私の主張

「元徴用工問題の解決」再考

2021/02/01

 
会員・横舘 久宣(フリ-ランス・ライター)

筆者の個人的な原体験がある。終戦直後、東北地方の小都市で小学生だった。仲良しの級友に在日朝鮮人のK君がいた。大阪から引っ越してきたという。絵が好きで上手だったが、彼の画材は他の級友のそれと比べて明らかに家の貧しさをうかがわせた。苦学の末、中学校の教師になり、その後、画家としてパリや東京、母国のソウルなどで個展を開くまでになった。都内でクラス会をしたときのこと。近況報告のなかで彼は急に「みんなは俺に優しかった。だから...」と言って絶句、うつむいてにじませた泪に、差別に悩まされた70年に近い彼の人生の苦難を思った。

こうした原体験も相まって、当時、朝鮮半島出身者の日本における境遇は厳しいものではなかったかと想像してしまう。徴用工の多くが強制動員や強制労働の不運に遭遇し、かなりの不利益を被ったのではないか。その様子は、日本での裁判記録でもうかがわれる。判決では、国や被告企業による不法行為や安全配慮義務違反について、原告側の主張を認める判断が多い。例えば「過酷で危険極まりない作業になかば自由を奪われた状態で相当期間にわたって従事させられ、賃金の支払いはなされていないことが認められる」、「欺罔や脅迫による強制連行、強制労働と認められ、当時の法令と公序のもとにおいても許されない違法な行為だった」といった内容だ。中国人原告提訴では「被害の実態や苦難の様相はあまりに痛ましく、慄然たる思いを禁じ得ない。法的責任は消滅しても道義的責任が消滅する理由はない」とする「付言」が示された判決もある。さる12月、朝日新聞夕刊が連載したルポ「現場へ! 強制労働の足跡をたどる」でも、当時の中国人や朝鮮人の生々しい苦役の様子が語られている。いずれの訴訟においても「日韓請求権協定により請求権は消滅した」との判断や、除斥期間や消滅時効を理由に棄却された。

いまなお気持ちの晴れない被害者をおもんばかり、両国政府間の対話の再開を期待したい。報道によれば先日、韓国の文大統領が慰安婦訴訟に関し、変化の兆しともとれる新たな姿勢を表明した。2015年の日韓慰安婦合意を「政府間の公式合意」であると認めた。元徴用工の問題では、日本企業の資産の売却による現金化は「韓日関係に望ましくない」と語ったという。

日韓請求権協定には、両国間になんらかの齟齬が生じた場合、解消するための手続きが示されている。一昨年、日本政府の協議開催の呼びかけに韓国は応じず、そのあと協定に基づく仲裁委員会の開催提案にも応えなかった。こちらの方が国際法違反という日本の学者もいる。韓国政府の再考を期待したい。関係者による補償のための基金の創設など諸々の試案が水面下で取りざたされているようだ。いずれも両国がテーブルにつかないことには始まらない。これまでの数少ない企業との和解のケースも参考にして被害者の救済につなげたい。

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