私の主張

「戦争準備の積極財政」ではなく「大胆な社会保障分野への重点投入」を

2026/03/30

 
経済アナリスト 柏木 勉氏
(NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会メールマガジン第382号=26年3月16日付より転載)

世界の、そして日本の現状・現段階は移行期・過渡期にさしかかっている。大きくは、これまでの新自由主義、グローバリゼーションからの移行期だ。グローバル化からの巻き戻し、その流れとしてナショナリズムへの回帰が始まっている。その過程での混迷、軋轢の激化が暗中模索のジレンマとなってあらわれる。世界も日本も、そのジレンマの只中にあり、閉塞感が鬱積する。さすれば、ジレンマの只中にあるとき、中道などありえない。それは自明である。中道はジレンマを形成する左右、上下の真ん中に位置するだけで現状に留まるだけだ。であるから、能動的にジレンマを突破する方向をうちだせない。国民の期待を担えない。現に世界的に、特に欧米は「極右」と「極左」が伸長している。社民が衰退しているのは当然なのだ。今回の高市大勝利もその現れでしかない。であるから、中道が現段階で衰退・消滅していくのは必然なのだ。 左翼・リベラルは過激路線に転じよ!

そこで、出てくる基本方向は何か?左翼・リベラルは過激になるべきだ。これである。閉塞感に満ち満ちて多くの国民はうんざりしている。その閉塞感を突破する「大胆な」方向、政策が不可欠なのだ。となれば、日本におけるそれは何か?当然のことながら国民の閉塞感・不安感にこたえる「大胆な社会保障分野への重点投入」だ。高市の「戦争準備の積極財政」に対置するものはそれしかない。

これは単なる社会保障分野への重点投入ではない。平和勢力による重点投入だ。「戦争準備」の積極財政に対抗するものだ。であるから平和憲法をいまこそ高く掲げなくてはならない。社会保障への重点投入は平和憲法を前面に掲げ、現在の「厳しい安全保障環境」に対抗するものとしなければならない。それに必要なものは何か?単に高市政権の軍事費増強、対中強硬姿勢を批判するだけでは無意味である。それでは国民からは支持されない。当然である。国民を不安に追いやっているのは中国共産党の覇権主義であるからだ。それから朝鮮労働党・金正恩の核開発、それにプーチンのロシアだ。中国共産党は愚かな中華ナショナリズムに転落し、G2をめざす覇権主義に陥っている。そのために急速な軍備拡張、尖閣諸島領海への侵入、南シナ海での一方的現状変更をはかっている。自らの軍拡推進・核兵器開発を棚にあげ、日本の軍備増強を非難する。これでは全く説得力はない。国内では党独裁体制強化、習近平への権力集中だ。これに対する明確な批判の展開が不可欠だ。中国、北朝鮮、ロシアはいずれもアジア的専制の系譜を踏んでおり、いわゆる民主主義とは相いれない(ここで「いわゆる」というのは、普遍的価値は虚偽・虚構であるからだ。だが当面の問題としては普遍的価値は相対的にましなものだ)。

そこで、社会保障分野への重点投入だが、その際はカネと実物・モノを区分して考えることが必要である。カネは中央銀行がいくらでもつくれる。財源=カネは問題にならない。今は封建時代の年貢とか金本位制時代の税とは根本的に違うのだ。それが現在の管理通貨制度だ。ただしカネに問題はないといっても、実物=物的供給能力をこえてカネを供給したら悪性インフレ、ハイパーインフレだ。それが制約条件だ。だから完全雇用状態であるならば、総需要を増大させるカネの投入は抑制する、それが基本だ。

現状はどうかと云えば、物的供給能力の観点からは人手不足であり完全雇用状態といえる(不幸な完全雇用なのだが)。従って、当然だが全体の総需要を抑えるため(悪性インフレ抑止)、カネの総量を増やすことは抑止する。となれば、拡大すべき分野と抑制・縮小すべき分野を区分しなければならない。従って、一方では軍事・防衛、原発関連分野、都市圏不動産開発等々の需要は抑制し、他方では社会保障分野を飛躍的に拡大させる。それが基本方向になる。人的・物的資源をその方向に振り分けなくてはならない。まさに資源配分の問題だ。これこそが分配の問題であり、平和勢力の戦争準備の積極財政へのオルタナティブである。

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社会保障分野へのカネ投入の一例を考えよう。介護従事者給与の大幅引き上げで雇用を誘導し必要人員を確保する。この時、必要なのはカネと実物の区分だ。介護従事者の給与を引き上げて(カネの投入)何か不都合が生じるのか?給与引き上げで労働条件が改善し、従事者が増えることで何か不都合があるのか?カネはつくれるのだ。一方で、物的供給能力では潜在介護士25-45万人。介護労働を供給する余地・能力は十分ある。給与引き上げで個人消費が増えて悪性インフレになるのか?それが、カネではなく実体経済がどうなるかという視点だ。仮にインフレ圧力が強まっても、他方で軍備は縮小だ。防衛費対GDP比2%は無論引き下げる。すると、その需要減はインフレ圧力を下げる方向に働く。このようにカネではなく実物=実体経済の観点から政策を判断すべきなのだ。カネの話ばかりしているから、根本的にまちがえるのである。

無論、税金も利用する。ただし財源としての税金(カネ)は中央銀行がつくり出す。管理通貨制度下の税金は昔の年貢ではない。だから税は財源にあらず。政策の誘導策として使うのだ。例えば、消費税は消費を抑制するか喚起するか、法人税は設備投資を抑制するか増大させるか、環境税はCO2排出を更に抑制するか緩和するか等々だ。ただし、この考え方への完全移行には時間がかかる。さしあたっては現状の税制も利用しながらの政策誘導になる。とにかく、財源の話はやめる。それこそが左翼・リベラルの大胆な政策転換だ。

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