私の主張

連合結成30周年に向けて
労働組合は、最大の納税者組織である 医療行政を変えた「連合の領収書をもらおう運動」①

2019/09/24

 
torii.jpg労働ジャーナリスト・鳥居 徹夫会員

略 歴

1973年(昭和48年)茨城大卒。造船重機労連入職。教育広報部長等を担当、 造船重機労連と鉄鋼労連統一を機に、国会議員政策秘書となり、文科大臣秘書官 などを歴任。

労働運動の話(「労政フォーラム」2019年3月号から)

連合は「ACTION!36」を推進

連合は、「長時間労働を是正し、過労死を日本から根絶させる」ことを目指して、「ACTION!36」キャンペーンを展開し、3月6日を「サブロク (36)の日」として三六協定の浸透と締結促進に向けた運動を展開しています。

連合は、3月6日を「サブロクの日」として一般社団法人日本記念日協会に登録申請していましたが正式 に認定され、日本記念日協会から登録証が授与されています。

三六協定とは、正式名称を「時間外・休日労働に関する協定届」と言います。労働基準法第36条が根拠になっていることから、三六協定と呼ばれています。労働基準法第36条では「労働時間を延長、または休日出勤をさせるときは会社と従業員で協定を結んでそれを届けなければならない」と規定されています。

労働時間は本来1日8時間、1週40時間までと労働基準法で決められています。

それを超えて働かせると罰則規定があり、使用者が罰せられます。

その三六協定を締結せずに残業をさせた場合や休日労働をさせた場合、労働基準法違反となり、使用者に六か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

厚生労働省 (平成25年度労働時間等総合実態調査)によると、三六協定を締結していない事業所は全体で44・8%もあり、特に中小企業の半数以上が三六協定を締結していないことがわかりました。

三六協定を締結していない理由として、「三六協定の存在を知らなかった」という使用者は35・2%と、三六協定の認知度の低さを示す結果が出ています。

三六協定を締結していない理由として、①時間外・休日労働について就業規則等で規定を設けるのみで十分と思っていた、②事業場ごとに締結が必要とは知らなかった、③過去締結した三六協定が現在も有効だと思っていた、④三六協定の締結・届出を失念した、⑤その他三六協定の存在を知らなかった、などとなっています。

ちなみに「三六協定」は、正社員はもとより、アルバイトもパートも外国人を問わず、全従業員に適用されます。

どのような雇用形態であったとしても、1日8時間1週40時間を超えて働かせる場合は必ず三六協定の締結と届け出が必要です。

使用者には、法律を守り、働きやすい環境をつくることが求められています。また働く側も、ワークルールの基本的な知識がなければ、自分の身を守ることができません。使用者、労働者の双方がワークルールを正しく理解し、適正に三六協定を締結することが大切です。

ここで重要となるのが、労使による三六協定の締結と運用です。

過半数の労働組合がないところでは、従業員過半数代表制度が機能しなくてはなりません。

従業員代表者の選出は、①代表者が管理監督者でないこと、②選出目的を明示すること、③民主的な手続き、の3要件を満たさなくてはなりません(労働基準法施行令第6条 が、現状は形骸化しているとの指摘も強くあります。

JIL 労働政策研究・研修機構) の調査によると、三六協定の締結における労働者側の当事者は、従業員過半数代表が6割弱で、その従業員過半数代表の2割は何と管理職であったといいます。

過半数労働組合の要件を満たしていない場合や、過半数代表者の選出が適切に行われていない場合は、三六協定を締結し労働基準監督署に届け出ても無効となります。

法律が整備されても、それが各職場で活かされなければ意味がありません。

労働組合の有無にかかわらず、すべての職場において、より良い働き方の実現をめざし、三六協定の適切な締結をはじめとする職場での取り組み を、労使で徹底していくことが重要です。

連合が「ACTION!36」運動を展開するのは、三六協定が適切ではない方法で結ばれていることも少なくないからです。

三六協定は、労働者を長時間労働から守る大切なものです。連合は、働く者の権利を守るために、今後も、三六協定の適切な締結などの取り組みを進めるとしています。

医療情報の開示で、供給者サイドの行政を転換

連合は「お医者さんにかかったら領収書をもらおう」運動を展開してきました。 この地道な運動は、医療の在り方を大きく変える、利用者による納税者運動でした。 国民医療費は、高齢者の増加もあり40兆円に達し、国・地方の財政負担も年々増え続けました。

その一方で、悪質な病院や診療所による医療費の不正請求は後を手立たず、1995(平成7) 年度の医療機関による過剰請求(不正請求)が3222億円に上ったことが明らかになりました。

医療費の不正請求とは、「自分はその月にお医者さんに行っていないのに、行ったことになっていた(架空請求)」とか、「実際は1回の検査だったのに、数回に分けて検査した(水増し請求)」かのように診療報酬を請求することです。

1997( 平成9) 年9月に患者の自己負担割合が1割から2割に上がりました。 患者の自己負担比率の引上げ、そして医療費不正請求をきっかけに連合が始めたのが、お医者さん(医療機関)にかかったら、その都度確実に領収書をもらうという運動です。

連合はまず、組合員一人一人ができることとして、お医者さんにかかったときには必ず領収書をもらう、そしてその領収書と医療費通知を照らし合わせようと、組合員に呼び掛けました。

かつては医療機関から領収書すらもらえなかったのです。運動を始めた当時は病院の窓口では、露骨に嫌な顔をされ、不愉快な思いをする人も多かったのです。 たとえば確定申告の医療費控除では、領収書の提出が必要とされるのに、「何に使うのですか」とか「500円かかります」と言われたりしたのです。診療報酬を決める中医協(中央社会保険医療協議会)の場でも、連合選出の委員は「領収書発行を義務化すべし」という発言を何度も繰り返し、徐々に領収書の無料や明細書発行が広がりました。そして2006(平成18) 年からは領収書の発行が義務化され、2010(平成22) 年の診療報酬改定で、診療明細書の無料発行が原則義務化されました。

この時点では、患者の申し出があった場合でした。 2018(平成30) 年には全病院・診療所で、診療明細書の発行が完全義務化となりました。 受診した診察の中身を知ることと、医療内容とその単価がみあうのか、などを利用者が直接知ることになります。価格を通じてサービスの質を知り、病院が間違って請求していたとしてもチェックできるようになったのです。

これまでの医療行政は、医師会などの利権圧力団体と族議員、そして所管の厚生省(現・厚生労働省)という「鉄の三角形」によって進められてきました。 医療行政は、供給サイドによるものであり、利用者無視でしたが、最大の納税者団体としての労働組合のパワーが、閉鎖的で不透明で硬直的な医療行政を変革させるパワーとなったのです。

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