私の主張

「企業業績と賃金決定 ―賞与・一時金の変遷を中心に」( 日本労働研究2020年10月号から)

2021/01/12

 
会員・荻野登(幹事、労働政策研究・研修機構リサーチフェロー)

企業業績が賞与・一時金に影響するのは当然であるが,その影響度合いは時代とともに変 化する。本稿では賞与・一時金の変遷をたどりつつ,企業業績がどのように反映されてきたのかを概観する。賞与・一時金は制度として,明治から大正期に定着していくが,この頃は主従関係における恩恵的な施し,また現在以上に利益還元としての意味合いが強かった。その後,戦時下で制度化された賞与は生活給的な性格を強め,戦後,労働組合の増加とともに,賞与・一時金が交渉事項となると,物価高騰への対応として生活給としての性格をさらに強める。戦後復興期から高度経済成長期に,賞与・一時金の支給月数は伸び続ける。こうした動向を安定させるために年間臨給方式が導入される。石油危機後の安定成長期に入ると,企業業績によらない産業内の平準化,企業内の個人査定においても均等化が進む。その後,バブル経済の崩壊を経て,鉄鋼・電機などの輸出産業は円高の影響もあり,産別闘争として取り組まれた一時金の統一要求・統一回答の維持が難しくなり業績連動型 の決定方式に移行する。同方式は多くの企業で採り入れられるまでになったが,マクロ・ミクロともに岐路に立たされている。第一は新型コロナ感染拡大によってリーマンショックを超えるといわれる景気後退の中,支給水準の大幅な低下が予想されることである。第二に企業内では正規・非正規労働者間の賞与・一時金における処遇差に対して同一労働・ 同一賃金原則を踏まえた公正な待遇の確保が求められているからである。

【論文】企業業績と賃金決定──賞与・一時金の変遷を中心に|日本労働研究雑誌 2020年10月号(No.723)(PDF版)

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