2025/02/17
金属労協顧問・弁護士 加藤裕治氏
(会報222号=24年12月10日号から転載)
24年10月14日から19日の日程で組まれた韓国視察団に参加した。外国人労働者に対する雇用許可制の実態を知るのが目的であった。日本の外国人研修制度が、制度の本旨が見えなくなり、多くの産業での労働者不足に対応できていない現状で、どう進んでいけばいいのか。そのヒントが見えるかもしれないとの期待をもって臨ませていただいた。雇用労働省はじめ12の団体、機関のヒアリングを行ってきた。雇用許可制は2004年に導入されたものであり、今年の招聘外国人の予定数は16万5千人であること、農林漁業、造船、建設など、重筋・3K労働分野に限られているものの、当面の労働者不足をかなりカバーできているようであること、また、政府及び認定機関のコントロール下にあることで、ブローカーの暗躍や不法滞在者については根絶できてないまでもある程度抑えられており、問題はありながらもこれまでのところは機能しているという印象を持った。タテマエと本音が乖離したまま微修正を重ねているだけの日本政府の外国人労働者政策からみるとトラック半周は先を走っているというのが率直な感想である。
筆者は2008年まで金属労協の議長を務めていたので、韓国労総とのお付き合いが長く、韓国の労働事情は理解していたつもりであった。しかし、今回の20年ぶりの訪韓で雇用許可制の現状のほかに、知ることとなった二つの現実は、日本の労働組合が学ぶべき点と思われたので、そのことに触れておきたい。
第1点は、基幹産業の労働者の賃金水準は明確に日本を超えているという点である。先進国の賃金水準が日本の2倍である現実はすでに知られている。しかし、韓国においても年々の春闘で日本をはるかに凌駕する賃上げを実現し、もう日本は超えられてしまったのである。これにより、韓国における中小企業の賃金レベルも同じように高くなっていくはずであるから、この先、外国で稼ぎたい労働者にとって、日本より韓国の方が魅力のある国になっていくであろう。そうなると、ベトナムやカンボジアなどから毎年100万人オーダーの外国人供給があるとしても、その市場で日本は見向きもされなくなり、人が取れなくなる日が迫っているということである。
第2点は、年功序列賃金についてである。韓国は、日本と同じく賃金は年功序列制である。日本では労働組合が柔軟に対応してきたこともあり、中高齢層以上の賃金はすでに年功的ではない。そして法制度にも後押しされ高齢者雇用はある程度うまくいっている。ところが、韓国では年功序列の修正がされていないらしく、高齢者の肩たたきが横行し、働き場のない高齢者が増えているとのこと。失業問題は韓国では若者層だけの問題ではなかった。韓国労総では今後高齢者と女性の雇用増の取組みを強化していくようである。年功的な考え方の修正は急速に行われると見た。日本では年功序列制は相当崩れてきているとはいえ、労組は、未だ年功を前提に横断的に定昇、物昇ベースで賃上げに取り組んでいるため賃金の停滞が続いている。外国人労働者を韓国に取り負けないためにも、今こそ労組は生産性向上分の要求が堂々とできる職務給の考え方を導入し、現状の倍以上の賃上げに取り組むべきである。韓国の現実対応力に学ばなければアジアでの位置づけはずるずる後退していくだろう。