2026/07/13
会員・小野 豊和(元東海大学教授)
(NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会メルマガ第390号=26年7月3日号より転載)
要点
- 熊本市の「赤ちゃんポスト」は命を守るセーフティーネットとして機能
- 赤ちゃんポストや内密出産の取り組みは全国に広がり始めている
- 課題は子どもの「出自を知る権利」と制度整備
熊本市は5月25日、親が養育できない子を匿名で託せる慈恵病院(熊本市西区)の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)について、2025年度は7人が預けられたと発表した。発表によると、7人は男児2人、女児5人。生後7日未満の早期新生児が5人、生後1か月未満の新生児が1人、1歳以上の未就学児が1人だった。少なくとも5人は医師や助産師が立ち会わない「孤立出産」で生まれた。7人のうち5人は「棄児」として市が戸籍を作った。残る2人については明らかにしていない。赤ちゃんポストに託した理由(複数回答)は「生活困窮」が最多の4件で、「未婚」3件などだった。居住地別では中国、四国、九州地方が計4人で、アジア圏が1人、不明が2人だった。アジア圏は未就学児で、国内を旅行中の母親から託されたという。07年の開設以降、預けられた人数は累計200人となった。
全国に広がり始めた
熊本市以外における"赤ちゃんポスト"の設置が進み出した。慈恵病院の取り組みに賛同し、2016年 9月「こうのとりのゆりかご設置施設(匿名出産も受け入れる)」の開設と支援を目的としたNPO法人「こうのとりのゆりかご in 関西」が設立された。23年5月には、民間団体「こどもSOSほっかいどう」による「ベビー・ボックス」が、北海道当別町に開設された。しかしその後、道内における自治体主導の相談窓口など地域の受け皿が普及したとして閉鎖された。23年9月には東京都江東区にある医療法人社団モルゲンロートが、23年9月、東京都墨田区にある社会福祉法人賛育会が24年度から妊娠SOS相談、内密出産、赤ちゃんの保護(赤ちゃんポストの設置)を開始すると発表した。
さらに、大阪府泉佐野市では、全国で初めて自治体が主体となって赤ちゃんポストと内密出産制度の導入を目指す動きが具体化している。各都道府県に1カ所ずつ、慈恵病院のような施設をつくれば棄児が減るだろう。しかし、安易な育児放棄や子捨てがまん延するのではないかという不安感・危機感がいまだあり、馴染みにくい。25年度が前年比7人に半減した理由を報道陣に問われた蓮田院長は「最近、東京の賛育会病院など赤ちゃんポストができたことが関係して、東日本からの人数が減ったのでは」と答えた。
「出自を知る権利」などの課題も
熊本市では、児童福祉や医療、法律などに詳しい5人の委員で構成する要保護児童対策地域協議会(要対協)に「こうのとりのゆりかご専門部会」を置き、子どもの権利が守られているかなどについて検証している。5月25日の要対協の代表者会議で市が報告した。「子どもの安全確保に問題はない」「公的な相談機関などと適切に連携されている」などの評価の一方で、委員からは「子どもの出自を知る権利を守るため、記録を残し将来の開示請求へ備えるべきだ」「ゆりかごに預けるために母親が車を運転することは危険を伴う」「生活困窮やメンタルヘルスなどの支援も重要」などの意見も出た。匿名で預けられる利点は遺棄や虐待死の防止になるが、一方で、子どもが自身のルーツや親を知ることができない。出自を知る権利や法整備の遅れが大きな課題として議論されている。
今回の報告を受けて、慈恵病院の蓮田健院長は「赤ちゃんの命と健康を守るために、母親による遺棄や殺人を防止するセーフティーネットとしてゆりかごは必要だ。理解と支援をいただきたい」と話した。慈恵病院と連携して子どもの命と権利の保護に取り組む熊本市の大西一史市長は「よりよい支援制度のあり方について、国への要望や情報共有を継続していく」とするコメントを出した。

