国際交流

タイ・ラオス訪問団を派遣 概要報告

2020/02/25

 

タイ・ラオス訪問団の視察本文

訪問団事務局長 奥田久美

日本労働ペンクラブでは、国際交流事業として外国訪問活動を行っている。2018年は8月末から9月初めにかけて極東ロシアのウラジオストックとハバロフスクを訪問したが、2019年は12月1日から8日の日程で、団員総数14人、稲葉康生団長の掲げる団旗の下、タイ・バンコクとラオスの首都ビエンチャンと世界遺産都市ルアンパバーンを訪問した。

今回も日本ILO協議会の協賛を得て、厚生労働省国際課、(公財)国際人材育成機構などの協力のもと、覇権をかけた米中経済戦争が激化する中で、アセアンの中核であり、民政復帰後間もないタイの経済にはどのような影響が及んでいるか、また、今回の訪問が労働ペンクラブとしても初めてとなるラオスの現状について調査した。

バンコク最初の訪問先であったタイ労働省では、スティ労働事務次官の出席の下、高齢化対策の現状、出生率低下への対応、タイランド4.0の実現に向けた労働対策などについて、活発な意見交換を行った。在バンコク日本国大使館では、鷹合一真一等書記官から、タイにおける労働者保護法の改正状況、労使関係の現状などについて説明を受けたのち、ILOアジア太平洋総局の須藤専門家から、アジア地域におけるILOの活動についての紹介があった。また、バンコク・ジェトロ事務所の田口祐介アドバイザーからタイ経済の現状及び日系企業の動向などについて事情聴取した。バンコクの夕食会の会場では、JILAFの関口輝比古バンコク支局長から、JILAFが現地で行っているインフォーマルセクターに対する支援活動について説明を聞くことができた。

ラオスでは、ビエンチャンの中心に位置するビエンチャン高校を訪ね、日本語を学習する生徒たちとの懇談の後、校長先生から日本への期待の大きさをお聞きした。日本の補助により学校の隣接地に建設された寮を見学したが、辛うじて電気が使える程度の貧弱な施設であった。在ビエンチャン日本国大使館の岩本公使主催による昼食会では、ラオス政府による経済政策の現状等について説明を聞いた。ビエンチャン・ジェトロ事務所では、岩上勝一所長、山田健一郎専門家から、ラオスの発展の可能性について広範な話を聞くことができた。ミドリ安全の現地工場であるラオミドリセイフティシューズの木村祐介工場長からは、工場進出のいきさつ、稼働状況、労働者の状況などについて説明を受けたあと、作業が行われている工場内の見学を行った。

旅の最後に、世界遺産として有名なルアンパバーンを訪れ、プーシーの丘から、メコン川に映える夕陽を眺め、ナイトマーケットの散策、早朝の托鉢見学、朝市散策、市内の寺院見学などを行い、バンコク経由で、全員無事、8日早朝に羽田空港に帰還した。

何が幸せ 豊かさって何

団長 稲葉康生

ベトナム、モンゴル、極東ロシアに続き、今回はラオスに出かけた。モンゴルは社会主義を放棄して、また、ベトナム、ロシアは社会主義体制の下で市場経済化に転換した国だ。かつて資本主義と社会主義とは共に矛盾を抱え、政治的な厳しい対立や混迷ぶりをみて、私は「体制収斂論」が、東西世界の経済や政治の対立解消への一つの道ではないかと考え、今でもそう思っている。経済政策全体に計画性をもたせ、一定の競争は認めた上で、資源や環境に負荷をかけない政策を行う。具体的には、政策立案の主体は官僚ではなく、専門家集団が中心となり、政治家は外交や国際関係の交渉にあたるという構想だが、残念ながら実現性は今現在少ない。

さてラオスである。国連の後発途上国に指定されている人口650万人の小国、平均月収は1~3万円だが、人々は穏やかで、子供たちの表情は、戦後しばらく後の我々の子供時代と同じに見えた。夜のマーケットに行くと、多くの人が群がるように買い物を楽しんでいた。王宮博物館や、300段の急階段を登ってプーシーの丘から見たメコン川の夕日には感動を覚えた。経済的には豊かではないが、人々の心は決して貧しくない。

今年の元旦、日経新聞を手にして衝撃を受けた。1面トップ記事に「さびにつく成長の公式」の大見出しが飛び込んできた。本文には「資本主義の常識がほころびてきた」と書いたのだ。日経がここまで書くとは。時代はやはり大きく変わった。「富める者が富めば、貧しい人たちにも富が滴り落ちてくる」というトリクルダウン理論が、いかにまやかしだったのか。企業は利益を内部留保でため込み、賃金は下がる一方、低所得の非正規社員が増え続けた。これでは成長の神話を信じろという方がおかしい。

経済成長は確かに人々の生活を豊かにしてきたが、それは一面であり、一方で所得格差の拡大、自然環境の破壊、人々や国々の分断などの弊害ももたらした。 今回は、こんなことを考えながらの旅だった。経済が進化すれば、人々が幸せになるという進化論は誤りではないか、と。

私たちは、ラオスの世界遺産の町、ルアンバパーンに行った。朝市では店の人たちは隣の店の人との雑談を楽しんでいた。仏教を信じ、まだ暗い早朝の町を裸足で歩いて回る托鉢僧に蒸したモチ米を寄進する姿を見た。清々しく、美しい光景が今でも瞼に焼き付いている。

いったい何が幸せなのか、そして豊かさって何か。お金があれば幸福が買えるのか。そんなことはない。だったら、なぜ経済成長した社会が進化した社会なのか。不可解なのは人生だけではない。今の経済も政治も社会も不可解だ。

