関西支部発

日本労働ペンクラブ関西支部研修会・懇親会開催(22年9月25日)

2022/11/28

 
(関西支部通信第37号=22年10月号から転載)

2022年9月25日(土)午後2時半から午後4時50分まで、エルおおさかにおいて、関西支部研修会を開催した。研修会終了後、会場を京阪シティーモール内の薩摩ごかもん天満橋総本店に移し懇親会を開催した。研修会参加者は15名、懇親会参加者は12名。
開会に当たり、森田支部代表から、本部・支部活動について進捗状況の報告を含めた開会挨拶。司会進行は狩谷道生幹事が担当した。

(1)関西支部研修会

昨年入会された、国際経済労働研究所所長の本山美彦京都大学名誉教授に講師をお願いし、「賀川豊彦のロシア革命批判と立体農業論~ウクライナ戦争が告げる明日の農林業~」をテーマに約1時間10分ご講演頂き、その後の約1時間、講師との対話形式による質疑応答で、沢山の質問にお答え頂いた。

講演要旨

私はもうすぐ80歳になる。歳をとるとそうだと断定出来なくなり、そうかもしれないなぁと思うことが増え、人生はわからないものだなぁで終わるかもしれない。

  1. 「今年2月から突然生々しい戦闘場面が世界に発信されるようになった」

    ベトナム戦争時、世界のジャーナリストたちが、米軍の猛爆撃で泣きながら逃げ惑う市民たちの生々しい映像を、ベトナムの戦闘現場から、世界に流した。おびただしい数の悲惨な姿を伝える映像によって、世界各地でベトナム戦争反対の抗議デモが頻発した。米国内では若者たちによる反戦ヒッピー運動が広範に展開し、結果的に米軍は戦争を終結させざるを得なかった。映像が煽った世界の反戦運動に米国政府が屈したのである。
    この苦い経験に懲りた米軍は、以降、反戦思想を持つジャーナリストを米軍が関与する数多くの戦闘場面からシャットアウトした。しかし、米軍は世界各地で戦争を仕掛け続けてきた。

    2001年アフガニスタン侵攻、2003年イラク侵攻、2007年ソマリア内戦に介入、2011年リビア内戦に介入、そしてチュニジア、シリア内戦にも介入し続けた。米軍は、世界の市民には遠くから映したロケット弾が飛び交う無機質の映像しか見せてこなかった。
    しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が始まるや否や、世界中のメディアがウクライナの悲惨な民衆の様子を連日大きく流すようになった。もちろん、米国のメディアが先頭に立った。そして、「米国は善、ロシアが悪」とういうイメージを世界中に植え付けることに成功した。

    戦争には必ず原因がある。いまや、その原因を掘り下げることなく、ただロシア憎し、ロシアを擁護する中国はけしからんといった、多くの人々が情緒的に語るようになってしまった。

    旧ソ連体制下では、民族に関係なく人々は自国外に移住し、そこで仕事を得て、家族を養っていた。いま問題の焦点になっている、ウクライナ東部の4州も例外ではない。4州のロシア人たちは世界一豊かな黒土(チェルノーゼム)を活かした農業を営んでいた。ところが、ウクライナがソ連から独立してしまうといきなり外国人扱いされ、ウクライナ人から様々な迫害を受けるようになった。プーチンが声高に叫ぶ「ナチスの暴挙」がそれである。 民族の対立を武力で解決するプーチンは強く糾弾されるべきであるが、この当たりの報道は非常に少ない。
    さらに問題がある。両国ともに多数の戦闘員は外国からきた傭兵である。戦争に参加することによって貧困から脱出したいという貧民たちは、各地で生じた内戦から生み出された人たちである。
    こうした点を掘り下げずに、「米国万歳」を唱える市民が増えていることに私は、時代の危機を痛感せざるを得ない。

  2. 創り出される農業危機と、進められる種子による近代的農法

    プーチン政権は、米国を先頭とする西側陣営に対抗するために、資源政策を強化している。そのうちの1つが食料である。

    プーチンは、食料自給率を一刻も早く90%を超える段階に到達することを、政策の重大目標に掲げている。ご存知のように、この政策によって世界中が食料危機に瀕するようになった。

