特集

戦争について冷徹に考える

2024/11/11

 
会員・浅井茂利

東西冷戦の終結によって旧ソ連はロシア連邦として民主化され、中国は一党独裁こそ続いているものの、経済が発展し、生活が豊かになることで自由化・民主化が進むものと想定されていました。しかしながらこれらの国々は、経済が発展し、自由にして民主的な国々による支援の必要がなくなると、強権政治、人権抑圧が顕著となっています。自由にして民主的な国々にとっては、ヒトラーに対する宥和政策が結局その増長を招いたことの再来となります。これらの国々は対外的にも、軍事侵攻を行ったり、途上国を借金漬けにし、強権政治家を支援して影響力を強めたりしています。専制体制の政府に「公正と信義」を求め、「信頼」することなどできないし、その国民に体制転換を期待することもできません。

2018年10月、米国・ペンス副大統領によって宣言された「新冷戦」は、単なる貿易戦争や覇権争いではなく、中国による米国内での人権侵害、表現の自由や学問の自由の侵害、知的財産権の侵害などが契機となっていますので、自由にして民主的な側にとって、妥協はあり得ないことになります。

専制体制側の動きの背景には、自由にして民主的な体制の弱体化があります。トランプ前大統領は同盟関係を傷つけていましたが、その当選自体、自由にして民主的な体制の弱体化を示しており、英国のEU脱退とその後の混乱、欧州での極右勢力の伸長などとともに、専制体制側に付け入る隙を与えることになりました。日本でも、政治資金不正問題の拡大や、反科学的な勢力が一定の支持を集めているなど、他人事ではありません。

もともと米国には、専制体制側を交渉に引き出すためだけに譲歩する「くせ」があったので、彼らは何も譲歩せず、会議に臨むだけで利益を得ることができました。とりわけ民主党は伝統的に安全保障政策に疎く、クリントン政権では4年間、オバマ政権では6年半、共和党の人材が国防長官を務めてきました。ブリンケン国務長官は2021年3月、バイデン政権のメンバーの多くがオバマ大統領に仕えていたが、オバマ政権とは戦略とアプローチが異なる、と述べていますが、アフガニスタンからの撤退の状況などを見て、専制体制側がバイデン政権与やすし、と判断した可能性はあると思います。

日本として何より大事なのは、

  1. 日本が侵略されない。
  2. 日本が侵略しない。
  3. 日本において、自由にして民主的な体制を維持する。

ということだと思います。

専制体制側は、相手が毅然としていれば柔軟に対応し、弱腰であれば嵩に懸かって攻め立ててくる傾向がありますので、日本が侵略されないためには、防衛力を強化し、抑止力を高めていく以外に道はありません。

一方で、わが国がかつて東アジア・東南アジア地域で侵略を行ったことは、永遠にこれを戒めとしていかなければなりません。とくに、政党間の激しい抗争が陸軍の暴走を招き寄せたこと、このためわが国が専制体制の側に立つことになったこと、報道機関や多くの国民がこれを支持していたこと、近年も、外国人技能実習生に対する人権侵害が著しく、国際的な批判を浴びていること、などをけっして忘れてはなりません。

なお、専制体制側への抑止力として防衛力を強化すると、彼らは日本が侵略を意図しているとして、日本への侵略の口実とする危険性があります。これを避けるためには、防衛力強化はあくまで自由にして民主的な国々との同盟の強化によらなければなりません。主要な兵器についても自主開発は行わず、共同開発に徹すべきだと思います。日本の一部には、米国から距離を置こうとする考えもあるようですが、独自路線は結局、専制体制側を利して事実上その共犯者となるか、日本侵略の口実を与えるかのどちらかになります。日本が侵略されず、侵略せず、自由にして民主的な体制を維持するためには、つねに米国や西欧の良識ある人々とともにあることが不可欠です。

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