労ペン賞

2021年度日本労働ペンクラブ賞は「グローバル連帯落穂拾い」(小島会員)「『対案力養成講座』」(師岡会員)の2作品に授賞しました!

2022/04/11

 

2022年総会での労ペン賞授賞本記

2022年1月13日に開催された日本労働ペンクラブ総会で、2021年度(第41回)の日本労働ペンクラブ賞について、小島正剛会員の「グローバル連帯落穂拾いー現在と過去との対話―」と、師岡武男会員の「『対案力養成講座』―新自由主義を論破する経済政策」の2作品に授賞することを決めました。総会では、労ペン賞選考委員会の小林良暢・選考委員長が選考経過を報告、満場一致で承認されました。小島会員、師岡会員とも高齢で出席できなかったため、表彰状、記念トロフィーを贈る第2部の式典では、山田代表から同委員会のメンバーで、担当幹事の保高睦美さんと、同じく担当幹事の首藤由之さんが受け取りました。

昨年10月15日に締め切った応募期間中に、この2作品の応募があり、10月28日、12月2日の2回にわたって開かれた労ペン賞選考委員会で審査の結果、小島会員、師岡会員にそれぞれ本賞を授賞することが決まり、12月9日の幹事会に報告。全員一致で承認を得ていました。

小島会員(会員番号231)は、1935年6月生まれの86歳、師岡会員(会員番号41)は、1926年生まれ。高齢での健筆と偉業の達成に会場からも賞賛の拍手が送られました。総会当日は、両受賞者とも出席できなかったため、後日、トロフィーと賞状をお送りしたところ、「大変、うれしい」「心から感謝申し上げる」というお返事をいただきました。

総会に欠席された師岡、小島両会員に代わって表彰状を受け取り保高幹事総会に欠席された師岡、小島両会員に代わって表彰状を受け取る保高幹事

同首藤幹事同首藤幹事

労ペン賞選考委員会の小林委員長による報告

小島正剛「グローバル連帯 落穂ひろい」(コンポーズユニ 2021.2)

「新自由主義の蔓延が国際労働運動に大きな障壁を生み出しているなかで、世界の労働問題に啓蒙的な役割を果たすよう好書で、労ペン賞を授与するにふさわしい」

[各委員の言葉]

この著作は、1988年から2020年までの32年間にわたるグローバル化の中で、金属労協の機関紙「JCM」に連載し続けたコロムをまとめて上梓したものである。

ここで主として明らかにした課題は、世界はカオス状態だ。なかでも国際労働運動の場面においては、共に連帯する日本の組合活動家の諸氏に、新たなパラダイムを求めて苦闘する様が活写されている。

40年以上にわたって国際労働運動の中で重要な役割を果たしてきた著者が、機関誌「JCM」への連載を通じてワールドナウなテーマを、40年にわたって各時代、各地域における労働組合運動の動向について時代を追って整理されている。
世界大戦後、労働者階級の地位向上と企業の公正競争を求めて、自由で民主的な労働運動を進める活動は、ILOの活動と相まって大きな進歩を遂げてきた。だが一方で、特に近年はグローバリズム、多国籍企業の増大や新自由主義の蔓延により、国際労働運動の障壁を生み出している実態も明らかにしている。この中で、国際労働運動のさらなる強化が求められており、そのために本書が多くの経験と示唆を与える好書といえよう。

ただ、最近はEUのような国家の枠を超える連帯が進む一方で、英国の離脱や東欧諸国の反発の動きもあり、他方米国のトランプ大統領のアメリカンファーストによる国際分断や民主・共和両党による国内の根深い分断など、あらゆる地域で人種の分断が深刻化している。
また、世界の国々や地域を見ると、ミャンマーなどでの軍国主義独裁、アフガニスタン(クリバン)などにみられる民族主義による独裁、中近東諸国などの宗教的独裁、国家資本主義・事独裁政権の出現、あるいは思想・人権を脅かす時代が進む中で、労働ペンクラブ賞規定の2項の③の「労働等の問題に啓蒙的な役割りを十分果たしたもの」にあたるとして、労ペン賞を授与するにふさわしい著作である。


師岡武男『「対案力」養成講座一新自由主義を論被する経済政策』(・・・・・)

