私の主張

「国民が働いて借金を返す」、これが"労働貨幣論"だ。

2021/06/07

 
関西支部・村岡利幸会員(労働総合コンサルタント事務所所長)

(編者注・村岡さんはこのMMT論に対しての会員の皆さんからのご意見を要請しています。賛否、感想などもお送りください。同送メールへの返信でお願いいたします)

この夏から秋にかけて、ロンドンの金地金相場引き下げの機能が消失する。意外な展開や新策略開始がない限り、これから金地金の相場は、年末にかけて上昇もしくは年末まで価格抑止が続いた後に急騰すると予測するのが自然だ。ドル・円の両方共への為替相場に安値圧力が強烈なため、この金地金の急騰へと直結している。MMT論者は、こぞって借金や通貨(通貨と貨幣は異なる物)の増量で国家はつぶれないとは言っている、確かにそれは正しい。が、潰れない(保障を持つ)国家の国民が、いっそう積み重ねて働くことでもって経済の質量低下を補うこととなる。

現在日本は、コロナ対策&経済危機対策と称して、借金を湯水のように使う積み上げ予算措置を行っている。財務省が説明する返済とは、全ては先送りだとし、すなわち生まれもしてない孫子の代まで借金を積み上げようというわけだ。

また、MMTを持ち出す人物らは、同じく湯水のように使う財政出動を口にするけれど、返済の話になれば、「国は倒産しない、財政は破綻しない」と叫ぶに過ぎず、答えない。たとえ叫ぶとしても、財政出動を国の会計で行えば、その穴埋めは必要だ。戦前日本の如く、米国その他から借金をして関東軍の中国侵略資金に、満州を拠点に麻薬ビジネスから略奪まで行って、国家財政に補填する」とも言わない。いずれにしても、「国民が働いて借金を返す」ことになるのだ。

歴史的にも、"労働貨幣論"の幻想妄想を、本気に真に受けて政策導入したのが、正確に言えば各地のソビエトの中でも、ロシア領の旧ソ連だけであった。スターリンらは党内の経済学者を粛清して"労働貨幣論"を無理強いし政策破綻、その無茶苦茶をごまかすために"計画経済"なるものを、権力を背景に実行し、変質経済学まで組み立て輸出したのだ。ナチスのヒットラーは、スターリンの"計画経済"を真似したかったが諦めた。日本は、満州国での日本:商工省の連中が採用した。戦前戦後を通じて日本国内でも、その"計画経済"を真似て実施した。戦前は権力を使い、戦後はアメリカ資金を基にCIAの手先が首相となり導入した(米ソ対立の反共防衛と称して)。なお、随伴結果として、国交のない中国や朝鮮半島との密貿易で、日本は関西地方を中心に潤いを得たことも確かだ。

本来の話に戻れば、貨幣は商品や資産その他の等価交換物であるとするのは、総ての経済学説に共通している。でも、現実には通貨コントロールによって相場を産み、あたかも価値量が変動したかのように見える。けれども為替相場やインフレ・デフレによって貨幣価値は等価交換の水準に、やはり近づく。そして、「国民が働いて借金を返す」となればそれは国民の労働を意味することとなる。借金返済を国民労働に限定しなければ、終戦後に日本政府が行ったような財産税(所有資産税率での通貨納税&現物納税)となるのが通例なのだ。日本政府は財産税の実施経験がある。ちなみにソ連崩壊のとき、全銀行預金はすべて国が没収した。そしてMMT論者もソ連の"計画経済"の如く無口だ。MMT論者が、話題にせず無口だからとしても、彼らの論理構成や理念に反駁しないわけにはいかない、噛み合わなくてもだ。 さて、そこで、以下徐々に詳しく、フィードバックを繰り返しながら見ていく。

MMTへと、ワラをもつかむノメリ込み

MMTは現代貨幣理論Modern Monetary Theoryといった名称に概念付けられる場合が多い。が、その内情や理論の説明は、MMTを持ち出す人物によって異なる。それどころか、同一人物であっても途中から大変質している実態が通例だ。深くに渡って見識を持つ経済学者とか、科学的見識を持つ論者からのMMTに対する指摘や批判の度に、彼らは次々と内容変質する特徴がある。

科学とは、ひとことで簡単に試金石の如くに例えて説明すれば、「何時でも何処でも誰でも、法則性を持って説明ができ、聞いた他人も法則を活用できる」と自然・人文(精神)・社会の3分野を横断的に貫く類のモノの事である。

YouTubeなどに流されるMMTの説明は、「これなら、聞いたことあるだろう」と言わんばかりに、無知かつ愚か者をも誤魔化そうと目論むのか、複式簿記の帳簿概念あるいは会計学の一部の説明ばかりである。そして飛躍して、財政学(経済学の一分野)のつまみ食いに終始している。何千年も用いられる貨幣(江戸時代ならば:米が貨幣)の概念、貨幣と通貨の種類も役割も異なることなど、様々混同して説明している。

