私の主張

「日韓関係の打開」―元徴用工問題の解決

2020/12/07

 
会員・横舘久宣(フリーランス・ライター)

どうにも動きがとれなくなっている日韓関係の硬直状態。その原点は、韓国人元徴用工の不満がいまだ解消されていないという現実だろう。太平洋戦争当時、応募し、あるいは徴用されて朝鮮半島から渡来、炭鉱や建設現場、さまざまな工場に振り分けられ、労働の辛酸をなめた。その数70万人ともいわれるが、劣悪な労働環境に耐えかねて脱走し、あるいは戦後の混乱のさなか逃げるように帰国し、または病や事故で死亡する徴用工が少なくなかった。多くが未払い賃金や退職金、積立金、貯金などを所属した企業に残したままだった。

帰国した元徴用工やその遺族の求めに応じて韓国政府は、1965年の日韓基本条約・請求権協定で得た無償3億ドルの協力金を元手に救済につとめたが、不十分だった。彼らは溜まった不満のマグマの出口を日本の司法に求めた。かつての雇用主に賠償を求めて訴えたが、裁判ではことごとく退けられた。日韓請求権協定により「両国間の請求権に関する問題は完全かつ最終的に解決された」とする日本政府の壁は厚かった。元徴用工は方針を転換、自国の裁判所に当の企業を訴えることにした。その結果が2018年韓国大法院の日本企業に対する賠償命令だった。この判決で日本政府は態度を硬化させ、いまに至る。

元徴用工が得るはずの未払い賃金などは、名簿とともに供託金というかたちで日銀や法務局で保管されているという。総額1億円との説もある。日韓国交正常化交渉で、日本側は供託金について明らかにせず、無償3億ドルの協力金の中に丸めて入れ込み、元徴用工に対する債務を金銭供与で一括処理しようとした。韓国政府はそれを原資に元徴用工の救済につとめたが国家再建に追われるなか行き届かず、彼らの不満はくすぶり続けた。思うに、日本側の不作為と韓国側の不行き届きがこうした事態をもたらしたのではないか。

いまは差し押さえ資産の現金化などを避けるためにも、まず両者が話し合いのテーブルにつくことが肝心ではないか。話し合いを期待する韓国側のサインに対し、対案なしでは会う環境にないという日本側。日本政府はやや高圧的な姿勢をあらため、挨拶を交わすことから始められないのだろうか。日本の最高裁は、個人の請求権は消滅するとは言っていないという。韓国国民の個人の請求権は存在し得るとの外務省条約局長の答弁(1991年)もあり、韓国側の姿勢は硬い。前述の供託金は北朝鮮からの徴用工の分も含むので手はつけられないらしい。

ひとつ気になるのは徴用工を雇用した企業の思いだ。政府の頑なな方針とは別にかつての使用者としてなんらかの考えはないのか。使用者あるいは使用者グループとして何らかの提案を政府に示すということはないのだろうか。当事者だった者としての何らかの関わりがあってもよいと思う。

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