「企業本位に偏るアベノミックスに、生活の向上に資する財政政策の発動を提言、且つ労働組合とジャーナリストもそのあり方を問う労作で、労働ペンクラブ賞に相応しい。」

[各委員の言葉]

「失われた20年」とも言われる日本経済の実態に明らかにし、デフレ経済、低成長、労働分配率の低下、格差拡大、貧困の深刻化などの問題に迫る著作である。そこで必要な政策として、著者が一貫して主張しているのは、思い切った国債の発行による需要の喚起、賃金のアップ、社会保障や福祉の充実、弱者・貧困層の救済対策などに国費を投入するなど「大きな政府」の必要性である。
しかし、安倍政権は耳当たりのいいスローガンとして、異次元の金融緩和と保護税制の廃止、行革、消費増税などを掲げて、世界で一番企業が活動しやすい国にすると言うが、結局アべノミックスによってはデフレ脱却、GDPと賃金の上昇は成らず、金融緩和による株高と一部金融資産家の繁栄のみに終わった。

著者の焦点は、アベノミクス以降の経済政策、社会政策、労働問題について、企業本位の「新自由主義」色に偏り過ぎており、これに対しては具体的な「対案力」をもって論破していくしかないという。それには国民生活の実質的向上のための政策を基本に置く財政の発動こそが必要で、これが政策の王道だと提言する。
労働運動についても、資本主義の行き詰まり論の台頭に対して、その修正策をかかげて組織された民衆の団結の力を示すという「歴史的使命」に強く期待している。

しかし豊かさの一つの指標となる一人当たりGDPは、2019年に世界191ヵ国中の33位、すでに台湾、韓国にも追い抜かれている。賃上げは、実質賃金は下がり続けでおり、しかも貧富の格差が拡大、貧困者や困窮者が増加して、そこへコロナ禍に襲われ、積年の悪政のツケが一挙に湧き上がっている。この惨状を克服するには、政治や労働運動などからの有効な対案とパワーの強化が必要不可欠であると結ぶ。 労ペンの大先輩で著者が、以上のような大きな課題に挑戦している労作で、労働ペンクラブ賞に相応しい。

労ペン賞の授賞報告をする小林委員長労ペン賞の授賞報告をする小林委員長

授賞者した著者の自著紹介

「『対案力』養成講座―新自由主義を論破する経済政策」(言視舎)について

師岡武男会員著

日本経済、このままじゃどうしようもないな、という思いで対案の勧めを書いてみました。国家目標を、豊かな福祉社会づくりとして掲げ、それには大きな政府による積極財政が必要だ、というのが、この本の柱です。国民生活世論調査などによっても、この目標は多くの国民の願いだと思いますが、この20年余り、実現に向かって前進できないどころか、後退しています。

豊かさの一つの指標となるGDP(一人当たり)の国際比較は、じりじりと順位を下げ、2019年は191か国中33位(IMF)、すでに台湾、韓国にも追い越されました。賃上げは物価上昇率以下のため、実質賃金は下がり続けでいます。しかも貧富の格差が拡大して、貧困者や困窮者が増加しています。そこへコロナ禍です。積年の悪政のツケが一挙に回ってきました。ジリ貧からドカ貧への転落が心配です。

この惨状を克服するには、政治や労働運動などからの有効な対案とパワーの強化が必要不可欠です。労ペンの皆さんも、対案を考えてみてください。そして、政治や労働運動を励ましてください。

この本では、大きな政府のために必要な財源作りの問題に重点をおきました。豊かな経済とは、国民の生活に必要なモノ(財・サービス)を十分につくり、十分に活用することですが、そのために必要なカネは、政府がいくらでもつくり出せるということを説明しました。財政危機論は嘘のかたまりなのです。

賃金を増やすには、労働運動の力や労働保護行政が必要ですが、それは今更言うまでもないことでしょう。


『グローバル連帯落穂拾い-現在と過去との対話-』(コンポーズユニ)

小島正剛著

本書は、B5版横組み二段打ち、250ページの小冊子である。国際金属労連(IMF)在職時代の後期から近年までの、たかだか40年余のスパンの中で、金属労協『JCM』誌を中心に寄稿した報告、エッセイ、小論のなかから数十篇を拾い集め、時系列で編纂したもの。書名はその過程で浮上した。

