ヒヤリング

労働組合機能への期待

2018/05/24

 

連帯社会インスティテュート紹介をかねて

法政大学教授 中村 圭介氏

5月24日のヒアリングには、現在は法政大学の社会人向け(正規) 大学院である連帯社会インスティテュートの中村圭介教授においでいただいた。中村先生は東京大学社会科学研究所の教授を早目に退かれて、設立構想段階からこの社会人大学院に関わってこられた。この大学院ではすでに卒業生(修士コース)を2期21名出しており、現在は20名が在籍している。労働組合、生協、NPOのそれぞれのコースは一体的に運営されている。

本講演では、氏原正治郎先生以来の束大社研の労働組合実証調査の伝統をふまえ、今日的課題のひとつとして、最近手がけられた「地域協議会の現状について」を中心にお話しいただいた。中村先生は、これまで『日本のソフトウエア産業-経営と技術者』『日本の職場と生産システム』『トヨタとフォルクスワーゲンの人事システム』『地域経済の再生-釜石からのメッセージ』などの広い分野にわたる個別実証研究を相次いで公刊されている。また、連合総研等で産業別労働組合の機能、地域社会での労働組合活動について、継続的な調査研究を手がけてこられている。主張や論理が前に出がちなこの分野の著書・研究とはかなり違って、意図的に実証研究にこだわり、調査データの数字、実地調査のケースを示すことで今日の労働組合の役割を語らせる、というのが中村先生の手法である。客観分析に徹することで、かえって現在日本の労働組合の大切な役割、社会の強い期待が示されているように思う。

今回の調査は、47の地方連合会、281の地域協議会を対象にしたものである。連合関係の専従役職員数でみても、地方連合会418 名、地域協議会537名、計955名(他に連合本部に約130人)ということであり、これだけの全国規模の社会活動団体は多くはなく、地域社会にとって貴重な存在となっているはずである。その活動状況を、「何を行っているか」、別言すれば何がやれていないかを明らかにした。活動状況をおおまかに三段階(「積極的」、「やや積極的」、「いま少し」)に分けて調査された。すると、8割以上の地域組織は自らの発言力、交渉力を高める活動として地域行政への政策提言(首長への申入れを含め)、選挙活動、街頭宣伝活動に取り組んでいる。また中小労組支援や共済機能の推進を日常的に行うのは3-8割。他方、非正規労働者対策、まちづくり、地域ミニマム運動などを通じた地域賃金相場の形成ということや、専門家、NPO・ボランティアとのネットワークの構築、地協専従後継者の育成までも行えているのは、まだ3割未満という現状も明らかになった。堅実な活動が根づいているともいえるし、やれること、やるべき課題も残っていることが明らかになったわけだ。会員からは自らの活動経験からの意見や、地域の労働組合活動が静かな革命として進行しているところもあるとの見方もだされた。組合活動とはまずは「人に会って話すこと」、メール発信だけでなく紙媒体(機関紙)の重要さも指摘していただいた。

(井上定彦)

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