2025/03/31
日本労働ペンクラブ(以下、労ペン)は、主要な活動として有識者、労使団体、行政機関等からの見解等の聴取(ヒアリング)がある。その代表的な一つが毎年行っている春季生活闘争(以下春闘)へのヒアリングであり、2025年は別表のとおり2月17日~3月5日にかけて12団体へ、対面方式(経団連はオンライン)により実施し、延べ労ペン会員241名(前年比24名増)が参加した。
以下は、そのヒアリングにおける今春闘に対する基本スタンスや方針等の概要と、その後に示された先行組合の回答状況及び今後の課題を取り纏めたものである。
ヒアリング概要
連合方針(連合白書抜粋)
連合は、2025春闘のメインスローガンを、2023で"転換点"をつくり、2024では"ステージ転換"に向けた大きな一歩を踏み出したとの認識の下に、「みんなでつくろう!賃上げがあたりまえの社会」とした。そして、その意義と基本スタンスを「慢性デフレに終止符を打ち、動き始めた賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せ、すべての働く人の持続的な生活向上をはかり、新たなステージをわが国に定着させる」ことをめざす。具体的には、各産業の「底上げ」「格差是正」「底支え」の取り組み強化を促す観点から、全体の賃上げの目安は、賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上とする。また、規模間・雇用形態間の格差是正に向けた具体的な水準、底支えとして、企業内のすべての労働者を対象に協定を締結する水準の提示など、取り組み方針と要求目標の目安等が説明された。
経団連の基本スタンス(経営労働政策特別委員会報告⦅以下経労委報告⦆抜粋)
経団連は、経労委報告2025年版で、タイトルを「付加価値最大化」と「人への投資」の好循環の加速―「賃金・処遇決定の大原則」の徹底―として、経営側の基本スタンスを示した。そして、賃金引き上げの検討に際しては、2023・24年と続いてきた賃金引き上げの力強いモメンタムをわが国に定着させる分水嶺と位置付け、「デフレからの完全脱却」実現のラストチャンスとの共通認識の下、物価動向を重視した検討に加え「人への投資」の重要性をより意識した対応が求められている。こうした「社会性の視座」に立って、「賃金・処遇決定の大原則」に則りながら、多様な方法・選択肢による適切な賃金引上げ方法を見出し、実行する必要がある。等の考え方が説明された。
各産別方針(各産別代表の挨拶や基本スタンス等より)
各産別のトップから、「実質賃金の上昇を定着させ、"生活の向上"の実感めざす」、「賃上げを中小企業や地方へ波及させる」、「格差拡大に歯止めをかける取り組みを強化する」「価格転換を進め、持続可能なものづくりの実現をめざす」、「積極的な人への投資により継続的に実質賃金を向上させ、好循環の実現を確かなものとする」等々、それぞれ今春闘の位置づけや取り組みの基本スタンスとともに、組合員の熱い期待と社会的運動の重要性を踏まえ、要求実現に向けた強い決意が表明された。一方では、企業業績のバラツキや国際情勢など先行きの不透明感の増大による影響など交渉への懸念も披瀝された。また、担当者より産業・企業の業績動向や産別運動の経過と実績等を踏まえた、具体的要求内容や取り組みの進め方などが説明された。
質疑を通じた今次春闘の焦点
各団体よりのこれら説明受け、労ペン会員からは「要求の水準や要求方式(平均・個別)のあり方」、「産別統一闘争による相場形成と波及効果」、「格差是正に向けた具体的取り組み(価格転嫁・適正取引等含む)」「初任給の引上げと賃金カーブ問題」、「配分交渉の実態と産別の関与」、「要求実現への見通し」、「生産性の向上と働き方改革の課題」など多面的な質問が行われた。これに対し、それぞれ丁寧な見解や課題認識が示され、現状に対する理解を深めた。同時に、これらの質疑を通じ、今次春闘の意義とその焦点が、①2023・24の賃上げの勢い(モメンタム)を維持し、実質賃金の上昇を定着させられるか、②大手と中小企業の格差是正(拡大に歯止め)をはかれるか否かにあり、その実現に向けた産別のリーダーシップの発揮を強く求めたところである。
先行組合の交渉結果と今後の課題(考察)
先行組合の交渉結果(連合第1次回答集計・3月14日)
既にマスコミ等で報道されているが、12日~13日に行われた集中回答の結果は、産業による違いはあるものの、満額回答をはじめ前年に続いて高水準を維持し、めざす賃上げの定着(賃上げがあたりまえの社会の実現)は、引き続き前進していると言える。
