会員セミナー

「70歳就業時代の雇用・賃金改革」(会報212号=22年5月25日号から転載)

2022/10/03

 
講師、笹島芳雄・明治学院大名誉教授

4月28日、コロナ禍の中、久しぶりに対面式で会員セミナーが開催された(参加者は講師含め26人)。今回の講師は、昨年11月に書籍「70歳就業時代の雇用・賃金改革」を著された笹島芳雄氏である。

笹島氏は、まず、①我が国では、労働力人口の高齢化が急速に進行しつつあるが、その高齢者は体力や就労意欲が高く、職業能力水準が極めて高いこと、一方、②公的年金の支給水準や個人貯蓄の状況等の経済的理由から、働かざるを得ない高齢者が増加しつつあること、③そのため、一昨年高年齢者雇用安定法の改正が行われ、昨年4月から、これまでの65歳までの雇用確保の義務に加え、定年の引き上げ、継続雇用制度の拡大等による70歳までの就業確保が努力義務として定められたことを説明した。

そして、これまでの65歳までの雇用確保の義務については、「60歳定年制+65歳まで再雇用」という方法が広く行われてきており、70歳までの就業確保についても、再雇用期間の70歳までの延長等同様の方法が広がりつつあるが、この方法では、再雇用後には同じ業務に従事しても賃金がかなり低下することなどから再雇用制度を利用しない者も多く、高齢労働力の活用方法としては不十分であるとし、今後は、65歳までの定年の引上げ=「65歳定年制」の普及を目指すのが望ましいと強調した。特に、昨年公務員について法改正が行われ、65歳定年制が段階的に実施されることとなったことから、この「65歳定年制」は、週休二日制の普及のときと同様に、まず、教育、医療などの公務員以外の労働者に大きな影響を与えるものと考えられるとした。

そして、その「65歳定年制」については、60歳から65歳までの賃金制度の在り方により、「全社員統一型65歳定年制」と「高齢者分離型65歳定年制」の2つのタイプが考えられるが、高齢者の能力の活用や就労意欲等からすると、前者の方が好ましいと説明した。

さらに、笹島氏は、65歳定年制の場合を含むこれからの賃金制度の在り方について、仕事の内容(難易度、責任の程度等)によって賃金が決定される「ジョブ型賃金制度」が望ましく、この賃金制度は、特に、定年後の賃金の大幅な低下、男女間の賃金格差、正社員・非正社員間の賃金差別、年齢別の生産力(生産性)と賃金の乖離等の問題の解消に役立つのではないかとし、これからは一層、「ジョブ型賃金制度」の普及拡大を目指すべきであると強調した。
なお、全社員統一型65歳定年制を採用した場合の賃金体系(基本型)としては、①社員の能力形成期(入社後30~35歳位まで)は職務給又は職能給、②能力成熟期(40~50歳位まで)は職務給又は職能給+職務給、③能力完成期(65歳まで)は職務給という体系が考えられるとしている。

以上のような笹島氏の説明に対し、参加者から、①ジョブ型賃金制度は高齢者の雇用の促進や適正な処遇の確保に本当に役立つのか、②労働者や労働組合の立場からみたとき、ジョブ型賃金制度はメリットがあるのか等の質問が出された。

これに対し、笹島氏は、①ジョブ型賃金制度の下でも、高齢者は、加齢に伴う知識、技能等の能力の低下により賃金が低下するおそれがあり、これに対処するには、高齢者自身がその能力を維持・向上させるよう努力することが必要で、それを行っていれば賃金の低下をある程度抑制することができる、②ジョブ型賃金制度は、具体的な設計・運用の場面ではいろいろ困難な問題があるとしても、前述のとおり様々な賃金格差等の問題の解消にも役立ち、労働者全体からみたとき望ましいものであると思う等と答えた。

高齢者の70歳までの就業確保や高齢者を含む労働者の賃金制度の在り方は、現在、特に関心の高い問題であり、笹島氏の講演は大変有意義なものであったと思う(氣賀澤克己)。

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