2025/02/17
元厚生労働省、前国際労働機関駐日代表 田口晶子
(会報222号=24年12月10日号から転載)
はじめに
いわゆる高度人材については、世界中で熾烈な獲得競争が行われている一方、非熟練労働者については、厳格な受け入れ要件を設定している国が多い。日本でも、2024年に育成就労制度が導入されたが、筆者たちは、今般、韓国における非熟練労働者の受け入れに関し、立場の異なる諸々の関係者と意見交換できる機会を得た。
韓国の雇用許可制度
韓国が、日本の技能実習制度に類似した「産業技術研修制度」に換わって、2004年に「雇用許可制度」を導入してから20年が経過した。この制度は、国とその機関が運営し、民間機関の関与を認めず、外国人労働者の権利が尊重され、不法滞在者も減少したとして、国際的にも高い評価を得ている。
- 受け入れ対象国と人数
対象国は、当初の6か国から17か国に拡大した。2023年には、この制度で約10万人の外国人を受け入れたが、最も多いのはネパール(19,738人)である。2024年は16万5000人を受け入れる。 - 対象業種
当初は5業種で、最近多少拡大された。業種ごとの受け入れ人数は外国人力政策委員会が決定する。実際の受け入れは、製造業(300人未満または資本金80億ウオン以下の企業)が圧倒的に多い。2023年の新規受け入れ10万人中、製造業は7.9万人であった。 - 雇用期間と家族の帯同
2022年に制度改正が行われた。最初の雇用契約は3年以内で1年10カ月延長できる。4年10カ月経過後は出身国への一時帰国など要件を満たすと、最長で9年8カ月まで就業期間を延長できる。家族の帯同は認められていない。 - 事業所変更
法定事由による事業所変更の他、最初の3年間で3回、次の1年10カ月間で2回労使の合意による事業所変更が認められている。つまり変更には事業主の合意を要する。事業主は労働者の転職を制限するような制度変更を要望している。 - 外国人労働者の選考
外国人労働者も採用希望事業所も点数化され、書類選考で決定される。直接の面談は行われない。 - 準熟練人材への資格変更
雇用許可制で入国した者も、要件を満たすと、滞在期間の制限が撤去され、家族帯同が可能な準熟練人材の資格が新設された。まだ対象者は極めて少数である。
感想
韓国の雇用許可制に関し、筆者が感じた2つの懸念をとりあげる。
- 雇用許可制労働者のエンゲージメント(熱心に業務に取り組むこと)は高められるのか
多くの労働者にとって、就労の目的は生活賃金を得るだけでない。非熟練労働者としての長期間就労では、労働を通しての自己実現などが達成できない懸念がある。 - 雇用許可制と中小企業対策
韓国の中小企業の雇用者割合はOECD諸国で最も高いが、生産性は大企業の約3分の1となっている。労働者が確保できない中小企業が、生産性を向上させる努力をせず、この制度により倒産廃業を免れている可能性はないのか。 最後に、ご一緒した訪問団の皆様、特に労働政策研究・研修機構の呉学殊特任研究員、訪問先、現地、日本国内でお世話になった皆様など、すべての関係者に感謝を申し上げて、ペンを置く。