私の主張

日本の「経済民主主義」革命に向けて

2021/06/21

 
労ペン会員・高木雄郷(労働ジャーナリスト)
経営民主ネットワーク『経営民主主義』第76号 (2021年4月30日付)から

労働者代表制の導入と新しい労使経営協議会法

新型コロナウイルス(Covid-19)のパンデミックは、日本社会のひずみ=格差・差別問題を露呈した。このコロナウイルスの影響を受け、構造的不平等がもたらす現実は、非正規労働者の職種・階層による分断と格差を顕在化した。
今回のコロナ危機で失業や雇止めにあったのは、多くが在宅勤務出来ないパート・サービス業従事者やフリーランス(請負労働者)、派遣労働者に象徴される人々である。これらの非正規労働者に対する差別的扱いを禁じる「同一労働同一賃金」が今年4月から、中小企業にも施行されたが、賃金格差どころか、正規(フルタイム)労働者より高い感染リスクという民主的人権の格差に直面しているわけだ。
その意味で、今こそ、グローバル・多様な労働者の意見を反映できる集団的民主的労使関係を構築する「労働者代表制」の導入。即ち、労使(経営)協議制度の法制化が、労使が取り組むべき社会的責任である企業ガバナンスや経済・経営民主化、コンプライアンス(法律順守)確立のためのマニフェストなのだ。

労働者代表委員会の活用と企業ガバナンス

経営民主ネットワークは、2019年8月開催の第4回労使経営協議会法第二次改訂案検討委員会(主査・高木雄郷事務局長)で、「労使経営協議会法」(第二次改訂案)をまとめた。
この法案の骨子は、事業(産業・企業)の社会的責任と持続可能な開発目標(SDGs)、職場におけるディーセントワーク(安心・働きがいのある人間らしい労働)の実現、労働者のコーポレートガバナンス(企業統治)への参加の確立。即ち、企業経営における労働者の情報権・協議権・決定参加権を法制化することによって、労働者の福祉増進や企業の健全性の確保・発展と民主化を図ることを目的としている。
日本の「労働者参加」の現状は、EU諸国に比較して、労使(経営)協議機関の事業所設置率が約2割と非常に低い。これに伴い、労使協議会への労働者参加割合も3割台で、北欧諸国に比べて3倍以上の格差がある。とりわけ、日本の場合、中小企業での労組の組織率が従業員100人未満企業で1%以下でも分かるように、経営協議会の設置率(労働者の経営参加率)がEU諸国に比べて、極めて低いことが大きな課題である。
このため、日本における労働者代表制の導入は、「労使経営協議会法」を制定することにより、労使協議制(機関)を拡大強化、社会化する必要がある。そこで、日本における労働者代表制の法制化を考えた場合、EWC(欧州労使協議会)指令に倣って、次のマニフェストが重要になろう。
第一点は、ワークルール確立のための「労働者代表制(委員会)」の導入である。連合は、2001年に労働者代表法案の要綱骨子(案)を発表し、2006年には補強案を確認して、現在本法案作成準備中とされる。そこでの議論展開のために、これまでの連合の「労働者代表法案要綱骨子(案)」(2006年)の修正・見直し点を提起しよう。
連合は、日本の労働者代表制の骨格について、①社員の過半数で組織する労働組合の無い企業(従業員10人以上)に「労働者代表委員会」を作る、②労働者代表委員会が法定の範囲内で使用者側と(たとえば36協定の)労使協定などを結ぶ、を法制化するよう求めている。
まず、①に関しては、従業員10人以下の(官民)企業であっても、労組を有する企業では、労働者代表委員会を設置できるものとする。また、労働者代表委員の選出・構成に当たっては、当該企業(事業体)におけるすべての従業員(派遣社員や非正規労働者、プラットフォーム労働者などを含む)の意見を反映できるよう留意する仕組みを整備する。
   さらに、経済のグローバル化に伴って、「企業グループ(連結決算事業体)別労使協議会」を、EWC(欧州労使協議会)指令方式(労働者側の申し出制)で設置しなければならない。つまり、日立グループ連合やJPグループ労組が実施しているグループ親会社との「経営懇談(協議)会」を格上げし、EWC方式に倣って、「グループ別労使経営協議会」法制化することが必要だ。これによって、企業グループ間の適切な情報提供と協議プロセスを確立する。
このため、②の労働者代表委員会(含企業グループ別)の権限については、単に現行の従業員過半数代表者の役割である上記の法定基準(112規定)の施行だけでなく、雇用問題(リストラ)・労働環境に関わる経営戦略(雇用管理計画)策定、いわゆるM&A等による企業の組織変更・再編や、新工場(事務所)の閉鎖・移転・設立及び新技術・機械(AI・ IoT) の導入、生産・販売・サービス制度の変更、職業訓練教育などの(グループ)ガバナンス重大事項について、労働者代表制(委員会)導入後、次年度以降から、情報提供と事前協議権を有する機能を加える必要性がある。(労使経営協議会改訂案第25条)
この場合、労働代表委員会の構成員が過半数労働組合(複数組合可)で占められているときは、その事前協議事項においての「共同決定(交渉)権」を有する。換言すれば、当該企業において、過半数組合が成立した場合は、労働者代表委員会は解散せず、法定の従業員過半数代表者の権限のみを過半数労働組合に移転すれば良いのである。
無論、労働者代表委員会の機能に、賃金・労働条件の改定、変更などの労働組合の団体交渉(労働協約)事項を追加することは出来なく、逆に労働組合は、この労働者代表制組織を通じて、企業グループ内の未組織労働者との連携を図り、組合加入・組織化の契機にすべきであろう。

