関西支部発

【書籍紹介】 『われら自身の希望の未来』 戦争・公害・自治を語る 宮本憲一著

2024/07/08

 
特定社会保険労務士・ 森田定和(関西支部代表)
(関西支部通信第42号=24年6月号から転載)

94歳になられた大学時代のゼミの恩師、宮本憲一1)先生と希代の論客たちとの白熱対談集、『われら自身の希望の未来 戦争・公害・自治を語る』(かもがわ出版、3,520円)が、今年3月刊行されたので、情報提供したい。2021年に宮本先生の卒寿記念に出版された
「未来への航跡」(かもがわ出版、3,960円)の続編。
気候危機、パンデミック、戦争。混迷深まる時代に、私たちはどう行動すべきか。確かな未来への糸口を探るために著者の宮本憲一先生の著作を、出版する作業は「宮本背広ゼミナール」2)が共同で取り組んだ。

1)宮本憲一:環境経済学の第一人者。大阪市立大名誉教授、元立命館大学教授、元滋賀大学長。1930年台北生まれ。名古屋大卒。「社会資本論」「都市経済論」など著書多数、「戦後日本公害史論」の業績により2016年に日本学士院賞。四日市公害訴訟で住民被害をいち早く調査し、原告側の科学者証人も務めた。阪神・淡路大震災や沖縄米軍基地問題などにも現地に足を運んで考察を重ねた。

2)宮本背広ゼミナール:金沢大学・大阪市立大学・立命館大学の歴代の宮本ゼミナールの卒業生を中心に活動する研究会。(以下、「背広ゼミ」)

1.目次

序章 戦後社会の重大な転換期をどう生きるか

第1部 マルクスと環境

第1章 人新世の環境学へ
    対談:斎藤幸平(東大准教授)
第2章 環境経済学の方法論と課題  第3章 なぜいまカール・マルクスなのか

第2部 戦争と沖縄

第1章 憲法・沖縄・ウクライナ─平和を維持する覚悟 対談:澤地久枝(ノンフィクション作家)
第2章 復帰50年、沖縄の現在・過去・未来

第3部 四日市と水俣

第1章 四日市公害判決50年に思う
第2章 「公害先進国」の経験をどう生かすか
    対談:アイリーン・美緒子・スミス(グリーン・アクション代表)
第3章 公害研究における水俣病問題の意義と課題

第4部 自治と未来

第1章 地方自治研究史 私論
第2章 地域と自治体の未来像を探る
    対談:加茂利男(大阪市立大名誉教授)
【参考】2024年04月20日付神戸新聞の書評
(評者=加藤正文・特別編集委員)

2.理性と権利を蔑ろにせず、希望の未来を!

この度、対談・講演集『われら自身の希望の未来 ―戦争・公害・自治を語る―』を刊行された著者、宮本憲一先生が40歳で助教授をされていた1970年4月に、大阪市立大学商学部の宮本ゼミに入れて頂いた。

都市政策を学ぶにあたり宮本先生は、「学問・研究を通して社会に貢献をするように」と話された。当時、公害反対の住民運動に学者として使命を果たすべく全国を飛び回っておられ、大変忙しくされている頃だった。古典、『世界』『エコノミスト』などの雑誌論文、『社会資本論』『日本の都市問題』などのテキストについて学ぶ一方、堺泉北コンビナート地域の公害被害調査など、他ゼミよりも気合が入っていたように思う。コンビナートに行くと工場が出す亜硫酸ガスなどの大気汚染でバス停に立てられた鉄製の時刻表示板が赤く錆びてボロボロ。人体も被害を受けているのは明らかだった。ありのままの現実から学ぶことの大切さを経験した。

70年3月には大阪万博、日航機よど号が赤軍派学生にハイジャックされ、71年4月には大阪府知事に社会党と共産党の共闘で、大学で憲法を教えて頂いた黒田了一先生が当選された時代だった。

あれから50年余の歳月が流れた。「歴史に学び、現場へ行く」「二度と戦争はしない」という姿勢は重要だ。

今も社労士の仕事をしているので背広ゼミにはなかなか出席できなかったが、昨年12月のテーマ「地域交通について」の際には、マイカーの利用拡大による公共交通の衰退、運転手確保難による路線バスの廃止など住民の暮らしを直撃する事態が進む中、久しぶりに参加した。担当者の報告の後、宮本先生も交え実態を踏まえた討議があったがとても意義深い内容だった。

その後、久しぶりに自分にカツを入れ今日に至る。

宮本先生は、新型コロナウイルス感染症、迫りくる気候崩壊、ウクライナやパレスチナで起きた戦争を「三大危機」と捉え、環境、自治、平和が重大な転換点に立たされていると警鐘を鳴らされている。現代社会を揺るがす問題の根底にあるのは、際限のない成長を求める資本主義の矛盾に他ならない。理性と権利をないがしろにせず、希望の未来を展望するためにぜひご一読あれ!

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