労ペン賞

労ペン賞応募作①

2019/11/18

 

2019年度労ペン賞は、1982年に労ペン賞がスタートして以来、最多と見られる計7件のご応募をいただきました。現在、労ペン賞選考委員会(小林良暢委員長)で、慎重に審査を続けていますが、今回は、自薦の弁、他薦の弁を合わせて、応募作をご紹介いたします。

〖推薦者・大沢賢会員による推薦文〗 『働き方改革』の嘘(集英社新書)

東京新聞・中日新聞編集委員 久原 穏(くはら・やすし)著

安倍晋三内閣が2018年通常国会で成立させた「働き方改革関連法」は、19年4月から一部が施行された。時間外労働(残業)に対して罰則つき上限規制を導入し、正社員と非正規雇用者との「不合理な待遇差禁止」を目指す同一労働・同一賃金制度も創設。さらに高額所得・専門職種者を対象に労働規制の対象外とする「高度プロフェッショナル制度」の導入も決まった。
本書はこうした政府主導の一連の改革に対して、事実(ファクトあるいはエビデンス)を突き付けて、美辞麗句の下に隠されている実態を暴き、本当に働く者のための改革なのかと疑問を呈している。
例えば長時間労働は働く者が「だらだら仕事をしている」、「生産性が低い」ことが原因という説に対して、「顧客(消費者)対応のため」とか「業務量が多い」、「人員不足」という厚生労働省調査をもとに反論。長時間労働の発生理由は労働者側にあるのではなく、経営者側にあると指摘する。
待遇格差是正のための同一賃金も、欧州での実例―非正規の賃金は正社員の8割程度という水準を取り上げ、低すぎる日本の非正規雇用者の賃金を改善することは喫緊の課題だが、正社員の賃金引き下げにならないかと懸念を示す。

著者は長年、安倍内閣の労働改革を見つめてきた元論説委員(現・編集委員)。今回の改革が産業界のかねてからの念願であり、それは1995年の旧日経連(現経団連)の「新時代の日本的経営」に源流があること、そしてアベノミクス3本柱の一つ成長戦略で「世界で一番企業が活躍しやすい国」を造ることを目指し、そのために「働かせ方改革」が必要になった、と厳しく論断している。

経済のグローバル化とデジタル化、そして人口減少・高齢化の進展とともに、日本人の働き方を見直す動きはますます強まっていく。働く者が満足のいく勤労生活を送り、幸せな人生を全うできるようにすることこそ、働き方改革の本質ではないかー。本書はそうした根本課題に対して冷静な視点を提供してくれる。

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〖自薦〗 「平成『春闘』史――未来の職場のために、歴史に学ぶ」(産労総合研究所出版部、経営書院)

労働政策研究・研修機構リサーチフェロー   荻野登著

バブルの絶頂期に始まった「平成」は、30年の経過とともに経済低迷の色を濃くした。 
この間、わが国労働運動の金看板ともいえる「春闘」は大きな変化の波に洗われた。バブル経済の崩壊後、多くの金融機関が経営危機に直面した。その後、世紀の変わり目にはグローバル化の風圧が強まり、「春闘」はこの後、超円高、ITバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災など、さまざまな社会経済の激変によって揺さぶられ続けた。

1955年に始まった「春闘」は、通常、西暦が冠されることが多いので、元号が本書のタイトルに含まれていることに、違和感を持たれる読者もいることだろう。しかし、平成の始まりである1989年は、東西冷戦構造の崩壊という世界史的出来事があっただけでなく、わが国労働運動史上、労働界が再編され日本労働組合総連合会(連合)の発足した年でもあった。 
「平成」のスタートは世界史な大きなターニングポイントとも重なっており、その直後に「バブル崩壊」という未曽有の経済危機が待ち受けていた。

本書は、主にこの「平成」の始まりから終わりに至る30年間、様々な変化や危機に直面した労使がどのように対応してきたかを「春闘」を軸にたどる。そのため、あえて「平成」を表題の中に入れた。

21世紀に入ってからの各年の春闘をまとめた原稿を加筆・修正したものが、本書のベースとなっている。2001年以降、産労総研発行の『賃金・労働条件総覧』で、各年の春闘における労使交渉の課題・争点を執筆し、大手の回答が出そろった4月には同発行の『賃金事情』でその結果とポイントを「春闘レポート」として公表してきた。1990年代については、著者が日本労働研究機構のころにまとめた資料をベースにしている。

1990年代に入り、ストが減り、賃上げも低迷する中、世間の関心が遠のき、労働運動の動向や歴史をまとめた資料・書籍が極めて少なくなった。本書の期待は、その隙間の幾ばくかを埋めることでもある。

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