労働者代表重役制度の法制化を

二点目は、日本における労働者代表制の中・長期目標だが、企業(グループ)ガバナンス強化や経営民主化のための経営中枢(取締役会)への労働者(組合)の参画である。従業員100人以上企業で、ドイツ・北欧並みの「労働者代表重役制度」を法制化しなければならない。
具体的には、取締役選出については、(グループ)労働組合の指名、推薦する者が全労働者集会の議決によって任命され、労働者代表として、取締役会に三分の一(従業員100人以上企業)または二分の一(従業員1000人以上企業)参加する方式をとる。労働者代表取締役は、非常勤・無報酬、かつ団体交渉には参加することができない。会議参加費や職務を遂行するのに必要な経費は企業が負担する。 一方、労働組合の企業経営への決定参加権は、経済的責任を負わない。すなわち労働者(組合)が全労働者集会の議決(同意)を得て提起し、労使合意して実行された経営施策に対して、最終な経営責任は所有権が前提となる経営権をもつ株主代表の取締役(使用者)側が負うものとする。そして従業員1000人以上企業の取締役会で、労使同数の票決で決まらない場合、労使の共同選出した中立委員が最終決定権を持つ。
 参考までに、現在、欧州労連(ETUC)が欧州委員会(ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長)に要求している労働者参加のEU枠組み指令案、欧州多国籍企業(欧州会社や欧州協同組合を含む)に導入する「労働者代表重役制」(WBLR, Workers Board Level Representative)の<新基準>を紹介しよう。

  1. 従業員50~250人(本社及びその直接または間接子会社の総従業員数)の小規模企業では、WBLR(Workers Board Level Representative)の参加割合は低く、少なくとも2~3名の労働者代表が選任される。
  2. 従業員数250~1000人(同)の中企業では、WBLRの参加割合は三分の一に高められる。
  3. 従業員数1000人以上(同)の大企業では、WBLRの参加割合は労使同数の二分の一の役員議席を持つ必要があり、ドイツのモンタン法(1951年施行)と同様の完全な共同決定制が導入される。

以上、日本のあるべき労働者代表制(=労使経営協議会)法案の目的・要旨を論じた。この法案は、ILOが提唱する社会正義の拡大とディ-セントワークの実現、ISO26000の確立の上で制定することが必須条件だ。また、いま論争となっている社会的経済格差や分配の不平等を是正するためにも、日本経済を健全かつ安定に運営するためにも、労働者の利益と民主的権利を護る労働者経営参画の新たな法制度が肝要である。

過去記事一覧

PAGE
TOP