経済活動とは、貨幣を道具として"自由"の拡大を人々は求め、それは「モノやサービス(服務)」とを交換する方法である。貨幣蓄積増進の重要手段として「通貨」は用いられ、「通貨」とはそれ自身は"経済価値のない紙幣・硬貨や電子マネーなどの器材"を用いることであったし、これも何千年と人類が用いてきた社会運営技術の方法や手段である。MMTを持ち出す人物にとっては、こういった歴史的経緯も含めた科学的視点それ自体を知らないようである。(仮に知っておれば、経済学とは異分野の会計や帳簿を話題にするより、無知な人の中途半端な誤理解こそが生じたかもしれない)。

だから結果的に、深くに渡って見識を持つ経済学者とか、科学的見識を持つ論者からは、MMTが相手にされないのである。ただし、日本の権威主義的アカデミックな人からすれば、「無知かつ愚か者」の相手をしないことは、決して道徳的ないしは善(人類進化に資する行為)だとは、わたくし筆者は思わない。

ところで、日本の巷で有名になった、MMTを押し出したであろう人物は彼だ。
https://youtu.be/Tqo1yOR0AiM
そして、経済史を専門とする某女性経済学者の著作によると、"百花繚乱"となった世界主要のMMTの数々を調べたそうだ。

彼女は、次のように指摘している。「国家がどれだけ債務、つまり借金を増やしても大丈夫。(とは言うものの)実際は各国の事情を踏まえるべきなど、様々な条件をつけている。」。さらに、新自由主義について言及し、「(そもそもは)非営利がゆえに見過されてきた無駄を省き、自由な企業家精神を発揮させる」とし、あくまでも、倫理観を前提としたフリードリヒ・ハイエクなどに示されるネオリベラリズムの範囲内で語られていると。

ところが、日本における新自由主義者の特徴というものは、何のかんのと言おうが、経済学の父アダム・スミスが「神の見えざる手」と言ったとの嘘(あのトヨタの社長)を思い出すが、結局は世界共通して、"政府公共部門事業を拡充し、その上で片っ端からオトモダチ業者に事業を分配する"ものでしかなかったということだ。日本の新自由主義者は、経済とか経営には全く関わりもセンスもない輩であり、やってきたことは比較的他人より有利な地位で以って、"露骨な性癖を持つ新自由主義者の権力構造を維持するためだけの行為"であった。
新自由主義者の話に乗って事業閉鎖その他に流れたオーナーたちは、金銭はもちろんのこと様々予想はずれ、人生に落ちぶれてしまったケースは多い。筆者は凡そ45年も携わっているから如実に視てよく知っている。

そして、先程の某女性経済学者の指摘の通り、MMT入門と言いながらも現代貨幣理論は、続いて機能的財政論とか、今は責任ある積極財政論といった、戦前から使われている中味の政策に変化しているのだ。
https://youtu.be/0QdKdlyrC1w

MMTを持ち出す人物らは、経済学の父アダム・スミスが着想し、商品の価値尺度である労働時間を価値尺度としての貨幣概念(=労働貨幣論)を、無知無教養の人には分かりやすいと思ったのか、貨幣発生の根拠の無理解の上に生じた、社会にケチをつけたい批判者や、経済学者を粛清したソ連(スターリン計画経済前夜)と同じ乃至は同義語を語っているに過ぎないのだ。

"労働貨幣論"は、ユートピアの象徴でありカール・マルクスによっても批判されたけれど、現在MMTを持ち出す人物らは、経済学の中に"労働貨幣論"が存在したことすら無知のようだ。MMT現代的貨幣理論は、そこで、ことさら「難しいけれど銀行融資や帳簿や簿記はまだ馴染みがある」とでも錯覚したのだろうか、「銀行通帳の数字記載」をマネー貨幣だと強弁、そう錯覚させて、要するに国の借金、個人借金、"借金そのものは数字だ!後で国民が働いて返せば良い(納税の原資は労働)"といった、乱暴な見解に過ぎないのだ。

この、「働いて返せば良い(納税の原資は労働)」が"労働貨幣論"そのものなのである。そして彼らは、返済の話になると、話題を変えて他のことを力説することに徹している。はっきり言って彼らが、どのように"労働貨幣論"ではないと否定しその証明を試みても、そんな主張をすれば単なる無法者でしかないという訳だ。"馴染みがある"として錯覚をするには、20世紀初頭のドイツと周辺で、当時の社会主義者から持ち出された"労働貨幣論"が、もっぱら身近な生活消費用商品と労働時間との関連で論議が語られ、その思考パターンと同列の水準なのだ。"労働貨幣論"が成り立たないことは、その当時に社会学者と称されているゲオルク・ジンメルが、「貨幣の哲学」の中で立証している。(ジンメルは、労働貨幣論批判で社会主義者から今でも攻撃をされているが、ドイツではジンメルが、マルクスの未完であった「資本論第3巻」の理論を整理完成させた経済学だと評価されている)。

最後に、総務部メルマガの過去記事(労働貨幣論を批判)も再掲載する。
§その典型が、緊縮反対論の松尾教授、財政拡大論のMMT論である。(2019/06/04)
総務部メルマガ第206号:威勢のよさと悪口に走る:リーダー
§MMTは、歴史の歯車を逆転させる社会主義経済(2019/09/03)
総務部メルマガ第209号:マスコミの話のすり替えに騙されない、が"労働貨幣論"その真実は
≪ゲオルク・ジンメル:Georg Simmel、1858年-1918年≫
http://soumubu1.blogspot.com/2021/04/blog-post.html#228-13

  

過去記事一覧

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