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官にもワーキングプア

2018/10/25

 

-ソウル市では先駆的取り組み

白石 孝氏

10月25日、NPO法人「官製ワーキングプア研究会」の白石孝理事長から話を聞いた。氏は荒川区職員労組書記長時代から、区役所内で増加する非正規職員(再任用、非常勤、臨時、派遺)、さらに、区の委託先の非正規労働者の劣悪な処遇と格差の改善、そのための組織化に取り組まれ、一定の成果は上げたが、大きな壁があったという。

まず、職員組合内に、非正規は自分たちの雇用と処遇を守るために必要なものであり、それをなくすような活動に反対という根深い意識。これは民間大労組にもある壁だが、さらに、官公労働には、使用者=納税者=選挙民という構図から来る、議会の圧力、マスコミの公務員バッシングが加わる。これらに抗して労働者を守るのが労働組合であるはずが、前述の如き実態。加えて公務員法体系による労働法制の分断(「働き方改革法」も非適用)。これらが、「官製ワーキングプア」、「絶望的格差」を生み出すという。

白石氏は労働組合運動の限界を感じ、労働組合に加入していない労働者83%のための労働運動・社会運動の必要性を感じ、彼らの駆け込み寺、調査・告発の拠点として、NPO法人を立ち上げられた。

この課題については、民主化後の韓国(特にソウル市)の労働政策が大変参考になると紹介された。

2011年にソウル市長選で朴元淳民主派統一候補は公務部門の非正規労働者の正規化を3大公約のひとつにして当選した。「労働尊重市の労働政策」=直接雇用非正規職の無期転換と処遇改善。生活賃金制の導入。業務請負の公契約規制。

2017年、民主派政権・文在演大統領の誕生。「ともに豊かな経済」=最低賃金の引上げ。非正規職縮小のロードマップ。税制改革(累進税率引上げ、資産税導入、法人税引上げ)等。所得主導の成長政策へ。

日本のマスコミではほとんど報道されないのが残念(詳しくは白石孝編著「ソウルの市民民主主義」コモンズ刊を)という。

(岡山 茂)

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「フィンテク」と消費者保護

2018/09/20

 
楠本 くに代氏

9月20日のアフター5は、楠本くに代会員(金融消費者問題研究所代表)から「フィンテクと消費者保護」について話を聞いた。

フィンテクとは、金融(ファイナンス)と、技術(テクノロジーを組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結び付けた、様々な革新的な動きのことである。(日銀の広報より)

講師は、問題が野放しであり、放置しておくと消費者が大きな被害にあう、早急に保護策を取るべきだとして、EU、英国、米国の動向を調べて、わが国でも適切な対策を打つことを主張する。

フィンテクを使った金融商品、サービスは多岐にわたり、ここで詳しく紹介するスペースのないのが残念だが、最近は、マウントゴックス、コインチェック、米国のD AO事件等、巨額の仮想通貨がハッカー等によって、抜き取られるケースが世を騒がしている。

フィンテクには、管理者がいない、労働者がいない、誰を訴えるのかも定かでない。現在の法体系はDAO(分散自立型組織)を想定していない。世界中で、社会が大きな転換点に突入しようとしているのに、法体系は後追いだけで対処しようとしているように見える。

楠本講師には、主として消費者保護に焦点を当てて説明していただいたが、そもそも、フィンテクというような、管理者のいない、労働者のいない、組織、金融商品に対して、国としての管理の基本ができていないことが、混乱を大きくしているように見える。

フィンテクは、自律的にどんどん発展していく性格のものである。主体は人間にあること、想定される企業活動をコントロールすること、消費者保護の仕組みを併せ持つこと、これらを世界レベルで取り組んでいくことが必要だと、講師の話を聞いて痛感した次第である。

(森下 一乗)

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中国における情報統制と労働NGO弾圧

2018/07/20

 
石井 知章氏

7月20日、会員の石井知章さんにより「最近の中国事情」について、実体験も踏まえた貴重な話を聞くことができた。石井さんは、中国政治を専門分野とする明治大学教授で、1年間の研究休暇を得て、コロンビア大学の客員研究員として籍を置き、研究され最近帰国された。印象に残った話は、次のとおりである。

