会員セミナー

ロシアのウクライナ侵攻と世界経済(会報213号=22年9月25日付から転載)

2022/10/03

 
講師 小林 良暢氏

6月30日、グローバル産業雇用総合研究所長の小林良暢会員を講師として、対面式の会員セミナーが開催された(参加者は講師含め12人)。標記テーマの下、講師が掲げたサブテーマは、~プーチン「核大国」VS東欧の「IT先進国」―どっちに勝機があるか~だった。 当日、都心の最高気温は36.4度で、東京初の「熱中症警戒アラート」が発令された。外気同様に講師は熱く語ったが、その概要を筆者の感想も交えて紹介する。

講演は、まずウクライナやロシア帝国の歴史的経緯の説明から始まった。プーチンが、ウクライナはロシアの一部だと強弁するくらい、あの辺りは境界が曖昧なまま古くから民族、王朝、宗教が交錯し、長く帝国主義支配の狭間になっていたようだ。

ウクライナに対する筆者の認識は「ヨーロッパの穀倉地帯」程度だったが、今や「東欧のシリコンバレー」だという。ウクライナの人口は4159万人で、IT人材が24万人以上いる。IT企業は5000社を超え、技術者のスキル水準が高く、英語も通じることから海外から開発を受注している。高度な理系人材を輩出するキーウ工科大学があり、高い教育水準の出身者がIT企業を支えている。
ウクライナのIT企業は、クラウドサービスやビッグデータ、サイバーセキュリティ、AIなどで世界の最先端を担っている。世界中のSEが日常的に使っているコンピュータソフトには、ウクライナ発が少なくないそうだ。

ただし、IT業態の70%が海外大手IT企業からのアウトソーシング、つまり下請けで、受託業務は必ずしもフルスペックでなく、単価も安い。SEの平均年収は米国の4分の1、ドイツの2分の1である。技術が高く賃金は低いのが売りで、ソフトウエアの「世界の工場」になっている。ウクライナが自立的なIT立国を目指すなら、西側周辺国との連携を深め、西の国々でさらにITの力を発揮していくことが必要だ、と講師は強調する。

ところで、ロシアの侵略による世界経済への影響は、エネルギー価格や穀物価格の高騰に顕著であり、今後の世界経済の悪化は必至だろうと、筆者なりに考える。 ただ、後半の質疑応答では、世界経済への影響より、侵略戦争は終結するのか、いつどういう形で終結するか、という面に焦点が当たっていた。議論を拝聴すると、プーチンは悪、ウクライナは善といった単純な図式では、この侵略戦争は理解できないようである。
NATOは新戦略概念で、ロシアの位置づけを「パートナー」から「最も重大で直接的な脅威」へ転換した。NATO加盟諸国は軍事面での支援を継続できるのか、ロシアは経済制裁に対抗できるのか。消耗戦の様相を呈していて、戦争は長期化する恐れがある。
最後に、冒頭に示したサブテーマに関して、「どっちに勝機があるのでしょうか」と筆者が質問したところ、「ウクライナが耐えきる」と講師は答えた。

(谷田部光一)

ウクライナ問題で熱弁を振るう小林良暢さんウクライナ問題で熱弁を振るう小林良暢さん

ウクライナ問題で熱弁を振るう小林良暢さん

  
 

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