私の主張

創刊号から200号まで数字で見る40年

2019/07/01

 
元労働省労働経済課長
奥田 久美

分配構造は極端な株主主権経済に変貌、97年レベルを超えない賃金 ―令和では労働者復権なるか、株主主権のままか。

創刊号の1981年3月から、200号の2019年5月までの38年余で、労働に関わる変化を数字で見てらどうなるか。元労働省労働経済課長を務めた奥田久美会員に分析してもらった結果、この間、労働者の窮乏は深刻化し、富裕層はさらに富裕になる社会構造が浮き彫りになった。

有効求人倍率が高水準の意味

2018年度の有効求人倍率は1.62倍。40年前の1979年頃は、列島改造景気で1973年度平均で1.73倍を記録したのち、1973年秋の第一次石油ショックの影響で急落し、75年初に0.5倍近くで下げ止った後、長らく0.6~0.7倍台で推移していた時期である。その後何度か上げ下げがあり、リーマンショック後の2009年3月の0.42倍からその後は9年連続して上昇を続け、2013年後半に1倍を超えて今日に至っている。  しかし、この数字は日本経済が好調なことの表れだろうか。最近の人手不足の背後には、生産年齢人口が、1995年の8726万人をピークに直近の7546万人まで(ピーク比で実に1180万人減)、23年連続して毎年50万人のペースで減少しているという現実がある。有効求人倍率が1倍を超えてすでに4年を超えたが、0度を超えると氷が水になるように、そろそろ労働の世界にも大きな変化が起こっていいころだと思うのだが

1997年をピークに下がり始めた賃金

日本の名目GDPは、2016年に537兆円を記録するまで1997年の534兆円が20年間にわたって最大だった。一方、賃金も1997年をピークに減少し、20年以上経過した現在も、その水準を超えていない。名目雇用者報酬は、1997年の278兆円が2016年でも268兆円にとどまり、一人当たり賃金(国税庁の民間給与実態調査)は1997年の467万円をピークに2009年には406万円まで下がり、その後若干増加して2017年は432万円になっているが、ピークに比べて35万円、7.5%も減少している。

際立つ営業利益と配当の増加

金属労協の2019年の春闘資料で興味深い統計表を見つけた。「付加価値の変化」(全産業、除く金融保険業)の表である。1997年度と2017年度を比較すると、1997年度の付加価値総額は275.7兆円、人件費が203.9兆円、営業利益が16.1兆円、配当が4.2兆円、これに対して2017年度をみると、付加価値は311.7兆円へと36兆円、13.1%増加しているが、人件費はわずかに2.6兆円1.3%増の206.5兆円に対して、営業利益は3.8倍の61.2兆円に、配当は5.5倍の23.3兆円に激増している。

平成の時代に起こった日本経済上の最大の出来事は、昭和の時代のスタンダードだったステイクホルダー間のバランスの取れた分配構造が、この30年間に極端な株主主権経済に変貌したことである。令和の御代が、氷が水になるように状況が劇的に転換して、労働力需給バランスが不足状態に転じたことを反映して「労働」の復権する時代になるのか、それとも、自然の摂理に反して、あり余った金がこのまま社会を支配し続けるのか、注目したい。

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