私の主張

雇用類似の働き方も保護は必要

2019/11/18

 
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢(労ペン会員)

厚生労働省の「雇用類似の働き方に関する検討会」は10月30日、雇用類似の働き方をする者を保護するための検討課題を提起した。

「雇用類似の働き方の者」といっても、聞き慣れない言葉だと思う人が多いだろう。この検討会では、「発注者から仕事の委託を受け、主として個人で役務を提供し、その対償として報酬を得る」かたちで働いている人たちことを、こう呼んでいる。具体的には、経営者、個人事業主、自由業、フリーランス、クラウドワーカー、テレワーク、副業などで働いている人たちである。同検討会が調査した結果によると、我が国に約 228万人いるとしている。

だが、クラウドソーシングのプラットフォームの大手であるランサーズの「フリーランス実態調査」(2018)によると、フリーランサーだけでも1,119万人にはいるとしている。調査の目的や手法も異なるので、どちらが実情に近いかはなんともいえないが、フリーランス、クラウドワーカー、テレワーク、副業などについて、筆者が各種の統計を集計したのが、添付の図表「働き方類型別労働者数」である。

この図表は、左から正社員の数、真ん中がパートタイマー・契約社員・派遣労働者などのいわゆる非正規労働者、一番右は検討会が「雇用類似の働き方」と呼ぶ者 (私は「雇用フリー労働者」と呼ぶ)、この3類型で働く人の数を比較したものである。

現在、正社員で働いている人は3400万人、非正規労働者が2100万人いるのに対して、「働き方フリー」も1800万人と、正社員や非正規にも迫る勢いで、労働市場に確固たる位置を占める存在になっている。

クラウドワーカーは倍増する

この図表の右の「働き方フリー労働者」の中に出てくるクラウドワーカーで働いている人は、現在400万人ということになっている。だが、NTT東日本系のクラウドワークスが、クラウドサービスのブラットフォームを運営する大5社の登録者数を基に推計したところによると、2020年代にはクラウドワーカーだけでも1000万人に倍増するとされている。

アメリカでは、クラウドワーカーは既に4000万人に達しており、経済規模からすると、我が国も2000万人にいくのは自然の流れだろう。  
仮に、近い将来、「働き方フリー労働者」が2000万人になるとすると、その増加分の約1500万人が正社員と非正規からそれぞれ700万人とか800万人ずつ「働き方フリー労働者」にシフトすることになる。

ないない尽くしの業委委託慣行が横行

ところが、フリーランスにしろ、クラウドワーカーにしろ、これにの労働者は業務の発注者サイドの一方的な都合で、業務委託を突然切られても文句が言えず、またライターは取材をして原稿を週刊誌などの編集部に持込んでも、ボツにされれば取材費も原稿料も出ないというのが、半ば業界の慣習になっている。事ほど左様に、契約書もなければ、最低報酬の保障もなく、紛争処理の制度もなしと、ないない尽くしの業委委託慣行が横行している。こうした状況の下で働いている人々をどのように保護の網を被せるが、現在の最大の問題である。だが、この点についての考え方が、検討会と私とでは、まったく違うようだ。こうした観点から、今度の検討会の提起を読むと、3つの問題点がある。

  1. 「雇用類似の働き方の者」と「雇用フリー労働者」
    検討会は、フリーランスやクラウドワーカー、テレワーク、副業などについて、「雇用類似の働き方の者」と記し、検討会は労働者という言葉を使うことを避けている。私は働くものは労働者だとし、その働き方は会社フリー・時間フリー・雇用フリーで働いているから、「雇用フリー労働者」と呼ぶことにしている。これは呼び方の問題でなく、以下の点でも考えた方が異なる。
  2. 労働者性
    まず、フリーランスやクラウドワーカー、自営業者などを、どこまで労働者とみなすか否かである。これを労働法学では「労働者性」の有無という。検討会の席上においては、労働者性の判断基準を拡張して、雇用類似の働き手を保護すべきだという意見がでたが、これは見送られた。
  3. 「雇用類似の働き方の者」の保護
    検討会は、「雇用類似の働き方の者」の法的な保護は、「雇用類似の働き方の者」が個々に置かれている状況が異なるので、画一的に定義することは困難だとして、「雇用従属性」を有ししている者と「その類似の者」に限定して検討を進めるとして、その結果、もっとも保護の網が必要な人たちを追いやってしまったのである。

AI革命-ドイツに4年遅れの日本

厚生労働省はこの秋に、「雇用類似の働き方に関する検討会」報告と併行して、労政審政策基本部会報告書を公表した。
ところが、AI政策で先行するドイツは、2013年にプラットフォーム・インダストリー4.0を設置し、また2015年には政労使の合意の上で、グリーン・ペーパー(政府の提案書)を発表している。
日本はやっと今、その途に就いただけで、ドイツのように政労使で審議する場のプラットフォームも出来ておらず、4・5年遅れている。
直ちに、AIの政労使協議のプラットフォームを立ち上げ、AI化と雇用の関する政労使の協議に、早急に取り組むことである。
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