労働遺産

2024年度 労働遺産認定に2件内定

2025/03/03

 
(会報222号=24年12月10日号から転載)

24年10月24日、労働遺産認定委員会は、本年度に労働遺産認定の申請のあった「日本の近代的労働運動の先駆者が残した『友愛会綱領』及びその関連資料」および「安全衛生運動のあけぼのの記録」について、幹事会に対し認定を推薦する答申を行った。これを受けて幹事会は、来年1月9日開催の労ペン総会において、2件の労働遺産認定を提案することを決定した。2件の概要は以下のとおり。

日本の近代的労働運動の先駆者が残した『友愛会綱領』及びその関連資料

近代日本労働運動の黎明期に豊かな人間性と強力な指導力を発揮し「日本労働運動の父」と仰がれる鈴木文治は10歳でキリスト教の洗礼を受け、のちにユニテリアン教会幹事として勤務する傍ら友愛会を設立した。鈴木文治の郷里宮城県金成村(現・栗原市)で文治が学んだ旧金成小学校の校舎は当時のまま残っており、金成歴史民俗資料館となっているが、そこには鈴木文治のコーナーがあり、友愛会綱領の巻物や友愛会創立時のチラシ、1921年に友愛会が日本労働総同盟に改称した際に作り直された綱領等が展示されている。また金成上町にある鈴木文治生家の跡地には、1967年に建立された片山哲元総理の筆による「鈴木文治ここに生る」の碑がある。鈴木文治は著書「労働運動二十年」のなかで、幼年時代にキリスト教の雰囲気のなかで育ったことが、労働運動を起こしたことにつながっていると記述しているが、金成にはハリストス正教会が今も残っており、文治の育った環境を知ることができる。現物資料と併せて、金成地区を訪れ、鈴木文治の生い立ちを知ることで、近代日本の労働運動の先達がどのようにして友愛会を創立し、労働運動を指導してきたかを学ぶことができる。

安全衛生運動のあけぼのの記録

銅の採掘と製錬技術の調査のため訪米した古河合名会社足尾鉱業所の小田川全之所長は、全米を風靡していた「セーフティ・ファースト」の考え方を持ち帰り、「安全専一(あんぜんせんいち)」と翻訳して1912年より鉱業所で安全運動を推進した。「安全専一」と記した赤い楕円形のホーロー製標示板を各所に掲げ、1915年には『安全専一』と名付けた冊子を安全の心得として従業員に配布した。中災防編『安全衛生運動史』では、「安全専一」運動を「わが国産業界における自主的な安全運動の創始」と高く評価している。同社の後身の古河機械金属株式会社は2020年、「安全専一」の商標登録を行った。

前逓信省管理局長の内田嘉吉は渡米中、「SAFETY FIRST」の文字が氾濫していることに強い関心を抱き、1916年の帰国後は「安全第一」の宣伝を開始、東京電気(現・東芝)で安全運動を推進していた蒲生俊文などとともに1917年に「安全第一協会」を設立した。逓信次官となっていた内田が会長、蒲生などが理事となり、講演会の開催、機関誌『安全第一』の発行を通じて、安全第一主義の普及活動を行った。『安全第一』誌は、1917年4月から1919年3月まで24回発行され、2024年、蒲生の孫の蒲生俊敬氏から、原本が労働政策研究・研修機構労働図書館に寄贈された。

(労働遺産事務局・浅井茂利)

  
 

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