関西支部発

昔語り『先ず、隗よりはじめよ!』

2025/01/27

 
支部会員・吉田 一矢
(関西支部通信第43号=24年10月号から転載)

支部通信42号に掲載の関西支部研修会での小野順子講師のお話を拝読し、かつて、自ら体験した自治体現場に働く、非正規職員との『共働』、『共闘』について、語りたい。

今や、自治体職場において過半数を占める非正規職員。『行政の安上がり化』を推し進める政府の思惑の中、市民のより身近で、生活に密着するサービスを担う非正規職員。その多くを女性が、占めることは、小野講師が話された通り。

更に、2024年度版ジェンダーギャップ報告書1)によれば、男女の賃金格差や、女性の政治参加などの指標において調査対象国146ヵ国中、日本は、112位。同じアジアの中国、韓国より低位であることが発表されたことは、記憶に新しい。

1) 世界的な独立・非営利組織である世界経済フォーラムが、経済・教育・健康・政治の分野毎に男女の平等に関する指数を算出。完全平等は、100%。2024年6月に発表された報告書で日本は、146ヵ国中118位(指数66.3%)。

 このような情勢の中、1980年代半ばから、自治体労働組合の役員を担って来た私の最も傾注してきた課題が、自治体職場の中での正規・非正規職員の賃金・条件格差の解消であった。

 自治体職場における非正規職員は、一般事務の他、早朝薄暮担当のパート保育士、学校の障害児介助員、校務員2)、放課後児童クラブの指導員、児童の登下校時の交通安全を担う交通専従員など多種多様。その多くは、いわゆる臨時・非常勤「任用3)」であり、毎年3月末を前に、『来年度の雇用は、どうなるか?』と言う身分不安が最大の課題。自らの処遇を嘆きつつ、『役所の言うがまま』に甘んじていた彼・彼女達に『自ら課題を解決する為、組合を作り取り組もう!』と公然と訴えてきた。『(組合作れば)上司に睨まれ、不利益を被るのでは?』『家族から「待った」がかかるのでは?』と本音が噴出。『先ず、隗よりはじめよ!』と一人ひとりを粘り強く説得。結成準備会に集まった人々で約半年に及ぶ内部議論の末、学童保育指導員・保育所パート調理員を中心に24名で1990年『市役所臨時・非常勤職員労働組合』が産声を上げた。

2) 学校の環境整備・施設営繕などを任務とする学校職員。かつて学校用務員と称される。

3) 任命権者が特定の人物を特定の公務員の職に就けること。すなわち、公務員として採用する行為。自治体に採用される「任用」は労使双方の意思が合意する労働契約ではないことに留意すること。

 持ちよった職場要求をまとめ、行った第一回目の交渉では、これまで、溜まりたまった不満、とりわけ、一緒に働く正規職員への批判が凄まじく、将に『矢が後ろから飛んで来る』と言う険悪なムードに。この取り組みを進める中での自戒は、正規職員(組合)の『(内なる)本工主義4)』の打破だった。『常に弱い立場の側につけ!』と言う反差別の思想性が問われる取り組みとなった。先ずは、年休・特別休暇確立、労使交渉の結果、1979年10月に従来の労災保険適用に加え市独自の公務災害補償制度をかち取り臨時、パート職員への運用拡大、制服(作業服)の貸与、そして、最大の課題である『任期の更新』は、実質、非正規職員単独の職場である児童クラブは、カリキュラムの作成から、保育料の徴収までを担い、経験が求められ継続性が 不可欠であることを組合員自らが訴え、『現場任せ』であった教育委員会事務局と現場の定例会議を設けることを申しあわせた。

4) 正規職員の身分・権利擁護を中心にした考え方。

これらの職場改革は、2021年のコロナパンデミックの際、突如の臨時休校措置が決定された際、『行き場を失った子ども達』を現場と学校、市教育委員会の連携でしっかり保育を支え、結果、指導員への評価を高めることに繋がった。また、当該労組は、「会計年度任用職員制度5)」の導入に当たり、自治体の『ご都合主義6)』を打破し、個々の業務評価7)を正規職員同様に行い、「庁内選考8)」を踏まえ任期の更新を図り、「単一給9)」であった賃金制度を経験を加味する経験給(賃金表)制度の導入にこぎつけた。勿論、他の職種にこれら条件が反映されたことは、言うまでもない。余談ながら、以上のような『成果』を上げる一方で、正規職員の組合員からは、『(非正規職員の方ばかりもち)吉田委員長は、何処の組合の委員長か!?』とのやっかみも。これらの指摘に対し、「水は低い方に流れる。賃金・労働条件の『低位平準化』を意図する時代・情勢に打ち勝つ途だ!」と伝えてきた。

また、その効果は、年始の組合主催の旗開きで、手作りおでんを担当する臨職労、お楽しみ抽選会景品を提供する正規職員組合。ひとつ鍋を囲み、わだかまりは、徐々に氷解して行った。今は昔の物語。

5) 地方公務員法の改正により2020年に導入された新たな非常勤職員制度。かつての臨時・非常勤・パート職員は、同制度へ移行。

6) 読んで字のごとく役所側の都合(繁忙期の補助や人件費の圧縮などの目的)をしめす。

7) 会計年度任用職員制度においては、正規職員同様に人事評価が実施され、昇給や雇用延長等の判断に資する。

8) 非常勤職員は、一般的には、任期は一年で、業務上の必要性がある場合、新規公募が通常。尚、業務の連続性や、経験を重視し、人事評価の上で、面接・筆記試験等を実施し、引き続き雇用継続する手段。

9) 従来の非常勤職員は、職種毎に自治体が決めた、単一の時給・日給・月給が支給されて来た。

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