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構造転換が顕在化した18春闘 働く人全体の環境整備が課題

2018年5月28日

 
荻野 登

賃金改善やベースアップという実質的な賃上げが2014年の春闘から復活して、今年で5年日となった。これまでの推移をみると、随所で春闘の構造転換が顕在化したといえそうだ。安倍首相が3%の賃上げを経済界に要請していたため、賃上げの水準に関心が集まった。その一方、交渉スタート時とほぼ同じく開会した通常国会が「働き方改革国会」と命名されたことで、従来にも増して注目度が高い春闘となった。

不在のパターンセッター

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金属労協が設定した3月14日の集中回答日に示された金属大手での賃上げ分の獲得額が過去3年間で最も高い水準となったが、それ以降も全般的には昨年を上回る回答・妥結水準で推移している。ただし、相場形成面において、昨年あたりから生じていた、大手から中小企業・非正規労働者への波及システムの構造転換がより顕在化した。その変化を示す最大の異変は、パターンセッター役の不在で、それが今春闘ではより鮮明になった。

また、人手不足が足元での最大課題であることから、雇用形態によらず、職場で働く人すべてを射程に入れた交渉・協議が進展したことも大きな特徴といえる。

トヨタからの引き算春聞の終焉

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労働側は、賃金の引き上げによる個人消費の喚起と、「人への投資」の観点から、月例賃金引き上げにこだわった。一方、企業側は一時金などを含めた年収ベースで1人当たり平均3%相当の原資の投入を目安とした。この相違が、最終局面まで相場感が浮揚してこなかった背景にある。

しかし、今年の相場感の不透明さで、最も大きなインパクトをもたらしたのが、トヨタ自動車が妥結した正社員の賃金改善額を非公表としたことだろう。トヨタ自動車労組が上部団体に報告した内容は「一般組合員の賃金改善分は昨年を上回る」だが、金額は非公表(昨年1300円)、企業サイドの回答表示は「『人への投資』も含め一般組合員、スキルドパートナー、パートタイマー、シニア期間従業員併せて1万1700円」となっている。

回答後、同社の上田達郎専務役員が賃金改善分を非公表とした理由を「『トヨタ・マイナス・アルファ』からの脱却」と語った。1970年代後半から賃上げ交渉のパターンセッターが、鉄鋼から自動車に移り、トヨタ自動車の回答が天井相場となる時代が長年続いてきた。しかし、今回、賃金改善分の額を示さなかったことで、「トヨタ・マイナス・アルファ」という賃上げ相場波及の図式が崩れることになった。

また、同一産業内でも、"横にらみ"の意識が薄れ、各企業の置かれた状況を反映した回答が昨年にも増して目立つ。加えて、同一企業グループ内でも親会社を上回るベア回答が示されるケースも増えている。こうした動きも、春闘の構造転換の一端を示している。

非製造系で金属上回る回答も

これまでの賃上げ回答の分布を大まかに見ると、金属大手では、おおむね1000~1500円の幅に回答が集中する一方、非製造系企業では2000円前後の回答が目につく。UAゼンセン傘下の先行グループでは、第一のヤマ場終了時の賃上げ回答(124組合)は、定昇相当分を含めて単純平均で7417円(2.50%)となり、金属関連の引き上げ水準を上回っている。また、NTTグループでも平均1800円で妥結しており、電機連合の中闘組合、トヨタ自動車の回答を上回っている。

中小・非正規で積極的な賃上げ

中小企業における積極的な賃上げも、近年の春闘の構造変化を象徴する動きである。昨年の春闘では、中小が大手の賃上げ率を上回る状況が見受けられたが、そのトレンドが昨年以上に加速している。

また、組合員の過半数がパートなどの短時間労働者が占めるUAゼンセンの妥結状況を見ると、パート1人当たりの引き上げ率(加重平均2.82%)が、3年連続で正社員(同2.40%)を上回っている。こうした積極的な賃上げの背景には人手不足が大きく影響している。非正規労働者の処遇改善については、「同一労働同一賃金」の法制化に向けた動きが追い風になっており、これまでの正社員の処遇改善が中心だった企業内の分配構造にも大きな変化の波が押し寄せていることがうかがえる。

先取り・先送りされた「課題」

働き方改革関連法案に含まれている長時間労働の是正に関連する法改正を先取りした交渉・協議が進展したことも、今春闘を特徴づける動きだといえる。連合のまとめ(4月6日時点)によると、36協定の点検や見直しについて、1388件の要求・取り組みがあり、回答・妥結は618件となっている。 一方、先送りされた課題もある。 65歳への定年延長を視野に入れた協議は一部で進んだものの、今季の交渉で合意に至ったところは極めて限られている。定年延長を視野に入れると、賃金制度の再設計が避けられないことも、協議が進まない背景にありそうだ。

