私の主張

「賃金事情2020年3月20日号から」 書評欄(book review)第1回「労使を読む」「ハラスメント ー職場を破壊するもの」(君嶋護男著、労働法令)

2020/04/27

 
加藤 裕治 会員(ラヴィエ法律事務所・弁護士、元自動車総連会長)

今号から、本欄を担当することになった。長年の労組役員の経験、そして弁護士という立場 から、労使の課題や関心事を中心に、法律家の目からも役立ちそうな本を、選べればと考え ている。

第1回は君嶋氏の「ハラスメント」を選ばせてもらった。実は、日本労働ペンクラブにおい て、拙著『トヨタの話し合い』が、「企業内労使関係の指南書」として2019年度労働ペ ンクラブ賞特別賞を受賞した。その折、その本賞というべき労働ペンクラブ賞に輝いたのが この書であった。

ハラスメントについては、2000年代初頭にアメリカから「セクシャルハラスメント」概 念が入って以降、マタハラ、パワハラと拡大し、社内での言動の規制が増え、戸惑っている 中高年も多い。労働相談も訴訟も増えており、意識改革は急務といえる。「働き方改革」は 本来労働者の人間らしい生き方を取り戻す改革であるべきであり、「人権意識」の薄いわが 国で、「人権」を「守るべきもの」の中心に据えていくためにも、ハラスメントは重要な切 り口である。

パワハラについては、昨年、労働施策推進法が参議院を通過し、防止義務が法制化された。 厚労省からはセクハラ、パワハラ等のガイドラインが出されたものの、抽象的であり、具体 的に何がいけないのかわかりにくい。

この本は主に平成年代の裁判事例を丹念に取り上げ、解説している。読んでもらえば、わか るが、裁判は事実に基づいて審理されるので、判決文は、素人が思う以上にリアルである。 本ではハラスメント別に100を超す判例の事実認定部分が引かれており、合法、違法の境 界線が一読で読み取れる。ハラスメント対策を考える企業労使、あるいは、弁護士などにも 大いに参考になる好著である。

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