関西支部発

日本労働ぺンクラブ関西支部25年度会員交流会・懇親会開催報告

2026/02/16

 
(関西支部通信第47号=26年1月号より転載)

2025年10月26日(日)午後2時から午後4時45分まで、エル・おおさか本館(大阪府立労働センター)会議室706に於いて、13名の会員が参加し、関西支部会員交流会を開催しました。
今年度から梅谷幹事に会員交流会の担当が変わり、冒頭の森田支部代表の挨拶に続き、梅谷幹事の司会により、出席会員が順次近況報告を兼ねて自己紹介され、その後、講演に移りました。

会員交流会の講演は、「日本の気候変動対策の現状と課題-労働組合の今後のあり方(私論)-」をテーマに、会計監事で滋賀大学経済学研究科博士前期課程に在籍される池田丙午さんに講師を務めて頂きました。非常に沢山の資料をご用意下さり、興味深いお話で、大変有意義な交流会となりました。時間の経過がとても早く感じられ、質疑応答等の続きは終了後の懇親会まで持ち越されました。(藤木)

講演要旨

はじめに-環境経済学について

自己紹介も兼ねて環境経済学ついて紹介したい。

環境経済学では、市場における金銭的なやりとりだけでなく、自然環境が我々に提供する「価格設定されていない」非市場サービスも同様に重要視する。まず、我々人間の「社会・経済」システムと、我々を包摂する自然の「環境」システムについて、その構造や仕組みを分析する。その上で、非市場サービスを可視化(貨幣価値換算などの手法を使う)し、経済理論を用いて、両システム間の相互作用、つまり、廃棄や汚染、気候変動(CO2排出)、生物多様性喪失などのメカニズム、さらには制御のあり方等について研究する。

1.日本の気候変動政策-現状と経緯

  • (1)現状-再エネ比率は欧州の半分レベル
    日本の電力に占める再エネ比率は(2023年:約23~26%)であり、主要国と比べると低い。例えばドイツ(約57%)、英国(約46%)、スペイン(約50%)、イタリア(約37%)であり、日本はおおむね「半分程度」にとどまる(いずれも同年、経産省資料)。
  • (2)経緯-政策は欧州に10年遅れ
    国内の制度は、東日本大震災後に再エネ導入を加速させるため固定価格買取制度FIT(Feed in Tariff)を(2012年)に本格導入し、電力市場改革として(2016年)に小売全面自由化を実施した。欧州が制度整備を先行させた排出権取引制度(EU ETS:European Union Emissions Trading System、2005年開始)については、日本では制度通称「GXリーグ」が2026年から開始予定となっている。
    このように、日本の低い再エネ比率の現状は、重要政策の積み上げの遅れが、投資の連続性や産業育成の不足、系統接続の制約として表れた結果と考えられる。政府は(2030年)に再エネ比率(36〜38%)を掲げているが、足下の伸びは鈍化しており、導入加速が急務の状況である。

2.個別の政策・制度をめぐって

  • (1)固定価格買取制度(FIT)
    FITは、太陽光・風力を中心に再エネを急拡大させた一方で、副作用(①投機的な案件・権利目的の案件、②無理な造成や森林伐採などの環境・防災リスク、③出力抑制や系統混雑)も顕在化した。
    このため、事業の適正化を図るため、国は法改正や制度創設を行い、地方自治体は太陽光を中心に規制条例の制定を行うなどして対応してきた。
    ただし、事業の適正管理について、地方自治体の役割を適切に位置づけるなどの手続を行わずに運用を進めたのであるから、副作用は当然の帰結とも言える。
    また、制度の推進主体である当の経産省により「政府買取による国民負担増大」が強調されてきたが、FITの本質は買取を通じた普及支援による発電コスト低減にある。太陽光は既に市場価格近くまで低下した。
    では、例えば原子力発電には、これまでどれだけ補助金が投入されてきたか。価格低減効果、燃料・設備の廃棄・リサイクル費用、事故の際の費用負担及び保険制度はどうか。環境影響も含め、エネルギー種の別なく、公平に評価がなされる必要がある。
  • (2)炭素税
    日本の炭素税(温対税)は(2012年施行)で、税率は(289円/t-CO2)である。価格シグナルは弱く、単体で大きな削減を生む設計となっていない。税収は「エネルギー起源CO2の抑制対策」に充てるとされ、財源確保目的のみの税と言って過言ではない。
  • (3)排出権取引制度(ETS)
    上述の欧州のEU ETS(2005年開始)は、排出総量の上限(キャップ)を置き、削減成果の取引を通じて社会的に最小費用で削減を進める仕組みである。
    GXリーグについても、対象となる削減範囲が広く・強くなるほど、関係会社等・サプライチェーンへの排出データ要求や削減要請が中小企業へと波及しやすい。従って、不当なコスト転嫁を防ぐ取引ルール、算定の標準化、投資支援をセットで整える必要がある。

