の軍拡路線-歯止めはないのか」(金子文夫氏)に対するご意見です。

会員・小野豊和(元東海大学教授)

金子文夫さんの論稿、まことに同感です

日米安保の下にあっても、日本独自の平和外交ができないものか。近隣諸国に対する調整能力がない言い訳で、米国等の軍需産業のはけ口化する日本政府。与党には女性を含めて自らは戦地に行かないから(そういう時代ではないが)戦争に向かう事に違和感がないのだろうか。過去に学ぶことが大事だが、日本政府は過去を反省する気もなく、過去を証明する公式文書すら廃棄、改ざんし、所在不明と表明する。国民の命を尊重する姿勢がいつの時代もない。

「戦争放棄」は日本の強み

国政選挙によって選ばれたのだから、官僚の意向は国民の声という。憲法9条は連合国に押しつけられたというが「戦争放棄」は日本の強みと考えてもいいと思う。状況が違うかもしれないが、コスタリカは1949年にホセ・フィゲーレスによって軍隊が廃止され、制定された憲法12条によって「恒久制度として軍隊を放棄する」と明記している。核抑止政策は抑止力にはならない。核保有国が不用意に核のボタンを押す可能性もあり得る世界にあって世界平和の為には核廃絶しかない。

ご主旨は違うかもしれませんが、日頃思っていることを理路整然とまとめていただき感謝します。この危機感を国民が共有することが大事です。感想で失礼します。

過去記事一覧

PAGE
TOP