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労働運動のこれまでと未来(会報213号=22年9月25日付から転載)

2022/10/03

 
講師 神津里季生氏

「連合の存在をひろく知ってもらうことに力を入れてきた。連合と自分たちとは多くの関わりがあるという意識を持ってもらうことが大切だ」。昨秋、連合の会長を退任した神津里季生さんは、こんな思いで労働組合のトップリーダーを務めてきたという。(7月7日、リアル開催、出席者37人)。

前任の事務局長時代に知名度を調べたら、「名前を知っている」が三分の一。2年経って調査したら半分ぐらいになったともいう。
大戦中は、戦時の支えとなった産業報国会体制で労も使も結束し、戦後はGHQの奨励により労働組合が雨後の竹の子の如く出現。組織としての意思疎通は自然の成り行きだった。そうした歴史的背景から、組合は‶与えられた〟ものとの意識が無きにしもあらず。神津さんは労働運動の前提として‶自分の労働組合〟との意識を持ってもらうことが重要という。

神津さんが指摘する社会の実態と課題は重いものばかり。1,000兆円を超えてなお積みあがる財政赤字や、将来構想を欠いた社会保障制度と税制、変化が激しい雇用構造、脆弱なセーフティネットなど。日本全体の労働組合組織率は17.1%だが、従業員99人以下企業では99.1%が未組織で、集団的労使関係は無に等しい。非正規雇用はこの20年で倍増し2,000万人超。「職場に不満があれば転職するほうがよい」という若者がここ5年間で増加(総理府調査)。合計特殊出生率1.36(2019年)が続くと約90年で人口が三分の一減少するという(連合本部研究会)。これらデータを踏まえて、社会的セーフティネットの拡充が喫緊の課題という。

労働組合の〝本業〟賃金と雇用についてはどうか。賃上げが低い結果に終わるのは組合が要求を抑えているからとの見方が多い。神津さんは「要求を高く掲げて賃上げが可能なら簡単なこと。労使が真摯な交渉を経てそれなりの賃上げができている」という。〝官製春闘〟という言い方は極めて失礼という。賃金交渉や雇用などで組合が経営側に抵抗できないのは‶企業別組合゛という構造に問題があるのではというかねてからの議論がある。神津さんは、「どう仲間を増やすか、雇用を守れるか、そんな課題に対処するのに欧米の組合のかたちに頼って可能かどうか」と疑問視する。

神津さんは政労使三者構成による会合を提案する。かつて三者会議で、生産性、中小企業問題、非正規雇用について議論したことがあった。会議を再開し、セーフティネットなどを議論する本当の意味での政労使の社会対話が必要という。70年代、政府と労使団体の首脳が定期的に会談する産業労働懇和会(産労懇)があった。使用者代表の中心だった日経連が経団連との統合で姿を消したこともあり、立ち消えになった。それだけに、安心社会の構築のため、社会改革の有力な担い手として、連合の国政への関与に期待がかかる。神津さんは、「幻想を追うことなく、現実を見据え、未来に向かって挑戦を続けることが大切」と語った。

(横舘久宣)

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