2024/12/09
匿名希望
人は命の大切さを訴え平和の実現を望む。しかしながら、歴史が物語るように、宗教や民族の違い、異なる思想・文化への無理解、国益確保など、その時々の情勢によって、人は戦争へと突き進んでしまう。悲惨なことに、争いを望まなくても、自国の利益や自己の思いに反する行動を受けると、怒りや憎しみが募り、時として暴力のスパイラルが生じ助長されていく。理屈では大義や正義のためと言っても、利害の対立等から自己を正当化し一方的に相手を悪と決めつけ、争いが誘発されてしまう。戦争には、そんな人間の醜さが伏在すると考える。
いま、その戦争において非人道的な恐怖が高まりつつある。火薬や核兵器に次ぐ、第三の兵器革命と指摘される人工知能が軍事分野にも浸透し、人間の判断を介さずに殺傷する自律型兵器の開発や使用が進んでいることだ。ニュースやネットでは、AI搭載のドローンが標的を攻撃する映像が流れるようになった。「機械が自律的に人間を標的にすることは、道徳上越えてはならない一線」と、2024年3月にジュネーブで開催された国際会議において、国連軍縮部門のトップは訴えている。安全保障のための抑止力として、こうした兵器の存在を否定できないのであれば、各国が協調のもと議論を尽くし、自律型兵器の開発・使用に関する規制や規範を早急に設ける必要がある。
さらに、世界情勢に目を向けると、ポピュリズムや社会の分断が広がり、国際秩序の維持が憂慮されている。こうした状況下で、深刻化する紛争の一日も早い終結にくわえ、新たな衝突の回避が問われていることは言うまでもない。わが国でも、地政学的な緊張が高まり、迫る脅威への対応が急がれる。抑止力の強化は喫緊の課題と考えるが、過度の軍備拡張につながるリスクは否定できず慎重な検討が求められるところだ。重要なのは、抑止力だけに頼るのではなく、国家間の相互不信を取り除くために外交を通じた対話を進めることであろう。抱える問題が多いほど国家リーダー間の対話の重要性は増す。とりわけ、リーダーに強い権力がある権威主義国家とは対話を進めたい。
少々話が脇道にそれるが、国家間の分断に留まらず、クローズアップされるAIなどデジタル技術の運用に伴う規範・ルールの制定や、環境問題をはじめとした地球規模の課題の解決にむけても、国家間の対話を重ねる必要がある。民主主義国家の内でも、貧富の格差や宗教、人種問題などで世論が分裂し、深刻な分断につながるリスクが高まっている。言及するまでもなく、民主主義では選挙を公正に行い、議会での対話を通して問題解決を図るのが基本であり、こうした国でも対話の必要性は増す。
分断や対立が進むと、冒頭でふれた人間の醜さもあってか、一方を支援し、もう一方を批判する言説が生まれ、その影響が広がりやすくなる。当事者でなくても知らぬ間に対立構造に入り込んでしまわないよう、傍観せずに己の考えや議論を検証し、その質を高める努力を怠ってはならない。その際、良質の情報を選択し、世の中の流れに惑わされず主体的に考えることが欠かせないであろう。こうした行為が、対立する其々の相違点や異質性について理解を深め、対立の影響を広げることなく、時には当事者をも巻き込みながら、解決にむけた話し合いを進めていく条件の一つと言える。
先のパンデミックを経験し、対話・交流の重要性を痛感した。戦争や紛争のない未来にむけ、国家間をはじめ様々なレベルでの対話を求めたい。