    これを格好のチャンスと見て張り切っているのが、種子提供を主力としているアグリビジネスの多国籍企業である。農民たちは、種子会社から買った種子でなければ、農作物を栽培できない。刈り取った後にできた種子を採集して、翌年に栽培しようとしてもほぼ不可能なF1という種子が販売の主力である。例えば、日本の野菜のほとんどは購入した種子から栽培したものである。

    世界最大の農地所有者は、ビル・ゲイツ財団である。彼が推進しているのが「新しい緑の革命」という農業近代化路線である。日本でも、農林水産業の多くがこの近代化路線をつっ走っている。

    小さな農業や漁業、林業は、新しく台頭してきた大アグリビジネス企業の餌食になりつつある。小農はほぼ駆逐されつつある。大企業が独占的な購入権を持つようになって、各地の中央卸市場は衰退の一途である。林業でも、短期的な利益のみを追って、大規模皆伐が横行し、各地で山崩れを起こしている。
    賀川豊彦は戦前からこうした事態の到来を予測し、農業協同組合の設立に奔走していた。幸い、現在、「労働者協同組合」の設立が容易になった。これは「コモンズ」(市民の生きる標準化)を推進する大きな力となるであろう。(1~2 本山先生による)

  3. 賀川豊彦は、『生存競争の哲学』(1922年)で「剣にたつものは剣にて滅ぶ・・」と記し、1927年「戦時社会主義」という言葉で、暴力によって起こったロシア革命を批判した。100年前の文章が、今目前で起こっていることをそのまま表現できる、現在のネット社会にあっても活字の重要性はそこにある。
  4. 「林業を守る」

    土壌学ではロシアがアメリカをリードしている。ロシアの土壌科学者は論文を懸命に書いているがGAFAに載らないというメディアの差別が結果として学問の差別に及んでいる。

    ロシアの土壌科学者の始祖ヴァシリー・ドクチャエフは1883年『ロシアのチェロノゼム』を著し、ロシアの慢性的飢饉をどう乗り切ればよいかを考えた。ロシアでは小麦等の単作により土壌荒廃が起こった。土地を耕さないことで、色々なものが混ざり合って土壌が回復する。

    アメリカでの同様の研究がジョン・ラッセル・スミス「永続できる農業論」であり、スタインベックの『怒りの葡萄』(1939年)に著されている。スミスの論文を賀川豊彦が「序論・日本における立体農業」に取り込み、当時人口の半分が農民であった日本の農業をどう救うかを分析、1931年に私費を投じて御殿場農民福音学校高根学園を設立した。後に高崎ハムの誕生につながる。

    2019年4月、「森林経営管理法」が施行された。天下の悪法である。木は100年200年かけて育てる必要があるのに、50年皆伐施策を掲げる。豪雨でも雨水が一気に川に流れ込むのを防ぎ崩落、土砂崩れを防いでくれるはずの木を無くす施策だ。高知県佐川町等では、自伐型林業の担い手を確保する取組が始まり、また、農林業近代化推進論者プラチナ構想ネットワーク、日本が目指す「プラチナ社会」では、農業により日本の雇用を増やす取組が始まっている。狭い平地しかない日本では山(原野)も利用し、農作、果樹園、畜産等、その加工販売まで組み合わせた多角的立体農業が不可欠である。多角的立体農業は大規模では出来ない。

  5. 資本家、労働者、上司、部下等の区別のない、小さな集まりで社会生活を作り出そう。大企業のコマになることを止めよう。労働者協同組合によってこれらを推進していこう。労働者協同組合は労働組合の再編にとっても大きな力になると考えられる。何かの形で変化を起こさなければ、このままでは日本はじり貧になる。高齢者がこれらを進めるには限界がある。大きな力は若者にしかない。これらを発信することで若者の知る機会を増やし、若者達の集まる場所を作りたい。そして若者に決定権を委譲し次の社会を委ねたい。
  6. 現在のロシアは完全な資本主義経済である。国家と巨大資本が癒着した国家資本主義である。ロシアは、ウクライナ領を自由に利用したいのだ。かつてのソ連の時代のように。(3-6藤木記) 

挨拶する森田支部代表挨拶する森田支部代表

講演する本山名誉教授講演する本山名誉教授

全員そろって記念撮影全員そろって記念撮影

本山先生の著書紹介

●『国家の強権化と協働労働の使命
-ウクライナ危機がもたらすカオスに抗して』 (文眞堂) (2022年11月中旬出版予定)

過去記事一覧

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