3.産業競争力と国土強靭化から見た再エネ

  • (1)太陽光
    世界の太陽光は量産とコスト低下が急速に進んだが、日本は、生産体制の量産化、需要創出、サプライチェーン構築を一体的に進め切れず、国際競争力を失った。太陽光発電関連メーカーについては、パナソニック、京セラ、シャープなど関西を基盤とする企業が大半であり、個人的にも残念な結果であった。
    今後は、次世代型(例:ペロブスカイト、開発加速:2010年代以降)も含め、部材調達から施工、保守、使用済みパネルの回収・リサイクルまでの国内サプライチェーン整備が急務である。
    また、メガソーラー等による環境影響に対する不安の高まりや、自治体の規制条例の増加を受けて、政府は導入促進の重点を土地設置型から建物設置型へシフトする公算が高くなっている。
  • (2)風力-陸上から洋上へ
    陸上風力は急速に伸びたが、近年は立地・環境配慮や地域合意に時間を要し、導入が伸び悩んでいる。洋上風力に軸足を移したが、入札後のインフレや金利上昇、調達難等により、2025年には落札したコンソーシアムが一方的に開発中止を申出る動きも出ている。
    浮体式は日本の海域条件に適する可能性が高いが、実証・標準化・港湾整備など先行投資が必要である。
  • (3)電力システム
    再エネ拡大のボトルネックは系統である。接続の先着順運用や既存電源優先の慣行が残ると、再エネは出力抑制や接続待機になりやすい。災害の多い日本では、北海道、東日本、熊本、能登半島をはじめ、この間の災害の二の舞を起こさないためにも、送電網の増強と同時に、地域分散型(屋根上太陽光、蓄電池、需要側制御)を組み合わせ、停電時にも供給を維持できる「強靭な電力システム」を目指すべきである。

4.雇用・労働政策-労組の役割

再エネ拡大は、施工、保守、系統、建物省エネ、PPAなど幅広い雇用を生む。建物設置型が重点化されれば、断熱・電化・太陽光・蓄電池の普及により、資格者・技術者の需要も高まる。一方で、化石燃料関連の雇用には影響が出る。欧米で進む「公正な移行」の考え方を踏まえつつ、日本としてのビジョン・プログラムの具体化が求められる。
日本の場合、欧州のような「炭鉱閉山型」要素は小さく、火力発電や石油精製・石化などプロセス産業の雇用転換が中心で、技能転換(O&M、系統、蓄電、省エネ、新燃料インフラ等)が柱となろう。これに加え、産業立地のミスマッチ、資格・安全規制、いわゆる元請・下請の取引構造等への対策を含めた、地域産業の構造転換政策も不可欠で、これを怠ると、負担が中小企業に偏るおそれがある。

おわりに

最後に3点ほど所感を述べさせて頂きたい。

  • (1) 「エネルギー政策は国が担う」から、「再エネ主力社会では地方が担う」という基本原則へのパラダイムシフトが必要である。太陽光・風力では、既存制度及び五月雨式対症療法に、限界が露呈している。持続可能社会に向けた真の行財政改革が求められている。
  • (2) 資源外交のパラダイムシフトも大きなテーマである。戦前・戦後から続く化石燃料最上位の考え方から、脱炭素社会というビジョンに立脚した戦略転換が不可欠と思われる。これまで「島国」「少資源国」が強調されてきたが、エネルギー資源を自国で賄えるのは世界に数十か国しかない。「都市鉱山」も含め輸入資源を高度に有効活用するサーキュラーエコノミーの検討が急務である。
    また、日本の研究開発力・技術力を維持・強化できれば、経済発展は問題なく達成できるだろう。
  • (3) 再エネには、未利用地・遊休地・耕作放棄などの問題が頻繁に関係してくる。日本は独自の土地所有制度の下で発展してきたと言えるが、少子高齢化、人口の大都市圏集中が進行し、国土の有効利用について、引き続き研究が必要と考えている。

(池田丙午)


【主要参考文献】

[1]外務省・経済産業省・環境省:各資料
[2]安田陽「世界の再生可能エネルギーと電力システム 系統連系編」(2019、インプレスR&D)
[3]植田和弘「国民のためのエネルギー原論」(日本経済新聞出版社、2011)、「緑のエネルギー原論」(岩波書店、2013)
[4]世界銀行資料「純エネルギー輸入(Net energy imports)」

20260216a.jpg

過去記事一覧

PAGE
TOP