限りある人材を活用するため、働く人全体に関わる環境を整えることが、春闘における重要な交渉事項となっている。今季交渉を通じて、このことがあらためて浮き彫りになったといえる。

  

働き方を自ら選択できる社会に 同一労働同一賃金 日本でも導入可能

2018年2月28日

 

――加藤勝信厚生労働大臣インタビュー

今国会の最大の焦点のひとつである「働き方改革」について、加藤勝信厚生労働大臣に改革の狙いや進め方などを聞いた。改革への思いについて加藤厚労相は「大事なことは働く人が自分の状況に応じて自ら働き方を選択できる社会にしていくことだ」と述べた。(2017年12月22日、厚労省で。聞き手・稲葉康生、写真・麻生英明)

――まず働き方改革の狙いから、お聞きしたい。

厚労相 安倍政権の発足時、経済はデフレ下で停滞しており、デフレを脱却し経済を回復基調に乗せていこうとしてアベノミクスを実行し、かなり効果が出てきた。しかし、少子高齢化という壁が立ちはだかっており、その克服を図っていくためには、一人一人が力と思いを十二分に発揮できる社会、まさに一億総活躍社会を作っていく必要がある。

子育てや、親の介護をしながら働ける環境を作ることにより、働き続けることや新たに働き始めることが可能となる。それが働き手の確保や生産性の向上にもつながり、経済が成長し、将来への展望が開け、若い人たちが結婚し、子供を持ちたいと思える状況が生まれていくという流れを作ろうと考えている。 そのために最大の挑戦とも言える働き方改革を進め、多様な働き方を可能とする社会を作っていく必要がある。具体的には、2017年3月に長時間労働の是正、同一労働同一賃金などを柱とする働き方改革実行計画を策定した。

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――改革案では正規と非正規雇用労働者の格差是正が狙いだとあるが、具体的な進め方は。

厚労相 非正規雇用で働く人の割合は全雇用者の40%弱だが、そのうちいわゆる不本意非正規は16%くらい。正規として働きたい人はそれが叶うように、例えば研修の場を設けるなど、正規で働ける道筋をしっかりと作っていく必要がある。他方、様々な制約条件があることから非正規での働き方を選んでいる人も多くいる。正規と非正規の待遇の格差は欧州に比べて大きいこともあり、不合理な格差を是正し、働く人が納得した中で多様な働き方を選択できるようにしていきたい。

元々、日本は職能給で欧州のような職務給ではないので同一労働同一賃金は難しいとの声があり、実は私たちもそう認識していたのだが、独、仏の実情を調べたところ必ずしも同じ仕事をしているから同じ賃金ということではなく、労働の質、勤続年数など様々なことを勘案して合理的かどうかの判断をしていることが分かってきた。

そうであれば、日本の雇用慣行の下でも同一労働同一賃金の考え方を取り入れることができると考えた。そういう考え方に立って①パートや派遺、有期雇用労働者にかかわりなく不合理な待遇差の是正を図ること、②待遇差に関する企業の説明義務、③行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(ADR)を整備して労使紛争を解決することなどを内容とした法案要綱をまとめた。

――今回の改革については、労使間の訴訟が増える、使用者の脱法的な法規制逃れが増えるのではないかなどの指摘がある。労使双方への周知が大事だと考えるが。

厚労相 周知をしっかりと図っていくことは重要であり、必要な準備期間を確保していく必要はある。また、欧州がそうであったように日本でも判例の積み重ねによって精緻な形にしていくことになろう。最初からそうはいかないので、昨年、「同一労働同一賃金ガイドライン案」を公表し、具体的なイメージを示した。改正法が国会で通れば、今度は労働政策審議会に諮った上で、法律に基づくガイドラインを作ることになる。

――労組からは働き方は労使自治の問題であり、まずは労使合意が前提となるのではないかという声がある。

厚労相 改正法案においても、もちろん労使の話し合いが大前提だ。しかし、間題が起きて労使間で解決できないとなれば、訴訟になることもある。そうした中で判例などの積み重ねの下で新しい日本型の同一労働同一賃金の姿が作り上げられていくと思う。

――同一労働同一賃金が実現すれば、正規と非正規を区別する必要がなくなるのでは。

厚労相 全員がフル夕イムでの働き方を希望するということにはならないので、雇用形態としての正規・非正規の区別がなくなる訳ではないが、大事なことは働く人が自分の状況に応じて納得できる働き方を自ら選択できる社会にしていくことだ。

  
   
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