特集

平和を実現する民意の結集に向けて、労働組合は先頭に立て!

2024/11/25

 
代表代理・西澤昇治郎

母への思いと不戦の決意

戦後生まれ(昭和21年)の小生は、当然のことながら戦争体験はないが、戦禍の一つと捉えていたのが肉親の死であった。

1953年(巳年)、七草が過ぎ、冬休みボケもまだ残る1月12日(月)の昼頃、埼玉県の片田舎にある保育園の年長組であった小生は、保母さんの漕ぐ自転車の荷台に乗せられ帰宅した。享年43歳、父親が亡くなった日である。死因は病死(肺炎の合併症?)というが確証はもっていない。

当時の我が家の生業は農業で、主な収入源は養蚕であった。しかし、除隊後の父は、病弱となり寝たり起きたりの生活で、農作業は母と祖父母が担っていた。そのためか、両親に遊んでもらった記憶は残っていない。そして、父の死後、母はまさに孤軍奮闘、舅(姑)に気遣いながら朝早くから夜遅くまで懸命に働いていた。その姿に、自立心と忍耐力の必要性を子供ながらに自覚したようである。

一方、男勝りの気丈な母であったが、夫(父)の除隊理由や病気との因果関係、また、自宅での日常や地域との関りなどについては、一切語ることなく小生も尋ねた記憶はない。触れること自体がタブーであった気がする。

なぜだろう。終戦から7年、サンフランシスコ平和条約の発効により日本の主権が回復し、自立への歩みを着実に進めていた時代である。しかし、小さな田舎町では、既に廃止(昭和22年)されていた行政の銃後組織であった隣組制度の呪縛は根強く、いわゆる非国民という言葉や偏見も残っていた。また、趣旨は違うが村八分という仲間外れの掟も存在した。それ故に頑なに口を閉じざるを得なかったのか。或いは、国(軍)や社会の仕打ちに対する無言の抗議であったのか。その真意は最後まで聞くことはできなかった。

しかし、人間の歴史は戦争の歴史でもあるというが、太平洋戦争の戦禍の片隅で一人の除隊兵の死があった。同じような境遇で苦しんでいた人々は全国各地にたくさんいたはずであるが、その実態は明らかになっていない。

この傷跡を深く胸にしまい込んだまま生涯を閉じた母の墓前に立つ度に、遣る瀬無さが募るとともに、不戦の決意を新たにするところである。

こうした幼少期の体験をへて成長した小生は、企業に就職したものの、縁あって労働運動(組合活動や労組生産性運動)に40年余にわたり携わってきた。その立場から平和を希求する道について考えてみたい。

労働運動の原点に立った「力と政策」の再構築を

戦後の労働運動は、総評と同盟を中心とした運動路線の対立を克服し、政策推進労組会議の結成、全民労協の発足などを経て、1989年にナショナルセンター・日本労働組合総連合(連合)が発足し今日に至っている。

この連合綱領の1項には、「~自由にして民主的な労働運動の伝統を継承し、この理念の上に立って労働者の結集をはかり、労働運動の発展を期す」とある。その基軸となる民主的労働運動(労働組合主義)の理念は、4つの民主主義を基本とする。すなわち、①組合民主主義、②産業民主主義、③議会制民主主義、④国際民主主義の推進を中心に据えている。また、3項では「~あくことなくよりよい未来に希望を持ち、国民の先頭に立ち、自由、平等、公平で平和な社会を建設する」、さらに5項では「~日本労働運動の国際的責任を深く自覚し、世界平和の達成と諸国民の共存共栄のために努力する」と定めている。

連合結成から35年、この崇高な目的の要となる「誰もが安心して働き安全に暮らせる自由・平等・公平な社会の実現」はできたのだろうか。とてもイエスとは言えない。一方、この間で小生が最も強いインパクトを受けたのは、連合結成から10年が経過し、この運動を評価する外部有識者による「連合評価委員会」の最終報告(2003年9月)である。この報告書は、危機の現状分析を踏まえ、21世紀の労働運動としては、①高い"志"、不公正や不条理なものへの抵抗力、それを正すための具体的運動と闘う姿勢 ②労働者の自立と自律、そして連帯へ、さらに、働く者の意識改革や企業別組合主義からの脱却など、改革に向けての視点と方向性、改革の課題・目標が具体的に提起されており、その実践に向けた役割と責任の重さに身の引き締まる思いであった。

しかし、この報告からも既に20年が経過した。残念ながら提言内容に対する実行プランと実践力は不十分で、未だに組織率の低下傾向に歯止めがかからず、格差の拡大や貧困の増加など未来に希望が持てない現状は、「力と政策」を備えた運動体として機能しているとは言い難いところである。

労働組合は、弱い者としての人間が団結・連帯する組織である。いま一度原点に立ち返り、組合綱領とともにこの報告書の重みを連合はもとより産別・単組など構成組織の全員が再認識し、弱い立場の人々から頼りにされ、広く国民の共感を得られる運動体へと脱皮するため、組織・意識改革の推進に持てる全て力を結集すべきである。

平和とは、「戦争だけでなく、貧困や経済格差による構造的な暴力がなくなった状態」である。これを実現する最大の力は、民主主義の深化と国家の主権と国民の生命・財産を守り抜く、強い決意と覚悟を持った民意の結集である。その先頭に労働組合が立つことを願って止まない。

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