会員セミナー

日本の賃金構造の変革を

2024/04/22

 
会員・ 加藤裕治(弁護士)

自動車総連会長、金属労協議長として労働運動をリードしてきた加藤裕治さんが12月7日、千代田プラットフォームで「日本の賃金構造が抱える課題」をテーマにセミナーを行った。長い間、労組は賃上げ要求を物価に根拠として決めてきたが、その要求方式がもはや時代に合わなくなった。今後の労働運動の課題として加藤さんは、生産性向上を根拠とする賃上げ方式に変えること、属人賃金から仕事賃金への移行、そして労組が賃金構造の改革案を検討し「2050年賃金ビジョン」を策定すること¬¬¬¬などについて提言した。

以下、加藤さんの主張を整理し、最後に感想を書いてみたい。

まずは最低賃金(最賃)と高卒初任給の問題。最賃は2007年以降、上昇しており、高卒初任給に追いついてきた。最賃は来年以降も上がるだろう。最賃と高卒初任給が拮抗することになれば、これまで行ってこなかった春闘での初任給の交渉を行う必要がある。すでに初任給の横並びは崩壊しはじめており、毎年春の新卒一括採用にも変化の兆しが出ており、若年者の離職率も高い。

次に春闘について、労組のナショナルセンターである連合が賃上げの統一要求基準を示す必要はない。賃上げは大産別、産別労組がリードして行うよう変えるべきだ。

労組は物価上昇を根拠に賃上げを要求し、実質賃金を引き上げる方針を掲げてきたが、デフレ経済下で賃金引き上げが難しくなった。欧米では生産性の向上分を根拠に賃上げを要求するか、もしくは生産性を向上させるために賃上げをするか、ということを要求根拠として交渉しており、日本との賃金差は開いてしまった。賃上げ抑制の一方で、企業は内部留保を続けてきた。

今後、労組は生産性向上を賃上げの根拠と要求する方式に変え、大産別や各産別労組がそれぞれ賃上げ目標を掲げて春闘交渉を行うことが必要だ。

その上で、今後、労組は春闘要求の根拠を物価から生産性向上へと変えることや年功序列賃金体系の見直しなどの課題について検討し「2050年賃金ビジョン」を策定すべきだ。

セミナーを終えて

総評の故太田薫議長が提唱した国民春闘方式は、労働運動の最大の発明とされ、実績を残してきた。しかし、デフレ下で物価が上がらず、物価上昇を根拠としてきた春闘方式は時代に合わなくなった。給与が増えず、消費が落ち込み、経済成長は鈍化し、さらに賃上げにブレーキがかかるという悪循環が最近まで続き、労組の存在感が薄れ組織率も下がった。

労働運動の冬の時代といわれて久しい。労組は加藤さんの提案に真剣に耳を傾け、議論を始めるべきだと思う。労働運動は足元の経済状況や将来を展望し柔柔軟で機敏な対応をしていかなければ、信頼や存在感を高めることはできない。
ヒアリングを終えた今、労組の組織率低下、働き方や賃金構造の改革、非正規雇用の拡大と雇用不安、正規と非正規の所得格差の拡大など、山積する課題に対し、労組の存在が見えない現状が、やはり気になった(稲葉康生)。

20240422c.jpg会員セミナーで説明をする加藤講師(中央)
20240422d.jpg会場からの質問をメモする加藤講師(右)
  
 

過去記事一覧

PAGE
TOP