特集

戦争を回避する外交努力

2024/03/25

 
会員・蜂谷 隆(経済ジャーナリスト)

ロシアによるウクライナ侵攻とイスラエルによるガザ軍事制圧が続く中で、世界はもめ事は軍事で解決という軍事モードに移行したかのようである。エマニュエル・ドッドは第三次世界大戦はすでに始まっているという分析を行っている。アメリカの支配力の後退で世界の構図が変わりつつある。日本にとって心配なのはアジアで火を噴くこと、特に「台湾有事」が懸念されている。

中国は悲願とする台湾との統一のために軍事侵攻することはありえないとは思うが、香港に対する強圧的な態度や東シナ海への管轄権の拡大など、この間の覇権主義的な動きを見ていると100%否定しきれないところに「台湾有事」の微妙さがあると思う。少なくとも多くの日本人はそう思っているだろう。

岸田政権が、「抑止力」の名の下に防衛力拡大にひた走るのは、こうした国民の意識が背景にあるのだろう。日本が軍事力を増せば緊張関係は高まる。特に敵基地攻撃可能なミサイル開発などは中国を刺激し、緊張激化の手段以外の何物でもない。

台湾情勢で一抹の不安は、意図しないで起こる前線での衝突である。中国と台湾とが何らかの衝突が起こり、米軍も動き出すなどすれば、日本は確実に戦争に巻き込まれる。全面的か部分的かどうかはあるにしても地政学的にみて避けられないだろう。

いうまでもなく現在の日本のスタンスは、日米同盟を軸として全面的にアメリカ寄りだ。中国の覇権的な動きに対しては、日米間の同盟強化こそ求められるとして、自衛隊が米軍の傘下に事実上入る動きすら見せている。

軍事面ばかりではない。経済面でも関係強化を強めている。いわゆる「経済安保」といわれるもので、軍事に転用可能な半導体など高度な技術品の対中輸出を止めるだけでなく、東アジアで構築されたサプライチェーンからの中国外しを行うなどの施策がとられている。「台湾有事」になれば、半導体だけでなく、電子部品や機械部品のみならずマスクまで供給が止まってしまうことが理由となっている。

この流れはすごい勢いで進行している。しかし、この流れの先にあるのは軍事衝突リスクの拡大ではないだろうか。「台湾有事」を避けるために「抑止力」を高めるといいながら、「台湾有事」を招くとしたらこんなバカげたことはない。

米中の間に割って入る外交努力が必要

そこで考えなければいけないのが、外交による衝突の回避、緊張の緩和である。「台湾有事」の背景には米中対立の激化がある。であれば日本が、積極的に米中対立の間に入り、緊張緩和に向けて動くのである。

こうした日本の外交スタンスは、「台湾有事」の回避という軍事面のメリットだけでなく、20年以上拡大してきた貿易や対中投資の維持という面でも意味がある。

この選択肢は可能なのか。日本一国だけでは現実味がないので、似た環境にある韓国、ASEAN諸国と組むことが考えられる。韓国は尹錫悦政権になってアメリカ寄りを鮮明にしているが、対中貿易比率は高く対米一辺倒へのリスクは少なくない。日本とかなり共通点がある。ASEANは安全保障面ではアメリカ圏とされているが、経済面での中国依存は大きく、シンガポールのように明確に「中立」を打ち出す国もある。インドネシア、タイといったASEANの中核国だけでなく、ベトナム、フィリピンなども中国と一定距離を取りたいが、切り離しはできないというスタンスにある。ASEAN諸国からは日本に対して米中対立の間に入ってほしいという期待感は強い。

例えば22年8月にアメリカのペロシ下院議長が台湾訪問したが、その際、日本は訪台ささせないための外交努力はおろか、岸田首相は抗議声明ひとつ出さなかった。逆に中国の台湾を包囲する形での軍事演習には抗議声明を出している。中国の異常なほどの反応で一気に緊張関係は高まった。

日本政府が動いたからといって、事態は変わらないかもしれない。しかし、こういう時こそ日本は動くべきなのではないだろうか。緊張緩和を願うアジアの周辺国と協調しながら、アメリカにも中国にもはっきりというべきことを言う、というポジションに移行すべきと考える。

過去記事一覧

PAGE
TOP