関西支部発

障害年金申請 事例紹介

2023/03/06

 
特定社会保険労務士 小野山 真由美
関西支部通信第38号(23年1月号)より転載

社会保険労務士はどういった仕事と聞かれたとき、「働く」と「働けない」の専門家と表現している。「働けない」ときの障害年金の事例から医療の見解や一人ひとり違った生き様、個人とどう向き合っていくか、まだ申請段階の事例の紹介をする。

1.障害年金の概要

  1. 初診日における年金の加入状況
     初診日が二十歳前なのか、それ以後の場合であれば加入している年金が国民年金か、厚生年金か、そして納付要件が該当するか否か(保険料を納付しているかどうか)が第一関門だ。
  2. 障害の程度
     障害の程度は、大きく分けて三つ。表1にまとめた。厚生年金加入時であれば、3級に該当せずとも障害が残った場合に一時金として受給できる障害手当金もある。
  3. 対象となる主な傷病
     目、耳、肢体、精神、呼吸器、循環器、腎疾患・肝疾患・糖尿病、血液・造血器・その他の障害と、障害年金の申請において医師の診断書の様式は8種類ある。
  4. 障害の認定
     初診日から1年6か月たった日もしくは1年たたずに症状が固定した日が認定日となる。ただし、認定日には切断や透析、ペースメーカーの装着日などの特例もある。

こういった前提のもと、以下事例を紹介していく。

障害の程度 初診日:国民年金(二十歳前障害) 初診日:厚生年金保険に加入
1級 1級の障害基礎年金 1級の障害基礎年金+1級の障害厚生年金
2級 2級の障害基礎年金 2級の障害基礎年金+2級の障害厚生年金
3級 3級の障害厚生年金
3級より軽症 障害手当金(一時金)

2.Aさん50代男性 すべり症

CADを使ったディスクワーク。7年ほど前から腰痛や頸肩腕の痛み。傷病名:すべり症。初診日においては厚生年金だったため、納付要件は問題なし。在職中から腰部脊柱管狭窄症、頚椎症性神経症と診断され、整形外科で薬の服用とリハビリ治療。治療を受けるものの仕事は多忙を極め、休むことも出来ずに悪化。首から肩のしびれに加え、腰部から足にかけても痛みが生じ、車の運転にも支障がでるほどだった。会社は、他社より安く受注し数をこなすことで売上の上昇を試みていたが、会社の業績はコロナ禍で悪化をたどり、Aさんの負担は大きくなるばかり。令和2年8月にはとうとう会社が倒産した。私に相談がきたのは令和4年5月。Aさんの妻が働く職場が私の顧問先で、夫のAさんを扶養に入れる相談から状況を聞いていくうちに「労災?」。しかし労災申請をしようにも会社が存在しない状態。当時のタイムカードも賃金台帳も取り寄せられる状態ではない。「これは障害年金の申請が必要では」と。6月に総合病院での手術を控えていたため、その術後の状態をもって事後重症(注1)で申請するための準備に入った。退院後、診断書を受け取ると記載漏れが多く、付箋をつけてAさん経由で医師に加筆を依頼した。ところが医師がなにを勘違いしたのか「記入しません」と撥ねつけられる始末。そこで1年6か月の認定日に通院していた整形外科に診断書の作成を依頼した。その医師は大変丁寧に記入しており、当時のリハビリ記録からも「仕事はやめたほうがいい」との記録も見つかった。認定日請求と事後重症の二つの診断書をもって年金事務所に申請に行った。年金事務所の窓口ではあまりに抜けの多い診断書を見て、「社労士がサポートしているとは思えない」とまで言われた。総合病院で必要最小限の漏れは加筆で対応してもらえたが、腰痛すべり症の程度を見るための「握力と可動域の数値」の抜けに関しては年金事務所からの再三の依頼も撥ねつけられた。あらたに検査してその数値を教えてほしいという依頼も「検査は不要」という文言のみが返された。検査における数値は認定に必要だが、年金事務所から医療機関への強制力はない。障害年金は最終的には医療的な診断が決め手となる。診断書作成は○○病院の名前でなく医師個人名の診断による。判断の甘い医師、厳しい医師が存在する。数値を基準としながらも「医師の意思」という障壁が立ちはだかる。

3.Bさん 50代女性 潰瘍性大腸炎

Bさんは30代で潰瘍性大腸炎と診断され、40代ではストマ(人工肛門)装着するもこれまで障害年金の申請はしてこなかった。令和4年10月にストマの装着口が化膿する回腸膿炎が悪化し、仕事の継続が困難となり障害年金の申請にふみきった。潰瘍性大腸炎の認定はハードルが高く、ストマ装着で3級。それに伴い人工膀胱や尿路変更術を受けて2級の認定となる。

まずは初診日。Bさんの潰瘍性大腸炎の発症は、妊娠によると推測される。妊娠中に出血し産婦人科からの紹介で総合病院へ転院となったが、現在、産婦人科のカルテはない。潰瘍性大腸炎は免疫疾患であるが、原因を特定することが難しい。妊娠を初診日とすると厚生年金、総合病院の初診となると国民年金の期間となる。

Bさんは、大腸を切除し、繰り返す腸閉塞で小腸も短くなり、食事をとるとそれが水様性便となりストマへ。ストマの装着口が化膿し痛みとかゆみ。肛門は機能が弱りおむつを装着しても粘液性のつよい腸液は吸収せずに漏れていく。腹痛や下痢の辛さは想像できても腸液の流出により、水分が失われ、脱水症状により失神する状態は想像しにくい。病歴申立書を作成するため、Bさんにヒヤリングして原稿に起こしても「全く私の病気を理解していない」と撥ねつけてくる。私は障害年金の基準で求められていることを聞こうとするが、長年病気と付き合いながらも病気のことを他者に話すことがなかったBさんにとって病歴申立書の作成は「怒りを表現する場所」となった。初診日が厚生年金の期間と認定されれば事後重症での認定は確実だが2級の壁は高い。

4.Cさん 20代男性 先天性聴覚障害

私の前職は京都の聾学校の講師。中国残留婦人の孫で聴覚障害をもつ生徒の受け入れのための加配講師だった。彼女が在学中に二十歳を迎え、その障害年金申請にかかわったことが社労士になるきっかけとなった。今回は、卒業生Cさんが聾学校の先生に障害年金の相談をしたことによる。二十歳前障害の場合、二十歳の誕生日前後3か月の医師の診断が必要となる。その診断がない場合は、事後重症扱いとなる。まず確認したのは二十歳前後の医師の診断の有無。残念ながらそれはなく、二十歳前後で就職先の健康診断で聴力の検査があるのではと推測した。そこでCさんの働いている会社に出向き健康診断の結果の提供を依頼して、現在それを待っている。自動車整備工のCさんの働きぶりは真面目で問題はないということだが、聴覚障害者はCさんのみ。手話通訳等の配慮があるわけではない。障害者雇用の枠はあっても賃金体系は一般社員とは違う。社内研修や資格取得で昇給する制度が会社にはあるがCさんは取り組めるのか?
将来を見据えると障害基礎年金の必要性を強く感じる。だがCさんはどこか人任せで、学校がなんとかしてくれるという思いが払拭できず、申請にはまだまだ時間がかかりそうだ。

「働けない」状態となったAさん、Bさんにとっては生きていくための年金であり、若いCさんにとっては安心して「働く」ための支援と言える。
「働く」「働けない」の専門家への道は遠い。


注1)事後重症 障害認定日時点では障害の程度が該当せず、あとから障害年金の申請を行う。この場合申請した月の翌月に受給権が発生する。

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