連合が公表した3月14日の第1次回答集計によると、平均賃上げ率は5.46%・17,828円(前年同時期比0.18ポイント・1,359円増)で前年同時期を上回った。300人未満の中小組合は5.09%・14,320円(同0.67ポイント・2,408円増)で、同様に前年を上回るとともに、5%を超えるのは1992年(5.10%)以来33年ぶりの水準となった。また、賃上げ分は3.84%・12,571円(同0.14ポイント・1064円増)で集計を開始した2015年以降で最も高くなった。
今後の課題(考察)
今次第1次集計、とりわけ中小組合の賃上げは、水準は大手に及ばないものの改善度合いは大きくなっている。その背景には、組合の格差是正を含む賃上げへの積極的な取り組みや粘り強い交渉とともに、大手企業に比べ収益面での余裕はないが、人手不足感や人材確保の必要性が大きく働いていることは確かである。その結果、防衛的な感も否めないが、中小企業も高い賃上げが必要との社会的な流れは、着実に大きくなっていると言える。 これらの結果を見る限り、最終的にも昨年を上回る水準が期待できるが、それは、この流れをこれから交渉が本格化する中小組合はもとより、社会全体へと波及することができるかにかかっている。それだけに、労務費を含む適切な価格転嫁・適正な取引の実現による原資の確保が不可欠であり、連合・産別・地方組織が力を合わせて、これらの交渉環境を整える等の支援を一層強化していかなければならない。それがすべての働く者が力を合わせて、「人への投資」を軸に産業・企業の発展と経済の成長に繋げる好循環の実現へと、ステージを転換・定着させていくことに繋がるものである。
このリード役を今後も連合を中心に労働組合が一丸となって、名実ともに担っていくことを強く期待するところである。また、3月12日の「政労使の意見交換」(政労使会議)で石破首相は「官民の連携が実を結んできている。中小企業や小規模企業の賃上げに向け政策を総動員する」併せて、「下請代金法と下請振興法の改正案の早期成立を目指す」と述べ、労使団体や各省庁に協力を呼びかけた。もとより、賃上げは当該労使が主体的に実施するものであるが、政府・行政として政策・制度の実効ある実践を強く求めたい。
以上、今春闘のヒアリング概要及び先行組合の交渉結果と今後の課題(考察)を述べたが、労ペンとしては、今後も参加者の拡大や実効性を高める取り組みを進めるとともに、本年秋には初めての取り組みであるが、春闘の総括ヒアリングを代表的な産別を対象に実施する予定である。




25春闘ヒアリング参加者数
(前期分)
組織名 | 講師 | 時間 | 参加申し込み | 実参加者数 | 前年実績 |
---|---|---|---|---|---|
1・全国ユニオン | 鈴木剛委員長 | 2月17日(月)午前10時半―正午 | 18 | 17 | 15 |
2・連合 | 芳野友子会長 | 2月17日(月)午後1時半―3時 | 32 | 30 | 28 |
3・基幹労連 | 津村正男委員長 | 2月18日(火)午後3時=4時 | 18 | 16 | 16 |
4・運輸労連 | 成田幸隆委員長 | 2月19日(水)午前10時半―正午 | 14 | 13 | 14 |
5・UAゼンセン | 永島智子会長 | 2月25日(火)午後2時―3時半 | 27 | 25 | 16 |
6・経団連 | 新田秀司労働政策本部長 | 2月26日(水)午前10時半-正午 | 31 | 29 | 23 |
7・全労連 | 秋山正臣議長 | 2月26日(水)午後1時-2時半 | 22 | 17 | 19 |
8・情報労連 | 安藤京一委員長 | 2月27日(木)午後1時半―3時 | 21 | 17 | 14 |
(後期分)
組織名 | 講師 | 時間 | 参加申し込み | 実参加者数 | 前年実績 |
---|---|---|---|---|---|
電力総連 | 片山修事務局長 | 3月3日(月)14:00~15:00 | 16 | 15 | 6 |
JAM | 安河内賢弘会長 | 3月3日(月)16:00~17:00 | 25 | 23 | 23 |
レク後「懇親会」同5時半―7時 | 18 | 17 | |||
自動車総連 | 金子晃浩会長 | 3月4日(火)14:00~15:00 | 20 | 18 | 19 |
電機連合 | 神保政史会長 | 3月5日(水)13:30~14:30 | 23 | 21 | 24 |
合計 | 267 | 241 | 217 |