「心の豊かさ」と「経済の発展」

団員 久谷與四郎

バンコクの今回の訪問で、「随分忙しない街になったな...」という印象を受けた。経済発展の結果なのだろうが、東京の喧騒さとあまり変わらない。その街から1時間余の飛行、メコン川を超えたラオスのビエンチャンは、バイクや車の渋滞とは無縁ののんびりした街だった。

言ってみれば「何もない」国、アジアの最貧国なのだ。建物も街路もお世辞にも綺麗と言えないが、何かほっとする雰囲気が漂う。少年時代に過ごした田舎の町に里帰りしたような思いに駆られた。

ビエンチャンから北に飛んだ世界遺産の町ルアンパバーンは、かつてのラーンサーン国の王都。いわば京都のような町だが、気品にあふれた落ち着きがあって、町全体が独特な雰囲気に包まれていた。

夕方、町の中央の小高いプーシーの丘にへとへとになりながら登った。そこで眺めたメコン川に影を映しながら沈んで行く夕日は忘れられない。早朝、僧侶たちが托鉢に町を回る。町の人々が道路わきに座って喜捨する。その中に混ぜてもらって、われわれも喜捨を体験した。貴重な経験だった。

さて、ラオスの面積は日本の本州と同程度、そこに約650万人、千葉県程度の人口。でも、国の8割が高地で、耕作可能な国土は9%に過ぎない。しかも、周囲をベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、中国に囲まれた内陸国。これが経済発展の障害となっていたが、最近は事情が違ってきている。インドシナ半島の道路整備とともに、多国間の生産分業が進みつつあるという。

例えば、ニコンはラオスで労働集約的な工程で仕上げた製品を、タイのアユタヤのマザー工場で最終製品化している。トヨタ紡織も自動車シートカバー生産で、ラオスにサテライト工場を立ち上げて分業体制を築いた。日系運送業でもタイ、ラオス、ベトナムの3国間輸送に乗り出している。かつての陸の孤島ラオスに、大きな発展へのライトが当たりつつある。

一方、中国・昆明からビエンチャンへの鉄道建設が急ピッチで進んでいる。その現場を見たが、われわれが泊まったビエンチャンで一番大きなホテルは中国資本だった。客の大半が中国人で、町の飲食店街一帯は真っ赤なネオンの中国看板ばかり。中国のすさまじい進出を目の当たりにして、この先「債務のワナ」にラオスが...?と心配になった。

ところで、ラオスの経済発展には人的な課題もありそうだ。人口の約52%が25歳未満、出生率2.82%と、日本から見るとうらやましい限り。だが、労働人口410万人の7割が農業従事者というのは逆に大きなブレーキ。工場労働などに慣れる教育訓練が必要で、それには時間がかかりそうだ。

帰途の機中で考えた。ラオスの人々はバンコクのような忙しない生活を望まないのではないか、と。「経済的発展」と「心の豊かさ」、その両立は悩ましい問題だ。

旅は沢山の出会いと発見に満ちている

団員 保高睦美

タイでは、バンコクで事業を展開する20歳代から30歳代の社長3人と夕食を共にした。3人とも外国人技能実習生の受入れ監理団体「公益財団法人国際人材育成機構」(アイム・ジャパン)を通じて来日した技能実習生OBで、タイ東北部の貧しい農家の出身だ。

アイム・ジャパンの場合、タイ政府による選抜試験後、実習生は日本語や日本の生活習慣、労働慣行を4か月学ぶ。授業料、食費を含む寮費は全部無償。だから、貧困層の若者も参加可能なシステムとなっている。

その中の一人パッタナー・プラチャイブンさん(37歳)は、2004年、日本へ出発したとき、手元には、わずか300バーツ、当時のレートで千円足らずしかなかったという。それが、今では、年商5000万バーツ(約2億円)の企業、その名も「カイハツ カイゼン エンジニアリング」の社長である。

日本での3年間、地方で仕事をし、父母に仕送りし、日本語を磨いた。「お父さん、お母さんも期待していますから。やるしかないです」との言葉に、実習時の苦労が偲ばれるが、3人とも「アイム・ジャパン、日本の上司、同僚にチャンスをもらって今の私ができたので、できるだけ恩返しをしたい」と口をそろえる。

2000年から始まったアイム・ジャパンのタイからの実習生の受け入れは、5000人に上り、OBで作る「社長の会」の会員は400人を数える。日系企業の幹部、通訳として活躍するOBも多い。

悪質な送り出し機関や劣悪な労働環境など、技能実習生制度の問題点も多く指摘される中、開発途上国の経済発展を担う「人づくり」に協力するという、本来の目的が実現している例に出会い、制度は運用が大切と実感した。

もう一つの視察国、ラオスでは、「喧嘩はやめてください」と語りかける仏像が印象に残った。胸の前で両手の平をこちらに向けて制止するようなポーズの立像。穏やかで争いを好まない国民性を象徴しているように思える。

社会主義政権成立直後には、仏教色を薄めようとする時期もあったが、現在では指導者も宗教行事に積極的に参加している。社会主義と宗教という一見相反するものを両立させているのも争いを好まない精神の現れだろうか。

中国のラオスへの投資は、中国の一帯一路による押し付けとの見方もあるが、日本大使館やジェトロでは、むしろ、ラオスが自国の利益のために積極的に投資を呼び込んでいるとの分析を聞いた。

どうやら、ラオスは穏やかと同時に、したたかさを両立させる国でもあるようだ。

20200225a.jpg技能実習生OBのタイ人社長(前列右の3人)と会食後の記念撮影

20200225.jpg手のひらを向けて「喧嘩はやめてください」 という仏像

  
 

過去記事一覧

PAGE
TOP