特集

戦争を防ぐには、「人間中心主義」で、人と接し、それを若者に伝えよう。

2024/02/13

 
会員・長谷川真一(日本ILO協議会理事)

人の世に「紛争」は尽きないが、これが「戦争」になるのをいかに防いでいくのか。科学技術の進歩で核兵器などの大量破壊兵器やAIなどを活用した無人兵器なども出現している現在、これは人類の将来にとって重要な課題である。

「戦争を知らない子供たち」である団塊の世代が後期高齢者になる時代の我が国にとって、次の時代を担う若者たちに「反戦」をどう伝えていくのか。我々は「戦争」というとすぐ「太平洋戦争」を想起するが、今の若者にとっての戦争は「ウクライナ」であり「ガザ」であろう。グローバル化時代には、世界から戦争をなくす、あるいは少なくするために、我々は何をすべきか、若者に何を伝えていくのか、を考えることが必要である。

森下会員紹介の「ひとはなぜ戦争をするのか」(アインシュタイン、フロイト著、講談社学術文庫)は大変参考になる本であるが、このなかでフロイトは「文化の発展を促せば、戦争の終焉に向けて歩みだすことができる」と書いている。「文化の発展」とは何か?何が大切なのか。

人間は「力(マハト)」を求める。政治的権力、経済的富、社会的名誉などを追求する。これは「生きる」ことの本質でもあり、なくすことはできない。また人間は「正当性」を愛する本能もあるので、自分が「力」を求めることは「正義」であると信じようとする。これが分断や格差、支配と服従の構造を生み、しばしば紛争を生み出し、戦争につながることになる。

フロイトも書いているが、暴力なしに社会を一つにまとめるには、メンバーの間の感情の結びつき、一体感が必要であり、これを表現する理想や理念が必要である。私は、これからの世界にとってこの理念とは「人間中心主義」、すなわち多様な思想・立場の違いのある人であっても、一人ひとりのいのち、くらし、尊厳を等しく大切にする考えではないか、と思う。

ただ、この理念で世界の人びとの結びつきができているかというと、はるかに道は遠い。

人間の長い歴史のなかで、奴隷制廃止など進歩があることは事実であるが、世界にはまだ差別や人間の軽重をつける考えが少なくないことも事実である。「劣等民族には存在価値がない」としたナチスは滅亡したが、他の宗教を信じる人々は滅ぼしてもいいと考える原理主義はまだまだ存在する。多様性を欠く画一化された価値観は大変危険であり、それが果ては他の国や民族、文化の消滅や衰退を目指す戦争を招いている。

一神教が原理主義を生みやすいことは事実であろう。しかし、キリスト教を例にとると、歴史的にはスペインがインカ帝国を消滅させたなどの例もあるが、時代とともに寛容の精神も進んできている。

日本は多神教の国であり、また仏教は「多様な文化に対する並はずれた適応能力」がある融合的性格を持った宗教なので、原理主義が生まれにくいと考えられるが、廃仏毀釈や八紘一宇の歴史もあるのでこれからも注意が必要であろう。

また日本の場合、メンバー間の平等意識は強いが、伝統的に村落のウチソト意識があり、ソトへの関心が薄い。若者が世界に出て、外国人と接触して現地や現場で国際社会の考えを知るとともに交流を深めることがますます重要となる。若者のこうした活動を大いに推奨、支援したい。

以前私が、労務のベテランの方からいただいた忠告がある。「仕事をする時に自分の考えが100%正しいと思って相手に話してはいけない。説得しようとする相手の考えも5%か10%かは正しいところがあると思って対話することが大事である。それが「労務」の心である」。このような姿勢、対話の精神が広がることがフロイトの言う「文化の発展」であろう。労ペンには労使関係で仕事をした人が多いが、こうした姿勢で、多様な考えを持つ人々と積極的に接触していくことを若者に伝えていくことも大切で、それが誤解や無用な紛争、ひいては戦争の防止につながると思う。

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