私の主張

「『日韓問題の打開』元徴用工問題の解決」を読んで

2021/01/12

 
会員・得丸洋(オフィス一夢代表)

去る十二月七日付けの労ペンHPの「私の主張」欄に表題の論文(横舘久宣氏)が出ていたので、浅学の身でそれに対する意見を書こうとしていたところ、十二月二八日付けの当該欄にも「労働遺産と産業遺産を考える」(鳥居徹夫氏)が掲載された。共に朝鮮半島出身者に対する徴用労働問題を扱っているが、対象になる労働実態が(当時の日本人と比べて)過酷であったかという点で、対極的な見方になっており、興味深い。

筆者にはこの問題を論ずる知識も確信もないが、この種の議論には、往々にして徴用労働は強制労働であるから過酷である筈だという思い込みがあるように思う。私見では事実は中間ではなかろうかと想像する。実際には労働者の逃亡や労災死もあったではあろうが、それは日本人にも発生したレベルと比べて論じられなければならないだろう。

この点で興味深いのは、ここ数年、日韓両国で注目されている書籍「反日種族主義」(元ソウル大教授・李栄薫氏)の内容である。李氏は、かなり突っ込んだデータで徴用問題だけでなく、慰安婦問題や当時の日本の経済政策の実態について解析し、背景となる事実について、かなりの部分が韓国側の主義に沿う事実の選択的抽出あるいは捏造であると主張している。
ここではこれ以上述べないが、いずれにせよ、議論の前提には希少なエピソードの積み重ねでなく、データによるエビデンスとしての解析が重要だと思う。(余談だが、今のコロナ問題も、マスメディアの報道は、主張したい一部の事実のみを強調しすぎ、この冷静なエビデンスベースのFACTFULNESSが全く欠如していると感じる。)

本題に戻る。表記の徴用工問題の論文は、これまでのこの問題の経緯と日本政府・企業がなしうることの提案が述べられている。  経緯については、上述のようにアプリオリに対象になる労働が過酷だったとしているように見えること以外はその通りであろう。(もっとも、本来、請求権の有無は、未払いの賃金の請求が主であれば、労働の過酷さとは関係が薄いと思うが。)
 一方、政府、企業の対応については余り賛成できない。結論的には、政府は今の姿勢を続け韓国側の変化を待たざるを得ないし、日本企業もやれることは殆どないと言わざるを得ないと思われる。その主要ポイントは以下である。

  • 企業への請求権は、法理的に言えば有るのが当然と思うが、それと関連する困難な諸問題を一括で解決すべく政府間で合意したのが戦後二十年目の一九六五年の日韓請求権協定であり、本来、その時点で韓国政府が国内問題として処理すべきものに変わっている。それを後から定義の不整備を突く形で蒸し返す、言わば法的な一事不再理原則に反するやり方で持ち出すのはおかしいのではないか。過去の自国政府の決定を覆すのは、韓国では頻繁だが。
  • そのことが認められないのは、韓国の常套手段であるからだけでなく、この問題が日韓の問題に留まらず、企業への請求権は、北朝鮮、中国、台湾にも飛び火するからである。飛び火したら飛び火したで、対処すべきだという議論も成り立つが、日韓請求権協定締結から更に55年、終戦から計75年以上が経過している。事実の認定は不可能だし、企業側も提携・合併を繰り返し、有力であった石炭産業の三井鉱山は既に無くなって久しい。
  • そうした中で論文で述べられているように関係企業は未払い賃金を供託していたというのであれば、企業としてすべきことは、考え方としてはないということになり、有るのはボランタリーな協力作業だけになってしまう。だからこそ政府間の協定で進めるべき問題ではないだろうか。
  • 請求権があるというなら、時効はあるのか?これは例外なのか?遺族の請求権はどこまであるのか?他の国への影響も含め、その種のややこしい問題も含め、結局、解決には政府間の協定で解決せざるを得ない筈である。
  • 当面の日韓関係の改善だけを目的にすれば、妥協することもやむを得ないかもしれないが、現在の文政権は相当な親北朝鮮政権である。韓国にする妥協は、将来起こる北朝鮮(あるいは朝鮮半島南北統合国家)への影響多大なものがある。これへの対応を誤ると、朝鮮半島全体の反日の動きに火に油を注ぎかねない。今後の米中拮抗する世界構造の中で、東アジア地区の将来を踏まえた対応が必要だと思う。

以上が筆者の意見であるが、もとより日韓問題の専門家でも無く、「街場の韓国論」に過ぎない。事実認識に誤りがあればお許し頂き、ご教示頂けると幸いである。

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