私の主張

【19春闘】名ばかり「春闘」ますます限界へ

2019/07/01

 
森 一夫

今年のいわゆる「春闘」について、連合は上げ幅のみならず、絶対額にこだわり、大手と中小との格差是正を図ると強調してきた。
結果はどうか。残念ながら、今のところ掛け声の域を出ない。連合が4月18日に発表した第4回集計によると、定昇込みの賃上げ回答は全体で6292円、2.13%で、昨年を164円、0.03㌽上回ったが規模間格差は縮まらない。
300人未満の中小組合への賃上げ回答は5110円、2.04%で、300人以上の組合への回答6409円、2.14%を、額、率ともに下回っているからだ。
神津里季生会長は、300人未満の中小の回答を、同日の記者会見で高く評価した。「2014年から始まった今の賃上げの流れの中で最高の水準だ。底上げを目指して、今年はとりわけ上げ幅のみならず絶対水準にこだわると言ってきた。それに中小の組合がしっかり取り組んでくれた結果である」。

開く規模間格差

とはいえ規模間格差はなお開くので、その点を会見で質問すると、「格差は20年間、開きっぱなしだったが、年々、是正を図っている」との答え?が返ってきた。
もっとも「賃上げ分(ベア相当)が明確に分かる組合の集計」では、99人以下の組合は賃上げ分が1685円、0.73%で、1000人以上の1615円、0.56%を上回る。
人手不足の影響が厳しい中小企業は、人材確保のためにそれなりに大幅な賃上げをせざるを得ない。だからといって今「春闘」を機に、全体の大手と中小との格差が縮小傾向に転じるとは思えない。
平成時代を覆ったデフレ経済は、賃上げを冷え込ませ、今に至っている。トヨタ自動車による2002年のベアゼロがとどめともいえた。その年、全体の賃上げ率は連合集計で定昇込み1.72%だった。
このころから定昇とほぼ同義の「賃金カーブ」維持がしばらく要求の中心になった。当時、「定昇は約束通りやるのが当たり前で、要求するものなのかね」と、いぶかる大手企業の経営者もいた。
さらに「ベア」がほとんど死語と化し、「賃金改善」という言葉が広まった。一応理屈はあるが、経営者が「ベア」を嫌うので、言い換えたというのが実態だろう。
平成の初めには定昇込み5%台だった賃上げがいつの間にか、1-2%台の低位安定に落ち着いた。
今年は当初、企業業績が好調だったのに、連合の賃上げ要求基準は昨年と同じ定昇込み4%程度。控えめではないかと定例会見で問うと、神津連合会長は「高く要求すれば、いいというものではない」と答えた。実際の賃上げ要求は4月18日の集計では、平均3.13%と連合の基準にとどかない。

低位安定の構造的理由

低位安定には、構造的な理由がある。グローバル経済の変動に直撃される金属労協が、相変わらず相場形成役を担わされている点にそもそも無理がある。
前年を上回ったと言っても、ベア分がコンマ以下の賃上げ率では、日本の賃金水準の有意な引き上げは難しい。名ばかり「春闘」の限界が今年ますますはっきりした。

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