収録した寄稿文は、職場の活動家諸氏を対象に、国際連帯行動の現場や、訪れた諸国の人権・労働情勢を伝え、国際問題への関心を掘り起こすことを念頭に置いていた。とはいえ、国別の動静では訪問した60数ヵ国の半分も収録しきれていない。

おのずから、どの項目も独立し完了しているが、完結はしていないので、拾い読みができる。また最後部には、労働運動に生涯を捧げ、惜しまれつつ逝った海外の知人、友人への追想録も収めた。かれらの足跡が活動家諸氏への刺激ともなればとの思いもある。

本書発刊の趣旨はといえば、経済グローバル化の負の局面をさらに明らかにしたパンデミックのもと、世界はカオス状態。いまこそ国際労働運動の神髄が発揮されねばならない。共に連帯する日本の組合活動家諸氏も、新たなパラダイムを求めて苦闘するとき、過去の運動を再検討し、次なるステージへと進む上で、本書がささやかなヒントともなればという期待感からの発信である。
それを意図しての副題―現在と過去との対話―であった。「歴史とは現在と過去との尽きせぬ対話である」とした歴史学者E・H・カーからの借用である。

その流れの中で、表紙にみる横書きの副題-現在と過去との対話―の右下には、What Next?と薄く添えてある。デザイン担当氏の着想で、浮世絵の秘める暗号を意識してのことだという。著者の思いをさりげなく表現していただいた。

総会宛てメッセージ

2021年度日本労働ペンクラブ賞受賞に際して 小島 正剛会員からの特別メッセージ

事務局から受賞決定のメールをいただいたとき、思わずわが目を疑っていました。この度の拙著は、複数の応募作に列する一冊として記録されればそれでよしとの思いでいたからです。

日本労働ペンクラブ創立40周年の年の賞を受賞することは、大きな名誉であり、喜びであります。そのような時、総会欠席は、はなはだ不本意で悔やまれますが、右足のリハビリに努めている次第ですので、平にご容赦ください。

拙著につきましては、すでに『労働ペン』紙No.208(2021年5月25日発行)の「著者からの紹介」欄に書かせていただいたところです。とはいえ、この場にあってはもう一度、若干でも触れさせていただくのが礼儀かと考えました。

まず、拙著の全体構成ですが、小生が国際金属労連(IMF)勤務の現役時代後半期から近年に至る、たかだか40年ほどのスパンの中で、内外業務の合間に数誌に寄稿してきた報告、エッセイ、小論など約600編のなかから、60数編を拾い集め、時系列で編纂したものです。書名の「落穂拾い」はそこから浮上しました。各項目のトピックスは、労働組合の多様な国際連帯行動の現場をはじめ、南アフリカなど訪れた諸国の人権、労働組合基本権、労働法制、労働情勢の動向などに関するもので、主として職場活動家諸氏を中心に広くお伝えすることを意図していました。それでも紙幅の都合でカバー出来たのは訪れた60を超える国々の半数にも足りません。ただし、2009年、第13次労ペン訪中団に参加した折の現地印象記は収録してあります。

次に、拙著発刊の趣旨についてです。指摘するまでもなく、世界は諸々の要因でカオスの状況にあります。しかも労働の世界には第4次産業革命のインパクトが波及しています。いまこそ地道な国際労働運動はその神髄を発揮する時との思いがありました。なにしろ、程度に差はあれ労働組合基本権である組合組織化を抑制する国は、世界全体の70%を超え、団体交渉を規制する国に至っては80%にものぼる昨今です。運動を取り巻く環境は厳しさを増しています。国際的に連帯する日本の組合活動家諸氏も、新たなパラダイムを求めてともに苦闘するとき、過去の運動の在りようを冷静に再検討し、次なるステージへと展開する上で、拙著もそのささやかなヒントの一つともなれば、との思いからの発刊でありました。それを意図しての副題「現在と過去との対話」です。そこには目立たぬようWhat Next?と添えてあります。

なにやら、くだんの『労働ペン』紙・紹介欄の「蒸し返し」の様になました。これ以上貴重な総会の時間を費やすことは本意ではありません。

ここに、山田代表をはじめ三役・幹事会のみなさん、選考委員会のみなさん、そして総会ご出席のすべての会員のみなさんに、心からの敬意と謝意とを記して、メッセージとさせていただきます。 誠にありがとうございました。

総会のご成功を祈念しつつ。

(2021年1月13日)

  
 

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