会員セミナー

裁判例からみる「同一労働同一賃金」

2024/04/22

 
講師 君嶋護男氏

2024年1月25日、君嶋護男代表代理を講師に「裁判例からみる『同一労働同一賃金』」をテーマに、会員〇名が参加して「会員セミナー」が開催された。君嶋講師はまず、

  • 同一労働同一賃金の理念を否定する人はいないし、「同一賃金」は誰にでもわかるが、「同一労働」については様々な見方があり、わかるようでわからないこと
  • 男女差別については労働基準法第4条で明確に禁止しているが、そのほかには有期契約労働者と無期契約労働者の不合理な相違を禁じた労働契約法20条があること(現在はパート・有期雇用労働法)
  • 労契法20条が設けられたあと、これを根拠とした裁判が堰を切ったような勢いで増え、大きなインパクトを与えていること
  • 有期契約労働者と無期契約労働者の違いや業務の内容、責任の程度、職務の内容、配置転換の範囲、その他の事情に基づき、「不合理なものであってはならない」とされており、「合理的なものでなければならない」ではないこと
  • このため、不合理であることの立証責任が労働者側にあり、その影響が非常に大きいこと
  • 労基法では、労基法上、無効となる賃金・労働条件については、労基法の定める基準が適用されるが、労契法では、法制定の際に激論となったものの、結局、こうした規定は設けられず、違反となっている場合にどうなるかわからないという問題があること

など「同一労働同一賃金」の法制度の特徴について説明があった。

その後、君嶋講師の著書『同一労働同一賃金裁判例36』で取り上げられた裁判例のうち、とくに重要なものが紹介された。この中では、専任教員と非常勤講師との本棒額について、原告が労働条件均衡配慮義務を主張したものの、3倍の格差が不合理ではないとした中央学院非常勤講師事件、無期契約社員と有期契約社員の格差について、「両者の格差をどうするかは被告の裁量」とした(社福)青い鳥出産休暇等事件、「賃金を含む労働契約の内容が本務者と異なることは契約当初から分かっており、雇用形態が異なる場合に賃金格差が生じても、これは契約自由の範疇」とした日本郵便逓送臨時社員賃金事件、内勤の女性正社員と同期の現場勤務の男性社員の賃金格差について、理由を示さず唐突に「両者の価値に特段の違いはない」と決め付けたことから、全く説得力を欠き、異なる仕事でもその価値が同一であれば同一の賃金を支払うべきとする同一価値労働同一賃金の流れを却って阻害したと推測される京ガス女性社員賃金など、様々な問題事例が指摘された。

一方、最も重要な労働内容が正社員と同一で、一定期間勤務した臨時社員の賃金が正社員の8割以下である時には、公序良俗違反として違法となるとした丸子警報器女性臨時社員事件については、労働法関連ではベストスリーに入る優れた判決(のち和解)として紹介された。

このあと多くの質疑があり、続く懇親会でも活発な議論を行った。

(浅井茂利)

20240422e.jpg会員セミナーで解説する君嶋講師(右)
20240422f.jpg参加者からは活発に質問が出た
  
 

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