①中国研究者と情報のやり取りをしているが、最近は、情報が届かないし、ウイルスメールにも悩まされていて、研究が困難になっている。

②労働NGOの研究を5年間やっているが、最近は、NGOが弾圧され、逮捕されたりして消えつつある。NGOは、農民工の組織化を支援しており、影響は大きい。しかし、農民工自身が立ち上がっているところもある。

③中国の非正規労働者といえば、自分は農民工の問題と捉えているが、中国ではデジタル経済化の中で急拡大してきたプラットフォーム経済の中でのいわゆる白タクドライバーの労働者性などを論じて、むしろ自分たちはこの分野で先端をいっていると自負したりしている。

④しかし、米中貿易衝突の影響で、権力構造に異変が起きているという報道がある。サンケイニュースは、8月上旬にも始まる中国共産党の重要会議「北戴河会議」で習指導部への批判が集中する可能性に言及している。また、香港英字紙は、「米中貿易摩擦で効果的な手を打てない習氏は、体制発足後最大の試練を迎えた」とみている。

⑤自分としては、中国の社会主義体制がなくなるとは考えないが、修正を求められていくのではないかと思う。

(藤井紀代子)

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民間の人材紹介と職安法改正

2018/06/22

 
岸 健二氏

6月22日、会員である岸健二さん(日本人材紹介事業協会相談室長)から話を聞いた。岸さんは百貨店で法務、総務、人事畑を歩んだ後、人材紹介業界に入り、自らも事業経験があるが、長く業界団体の中で現場のさまざまな問題に取り組み、この分野の実態をよく知る専門家である。労ペンの会員にとってなじみの薄いテーマについて、大部の資料に基づき、わかりやすく解説していただいた。

職業紹介事業の歴史や戦後の法制度の変遷から話は始まったが、話の中心は昨年の職業安定法の改正であった。労働基準法などと違い、職業安定法は世の中の関心がやや薄かったが、昨年の法改正は大きなものであった。ブラック企業に若者などが入らないように、職業紹介事業者は、一定の労働基準関係法令違反の求人者による求人を受理しないことができることになった。求職者や求人者が適切な業者を選択できるように、職業紹介事業者に紹介実績などに関する情報提供を義務づけるなどの改正も行われた。また、規制の対象が求人者や求人情報誌などに拡大されたことも大きい。

民間職業紹介事業は拡大しつつある。労働者のニーズや働き方、雇用形態が多様化し、転職や兼業が増えていくことが背景にあるだろう。今後も、国外にわたる職業紹介やウーバーや在宅ワークなど雇用類似の仕事の紹介などの新しい分野も出てきており、民間職業紹介事業の重要性がますます高まることを感じた。

(長谷川真一)

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低賃金、人権侵害の技能実習生問題に取り組む

2018/05/21

 
小山 正樹氏

5月21日、JAM参与の小山正樹さんから「外国人技能実習制度と日本の移民政策」と題する話を聞いた。小山さんは2002年に「在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)を結成、参与になった今もミャンマーの技能実習生からの労働相談を受け、全国を飛び回っている。労働相談の大半が解雇、未払い賃金、残業代未払いで会社相手と交渉し、解決に結びつけている。外国人技能実習制度は昨年11月に実習生保護策を強めた外国人技能実習法が施行されたが、小山さんの報告からは相も変わらぬ違法行為や人権侵害が続いている実態が浮き彫りになった。

小山さんはこの間取り組んだ事例を4つ取り上げた。いずれも縫製業の零細企業。未払い賃金交渉では、支払い能力のない破綻企業となり、解決金に結びつけるだけでも大変なケースが少なくないという。賃金は最低賃金ギリギリ、銀行振り込みにせず現金払いにして賃金明細は出さないなど証拠を残さない手口が徹底している。また、高額な家賃等を賃金から天引きしていることも多いという。不満を口にすると強制帰国をちらつかせ、休日でも自由な外出をさせないといった人権侵害も少なくない。また、多額の借金をして、送り出し機関に手数料を払って入国していることも事態を悪くさせていると指摘した。

最後に、政府内で進んでいる外国人労働者受け入れ論議について、惣菜部門で実習生が弁当を作り、コンビニのレジは留学生というように、外国人労働者が日本の産業を支えている。「外国人労働者の受け入れは、低賃金労働の中小企業で成り立つサプライチェーンの実態を変えることができるかがポイント」と指摘した。

(蜂谷 隆)

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